2月16日(日)、京都駅から西へ歩いて15分ほどのところにある「Rental
Space T7.5」という場所で、今月の京都・彩ふ読書会が開催された。というわけで、例によって、この読書会の様子を数回にわたり紹介しよう。
読書会は、①午前の部、②午後の部の二部構成で行われる。①午前の部は、参加者がそれぞれ好きな本を紹介し合う「推し本披露会」、②午後の部は、予め決められた課題本を読んできて、感想などを話し合う「課題本読書会」である。また、京都の彩ふ読書会では、午後の部終了後も会場を借りて、メンバー同士の交流の時間・通称「ヒミツキチ」の時間を設けている。一連の振り返りでは、各部の様子を時系列で見ていこうと思う。まずこの記事では、①午前の部=推し本披露会の模様を紹介しよう。
推し本披露会は、毎回10時40分ごろに始まり、12時過ぎまで続く。参加者は6~8名程度のグループに分かれて座り、簡単な自己紹介を行った後、グループの中で持ってきた本を紹介し合う。1時間ほど経ったところで、グループでの話し合いは終了し、続いて全体発表が行われる。全体発表は、自分のグループ以外の参加者にも持ってきた本を紹介するためのものである。全体発表の後、今後の読書会の予定や部活動などのお知らせを経て、読書会は終了となる。
今回は20名の参加者があり、グループを3つに分けて話し合いを行った。僕は会場入口に最も近いAグループで話し合いに参加した。メンバーは全部で7名。そのうち3名は初参加の男性で、あとは僕のほか、先月に続けて参加してくださった男性、参加5回目となる女性、純文学系の課題本になるとひょっこり現れる落ち着いた雰囲気のベテラン男性がメンバーだった。進行役は、最後に紹介したベテラン男性が務めてくださった。
紹介された推し本は写真の通りである。では、それぞれどんな本なのか、以下で詳しく見ていくことにしよう。
◆①『日の名残り』(カズオ・イシグロ)
進行役を務めてくださったベテラン男性からの推し本です。午後の部の課題本『わたしを離さないで』に絡めて、同じ作者の小説である『日の名残り』を紹介してくださいました。
ブッカー賞受賞作として本屋でもよく見かける本作は、とある執事を主人公にした物語です。舞台は1950年のイギリス。かつて仕えていた主人を亡くし、新たにアメリカ人の主人に仕える主人公が、20~30年前を振り返って語るという形で物語は進行します。主人公自身が老いていく姿と、大英帝国の名残で繁栄していたイギリスが大戦を機に没落し、アメリカに覇権を奪われていく様子とが重ね合わされながら、昔を懐かしむような語りが展開されるようです。
もっとも、男性によれば、この本はただの懐古趣味の本ではなく、作品としてのポイントは、抑制された世界の中での人間性の表し方だと言います。執事という感情を表に出さない職業に就いており、なおかつ自らの老いを感じ始めている主人公の静かな語りを通して描かれる、彼自身の、或いは他の登場人物たちの描写には目を見張るものがあるようです。話し合いの中で、プロ意識の強い主人公が仕事上のミスにより老いを感じるという冒頭のワンシーンが紹介されたのですが、そのシーンの話だけでも、凄い作品だなあと直感するものがありました。
よく目にしていながら手に取れていない作品だったので、内容が聞けて本当に良かったなあと思いました。
◆②『生きている兵隊』(石川達三)
先月に続けて参加してくださった男性からの推し本です。第1回芥川賞作家である石川達三が、戦争中の中国を訪れた時の体験をもとに書いたルポルタージュ的小説です。
戦争経験者であるご親族の話を聞きながら育ってきた男性にとって、戦争とはどういうものなのかを知ろうとすることは、1つの大きなテーマなのだそうです。まさに戦争のことを描いた本作を読みながら、男性は「人間ってこんなに残酷になれるのか」と感じ、また、「もし自分が同じ場所にいたらどうしただろう。同じことをしたんじゃないだろうか」と考えたと言います。一方で、タイトルが示すように、戦場にいる一人ひとりが「生きている」ことをひしひしと感じる文章だったとも話していました。
『生きている兵隊』が刊行されたのは戦時中のことで、当時の本にはかなり多くの伏字箇所があったようです。紹介していただいた本は「伏字復元版」となっており、元々伏字だった場所には傍線が引いてあるとのことでした。僕は最初「まあ時代を考えればそういうこともあるだろう」くらいに聞いていたのですが、ある参加者が「でも書かないんじゃなくて伏字で書いたのは凄く勇気がありますよね」と話すのを聞いてハッとしました。その通りですね。伏字を使いながら真実を書き(しかもそれがわかるようにしている!)、いつの日か本当に書きたかったことが明かされることを期待する。作者のそんな勇気と信念は、この日の気付きの中でも特に印象深いものになりました。
◆③『行商人に憧れてロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(春間豪太郎)
Aグループでは唯一だった女性参加者からの推し本です。ネット掲示板発、話題沸騰のリアルRPG風冒険譚をご紹介くださいました。
「職業:冒険家」である著者が、行方不明になった友人を探しにフィリピンに渡航したことをきっかけに海外旅行にハマった話から、その後エジプトへ行き、ラクダを買ったりロバを連れたりしながら砂漠の旅を続けた時の話までが綴られているそうです。行き当たりばったりの旅なのに、めげずにより辺鄙な所を目指そうとする彼の姿から、危ないことを気にしないでどんどん進んでいく姿勢を感じられたこと、それから、動物との絆が繰り返し描かれていたことの2点が特に印象的だったとのことでした。旅の終わりに動物たちと別れながら今生の別れを思ったという話などは、聞いているだけで胸に迫るものがありました。
話し合いの中では、「こういうチャレンジをしようとする人の心理はどんなものだろう」ということが話題にあがりました。僕は珍しくドライになって「こういうことができる人は深く考えたりしないんじゃないですか? ただただスリルを求めるみたいに」という話をしました。海外旅行経験を持つある参加者からは、「たぶんやむにやまれぬ事情があるわけじゃなく、お金があるからやっているんでしょうね」という考察が出ていました。
◆④『逢坂の六人』(周防柳)
初参加の男性からの推し本です。平安初期の特に秀でた歌人たちである六歌仙と、古今和歌集の編者である紀貫之との交流を描いた小説です。
物語は、大人になった紀貫之の話と、彼の少年時代の話を行き来しながら展開します。イタズラ心旺盛で空想癖もあった少年・紀貫之の元に在原業平がやって来て、貴族社会のあれこれを話して聞かせる姿が印象的だったと、紹介者の男性は話していました。子どもの頃に六歌仙の人たちと話ができたらどんなに面白かっただろう、そんなことを考えていたと言います。
六歌仙の歌人たちはそれぞれ謎に満ちた生涯を送っているため、想像を巡らせる余地が大きいのだろうなあと感じながら話を聞いていました。実際、『逢坂の六人』は、ところどころに史実を織り交ぜつつも、豊かな空想に彩られて展開する作品のようです。全体を通して、構成も文章も良く、知らない間に読んでしまう作品だと、男性は話していました。「まさに、読書の醍醐味を味わえる作品である」と。
◆⑤『三体』(劉慈欣)
初参加の男性からの推し本です。現在世界的ベストセラーになっているという中国のSF小説をご紹介くださいました。
この作品の良い所は、スケールがとてつもなく大きいところだと言います。最初は文化大革命の話から始まるのに、いつの間にか、人類と、人類を滅ぼそうとする“宇宙”の戦いの話になっているそうです。実際には、人類は“宇宙”に味方する者と、徹底抗戦を挑む者に分かれるので、戦いは三つ巴の様相を呈するのだとか。確かに、とんでもないスケールです。紹介者の男性は、この本を読んだ結果、「地球規模でものを考えるのがイヤになった」「日々の(小さな)悩みが全て吹っ飛んだ」と話していました。影響力もかなり大きいようです。
ちなみに、作品の中にVRが登場し、小説内小説が展開するなど、構成や設定は練りに練られているようです。また、往年のSFファンには嬉しいオマージュもそこかしこにちりばめられているのだとか。とはいえ、SFに詳しくなくても楽しめる作品になっているようです。
◆⑥『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スズキナオ)
わたくし・ひじきの推し本です。先日このブログでも少し紹介した、スズキナオさんのエッセイ集を紹介しました。
前にも書きましたが、この本はとにかく、日々の生活のすぐ傍に、面白いことの種は幾つもあるんだよということを教えてくれる本だなあと思います。友達の実家に上がり込んで“家系ラーメン”を食べる話、空いているのかわからない店に入って話を聞きながらラーメンを食べる話、スーパーの半額肉だけで焼肉パーティーをする話、唐揚げ1個レベルで厳密な割り勘をする飲み会の話、休日に動物園で飲み会をする話、ディズニーランドに入らずにその周辺を散策する話……どれもくだらないのだけれど、でもなんだか楽しそう。それがこの本に出てくる話全てに共通する魅力だと思います。
たこせんを食べるためだけに明石へ行き、そこから更に淡路島へ渡った時のことを書いた話が中盤で出てくるのですが、その中に、人生に1日くらい、たこせんのためだけに明石へ行く日があってもいいではないかというような一文が出てきます。とても印象に残り、「こんな考え方ができるようになりたいなあ」と思ったものでした。
◆⑦『転職の思考法』(北野唯我)
初参加の男性からの推し本です。
タイトルは『転職の思考法』となっていますが、この本のテーマは、会社選びのポイントや身に付けておくべきスキルなどではなく、自分に合った働き方を考えるための判断軸となるものの考え方です。作者は人間を、①やりたいことが明確で目標を立てて遂行しようとする「ToDo型」と、②やりたいことが特に定まっているわけではなくただ目の前のことを淡々とこなしてく「Being型」に類型化しています。紹介者の男性にとって印象的だったのは、この「Being型」の人間の話だったようです。自分が本当にやりたいことや明確な目標はなくてもいい。そういうものがない人は、とにかく自分がやって苦じゃないことを仕事にして、成功体験を積み重ねていけばいいんだ、という話を読んで目からウロコだったと話していました。確かに、やりたいことを仕事にしなさいという巷に溢れ返っているメッセージとは大きく異なる(そして非常に現実的な)ものの考え方だなあと感じ、また同時に新鮮な印象を受けました。
転職を考えていなくても役に立ちそうな考え方だというので、他の参加者も一様にこの本には強い関心を示していました。
以上、Aグループの推し本について紹介いたしました。B・Cグループの推し本については、まとめた写真がありますので、そちらをご覧ください。
今回は小説・エッセイ・自己啓発といった“王道”の推し本がズラリと並びました。児童書・マンガ・その他の本(雑誌や写真集など)が一切なかったのは結構久しぶりだったような気がします。それでも、財布の視点から描かれたミステリー小説や、人にオススメしたくないけれど好きだという海外小説、和歌を通じた夫婦の交流を描いた作品など、気になる本が幾つもありました。インパクトのある推し本も面白いけれど、オーソドックスだけれど心惹かれる推し本もいいものだなあと、改めて思ったものでした。
といったところで、午前の部=「推し本披露会」の振り返りを締めくくりたいと思います。次回は午後の部=「課題本読書会」の模様をお送りします。次回もぜひご覧ください。
読書会は、①午前の部、②午後の部の二部構成で行われる。①午前の部は、参加者がそれぞれ好きな本を紹介し合う「推し本披露会」、②午後の部は、予め決められた課題本を読んできて、感想などを話し合う「課題本読書会」である。また、京都の彩ふ読書会では、午後の部終了後も会場を借りて、メンバー同士の交流の時間・通称「ヒミツキチ」の時間を設けている。一連の振り返りでは、各部の様子を時系列で見ていこうと思う。まずこの記事では、①午前の部=推し本披露会の模様を紹介しよう。
推し本披露会は、毎回10時40分ごろに始まり、12時過ぎまで続く。参加者は6~8名程度のグループに分かれて座り、簡単な自己紹介を行った後、グループの中で持ってきた本を紹介し合う。1時間ほど経ったところで、グループでの話し合いは終了し、続いて全体発表が行われる。全体発表は、自分のグループ以外の参加者にも持ってきた本を紹介するためのものである。全体発表の後、今後の読書会の予定や部活動などのお知らせを経て、読書会は終了となる。
今回は20名の参加者があり、グループを3つに分けて話し合いを行った。僕は会場入口に最も近いAグループで話し合いに参加した。メンバーは全部で7名。そのうち3名は初参加の男性で、あとは僕のほか、先月に続けて参加してくださった男性、参加5回目となる女性、純文学系の課題本になるとひょっこり現れる落ち着いた雰囲気のベテラン男性がメンバーだった。進行役は、最後に紹介したベテラン男性が務めてくださった。
紹介された推し本は写真の通りである。では、それぞれどんな本なのか、以下で詳しく見ていくことにしよう。
◆①『日の名残り』(カズオ・イシグロ)
進行役を務めてくださったベテラン男性からの推し本です。午後の部の課題本『わたしを離さないで』に絡めて、同じ作者の小説である『日の名残り』を紹介してくださいました。
ブッカー賞受賞作として本屋でもよく見かける本作は、とある執事を主人公にした物語です。舞台は1950年のイギリス。かつて仕えていた主人を亡くし、新たにアメリカ人の主人に仕える主人公が、20~30年前を振り返って語るという形で物語は進行します。主人公自身が老いていく姿と、大英帝国の名残で繁栄していたイギリスが大戦を機に没落し、アメリカに覇権を奪われていく様子とが重ね合わされながら、昔を懐かしむような語りが展開されるようです。
もっとも、男性によれば、この本はただの懐古趣味の本ではなく、作品としてのポイントは、抑制された世界の中での人間性の表し方だと言います。執事という感情を表に出さない職業に就いており、なおかつ自らの老いを感じ始めている主人公の静かな語りを通して描かれる、彼自身の、或いは他の登場人物たちの描写には目を見張るものがあるようです。話し合いの中で、プロ意識の強い主人公が仕事上のミスにより老いを感じるという冒頭のワンシーンが紹介されたのですが、そのシーンの話だけでも、凄い作品だなあと直感するものがありました。
よく目にしていながら手に取れていない作品だったので、内容が聞けて本当に良かったなあと思いました。
◆②『生きている兵隊』(石川達三)
先月に続けて参加してくださった男性からの推し本です。第1回芥川賞作家である石川達三が、戦争中の中国を訪れた時の体験をもとに書いたルポルタージュ的小説です。
戦争経験者であるご親族の話を聞きながら育ってきた男性にとって、戦争とはどういうものなのかを知ろうとすることは、1つの大きなテーマなのだそうです。まさに戦争のことを描いた本作を読みながら、男性は「人間ってこんなに残酷になれるのか」と感じ、また、「もし自分が同じ場所にいたらどうしただろう。同じことをしたんじゃないだろうか」と考えたと言います。一方で、タイトルが示すように、戦場にいる一人ひとりが「生きている」ことをひしひしと感じる文章だったとも話していました。
『生きている兵隊』が刊行されたのは戦時中のことで、当時の本にはかなり多くの伏字箇所があったようです。紹介していただいた本は「伏字復元版」となっており、元々伏字だった場所には傍線が引いてあるとのことでした。僕は最初「まあ時代を考えればそういうこともあるだろう」くらいに聞いていたのですが、ある参加者が「でも書かないんじゃなくて伏字で書いたのは凄く勇気がありますよね」と話すのを聞いてハッとしました。その通りですね。伏字を使いながら真実を書き(しかもそれがわかるようにしている!)、いつの日か本当に書きたかったことが明かされることを期待する。作者のそんな勇気と信念は、この日の気付きの中でも特に印象深いものになりました。
◆③『行商人に憧れてロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(春間豪太郎)
Aグループでは唯一だった女性参加者からの推し本です。ネット掲示板発、話題沸騰のリアルRPG風冒険譚をご紹介くださいました。
「職業:冒険家」である著者が、行方不明になった友人を探しにフィリピンに渡航したことをきっかけに海外旅行にハマった話から、その後エジプトへ行き、ラクダを買ったりロバを連れたりしながら砂漠の旅を続けた時の話までが綴られているそうです。行き当たりばったりの旅なのに、めげずにより辺鄙な所を目指そうとする彼の姿から、危ないことを気にしないでどんどん進んでいく姿勢を感じられたこと、それから、動物との絆が繰り返し描かれていたことの2点が特に印象的だったとのことでした。旅の終わりに動物たちと別れながら今生の別れを思ったという話などは、聞いているだけで胸に迫るものがありました。
話し合いの中では、「こういうチャレンジをしようとする人の心理はどんなものだろう」ということが話題にあがりました。僕は珍しくドライになって「こういうことができる人は深く考えたりしないんじゃないですか? ただただスリルを求めるみたいに」という話をしました。海外旅行経験を持つある参加者からは、「たぶんやむにやまれぬ事情があるわけじゃなく、お金があるからやっているんでしょうね」という考察が出ていました。
◆④『逢坂の六人』(周防柳)
初参加の男性からの推し本です。平安初期の特に秀でた歌人たちである六歌仙と、古今和歌集の編者である紀貫之との交流を描いた小説です。
物語は、大人になった紀貫之の話と、彼の少年時代の話を行き来しながら展開します。イタズラ心旺盛で空想癖もあった少年・紀貫之の元に在原業平がやって来て、貴族社会のあれこれを話して聞かせる姿が印象的だったと、紹介者の男性は話していました。子どもの頃に六歌仙の人たちと話ができたらどんなに面白かっただろう、そんなことを考えていたと言います。
六歌仙の歌人たちはそれぞれ謎に満ちた生涯を送っているため、想像を巡らせる余地が大きいのだろうなあと感じながら話を聞いていました。実際、『逢坂の六人』は、ところどころに史実を織り交ぜつつも、豊かな空想に彩られて展開する作品のようです。全体を通して、構成も文章も良く、知らない間に読んでしまう作品だと、男性は話していました。「まさに、読書の醍醐味を味わえる作品である」と。
◆⑤『三体』(劉慈欣)
初参加の男性からの推し本です。現在世界的ベストセラーになっているという中国のSF小説をご紹介くださいました。
この作品の良い所は、スケールがとてつもなく大きいところだと言います。最初は文化大革命の話から始まるのに、いつの間にか、人類と、人類を滅ぼそうとする“宇宙”の戦いの話になっているそうです。実際には、人類は“宇宙”に味方する者と、徹底抗戦を挑む者に分かれるので、戦いは三つ巴の様相を呈するのだとか。確かに、とんでもないスケールです。紹介者の男性は、この本を読んだ結果、「地球規模でものを考えるのがイヤになった」「日々の(小さな)悩みが全て吹っ飛んだ」と話していました。影響力もかなり大きいようです。
ちなみに、作品の中にVRが登場し、小説内小説が展開するなど、構成や設定は練りに練られているようです。また、往年のSFファンには嬉しいオマージュもそこかしこにちりばめられているのだとか。とはいえ、SFに詳しくなくても楽しめる作品になっているようです。
◆⑥『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スズキナオ)
わたくし・ひじきの推し本です。先日このブログでも少し紹介した、スズキナオさんのエッセイ集を紹介しました。
前にも書きましたが、この本はとにかく、日々の生活のすぐ傍に、面白いことの種は幾つもあるんだよということを教えてくれる本だなあと思います。友達の実家に上がり込んで“家系ラーメン”を食べる話、空いているのかわからない店に入って話を聞きながらラーメンを食べる話、スーパーの半額肉だけで焼肉パーティーをする話、唐揚げ1個レベルで厳密な割り勘をする飲み会の話、休日に動物園で飲み会をする話、ディズニーランドに入らずにその周辺を散策する話……どれもくだらないのだけれど、でもなんだか楽しそう。それがこの本に出てくる話全てに共通する魅力だと思います。
たこせんを食べるためだけに明石へ行き、そこから更に淡路島へ渡った時のことを書いた話が中盤で出てくるのですが、その中に、人生に1日くらい、たこせんのためだけに明石へ行く日があってもいいではないかというような一文が出てきます。とても印象に残り、「こんな考え方ができるようになりたいなあ」と思ったものでした。
◆⑦『転職の思考法』(北野唯我)
初参加の男性からの推し本です。
タイトルは『転職の思考法』となっていますが、この本のテーマは、会社選びのポイントや身に付けておくべきスキルなどではなく、自分に合った働き方を考えるための判断軸となるものの考え方です。作者は人間を、①やりたいことが明確で目標を立てて遂行しようとする「ToDo型」と、②やりたいことが特に定まっているわけではなくただ目の前のことを淡々とこなしてく「Being型」に類型化しています。紹介者の男性にとって印象的だったのは、この「Being型」の人間の話だったようです。自分が本当にやりたいことや明確な目標はなくてもいい。そういうものがない人は、とにかく自分がやって苦じゃないことを仕事にして、成功体験を積み重ねていけばいいんだ、という話を読んで目からウロコだったと話していました。確かに、やりたいことを仕事にしなさいという巷に溢れ返っているメッセージとは大きく異なる(そして非常に現実的な)ものの考え方だなあと感じ、また同時に新鮮な印象を受けました。
転職を考えていなくても役に立ちそうな考え方だというので、他の参加者も一様にこの本には強い関心を示していました。
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以上、Aグループの推し本について紹介いたしました。B・Cグループの推し本については、まとめた写真がありますので、そちらをご覧ください。
今回は小説・エッセイ・自己啓発といった“王道”の推し本がズラリと並びました。児童書・マンガ・その他の本(雑誌や写真集など)が一切なかったのは結構久しぶりだったような気がします。それでも、財布の視点から描かれたミステリー小説や、人にオススメしたくないけれど好きだという海外小説、和歌を通じた夫婦の交流を描いた作品など、気になる本が幾つもありました。インパクトのある推し本も面白いけれど、オーソドックスだけれど心惹かれる推し本もいいものだなあと、改めて思ったものでした。
といったところで、午前の部=「推し本披露会」の振り返りを締めくくりたいと思います。次回は午後の部=「課題本読書会」の模様をお送りします。次回もぜひご覧ください。
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