先日スーパーへ行ったら、春キャベツが安い値段で出回っていた。いよいよ春がやってくるのだ(暖冬の影響もあるのだろうけど)。市販のスープに人参・白菜・豚肉を入れただけのごま豆乳鍋を食べながら、ふとそのことを思い出し、折角だからキャベツを使ったレシピの1つでも新たに覚えようと思い立った。

 そうして、学生時代に買った簡単レシピ本を手に取ろうとした時、異変に気付いた。本がグショグショに濡れていたのである。

 「えっ?」と思いながら、周りに目をやって驚いた。レシピ本と同じ並びにあった本が、全てグショグショに濡れている。中にはページ同士がへばりつき、めくるにめくれない本や、表紙がつやつやと光り、気持ちの悪い水気を含んでいる本まである。とにかく、その一帯にあった本全てが、程度の差はあれ濡れていた。

 それは独房備え付けのクローゼットの最下段だった。したがって、漏水が原因ということはあり得ない。居住29ヶ月にして初めての事態であるから、湿気のせいとも考えにくい。もとより濡れ過ぎである。

 色々考えた結果、恐るべきことに、これは寝汗のせいらしいということがわかった。諸般の事情により、僕は2ヶ月前からマットレスを床に直に敷いて寝ている。どうやらそのマットレスが吸った寝汗や水分が、床の細い溝をつたってクローゼットの前へ流れ込み、そこから浸水が起こったらしい。僕が気付かないうちに、水はクローゼット最下段全体にじわじわ広がっていた。本を置いていたのと逆側に保管していた衣類ケースも、見事にやられている。中に入っていた衣類はしっかり濡れていた。まだ一度も使ったことのないタオルが、絞れるくらいに濡れている。わけのわからない話だが、悲しいかな現実だった。というか、どう考えても1日で吸える水分量じゃないし、どうなってんだまったく……

 ともあれ、暢気にレシピを考えている場合ではなくなった。とりあえず、クローゼット最下段に入っていたものを全て外に出した。衣類はとりあえず乾かし、本はページをめくれるか全て確かめた。ページがめくれなくなっていたものは、その場で処分の決定を下した。不幸中の幸いというべきか、そこは読んであまり印象に残らなかった本を入れておく場所だったから、お気に入りの本は被害を免れた。ただ、いつか読み返すかもしれないと思っていた簿記2級のテキストと、自動車の運転教本がオダブツになったのは、少々痛かった。それ以上に、仮にも読書を趣味と語る人間がこんな形で本を処分することになるのが、情けなくてならなかった。

 事件の大元になったマットレスは、とりあえず壁に立てかけ、乾かせるだけ乾かした。ロクに何も考えず、こいつを床に敷きっぱなしにしたのがそもそもの間違いだった。これからは毎朝干すなど対策を考えなければならない。

 とにかく散々な目に遭った。悪いのは自分だが、今更責めても仕方がない。やれやれと思いながら、がら空きになったクローゼットの最下段に新聞紙を敷き詰めた。それから、クックパッドのアプリをダウンロードした。キャベツを使った料理は、コイツで調べるしかない。