久しぶりに、仕事帰りに友人と飲みに出掛けた。数日前急に連絡が来た。もっとも、彼からの誘いは大概突然なので、驚くことはなかった。時間もちょうど空いていたので、すぐに「行こう」と返事した。
前から気になっていた店があるというので、そこへ一緒に行くことにした。新梅田食道街の中にある「たこ梅」というおでん屋だった。なんでも、彼のお父さんのオススメらしい。着いてみると、全席カウンターの店である。創業170年を超える老舗で、僕らが入った店舗も1950年にオープンしたという。確かに、いい意味で年季の入った趣のある店だった。
「たこ梅」という名前だけあって、たこの甘露煮を推していたので、とりあえずそれを食べ、あとはおでんを適当に頼んだ。どれも味がよくしみていて美味しかった。ちなみに、たこを出しているから「たこ梅」なのかと思ったら、そうではなく、その昔効率よく料理を出すためコの字型に席を配置し、その真ん中でおでんを煮て四方八方へ提供する様を「たこ」と呼んだのが名前の由来だそうだ(ということは、たこ料理は後から付けたのかしらん)。コの字型のカウンター席は今ではそれほど珍しくない印象だが、当時としてはアイデアの賜物だったのだろう。
僕と彼が飲みに行くと、大概両方べろべろになる。どちらかが悪いというわけではない。強いて言うなら、どちらも勝手に悪いのである。ともあれ僕は今回も相応の覚悟をして臨んだ。が、最初の生中が減ってきた頃に彼に「次どうする?」と尋ねると、「ちょっと去年酒の失敗が相次いだから、今年はペースを落とす」という。僕も何やら思い出すことがあって、一緒にのんびり飲むことにした。僕らは酒を舐めるようにしながら、どちらからともなく過ちを語り出し、互いの傷を舐めた。
それでも、錫の容器で適温にされた山田錦だけはどうしても飲みたいと思ったので、ビール2杯の後に思い切って頼んだ。その時、きっと2人とも1合ずつ飲むだろうと思って2合注文したら、「試し飲みの量じゃないな」と苦笑された。もっとも、彼も苦笑はするが止めないし、いざお酒が出てきたらよく飲む。つまるところ、好きなのである。
そうやって飲んでいると、入口ののれんの方から運ばれてきた料理がある。これはなんだろうと思って尋ねてみると、斜め向かいの別店舗に調理場があって、おでん以外の料理を頼むとそうして運んできてくれるのだという。「出前みたいなもんよ」と言って女将さんが笑う。これは面白いと思った僕らがメニュー表を覗き込んでいると、「その気になってきたやん」とまた笑う。結局僕らは刺身と茶碗蒸しを頼んだ。味もさることながら、こうしてひょっこり運ばれてくる料理を食べているのだということが、何か特別なことのように思われた。
ところで、僕も彼も1つ所で飲み続けるより、2、3軒渡り歩いて飲むのを好むタイプである。どれだけ店が良くても、滅多なことで長居はしない。これは性分だから仕方がない。ともあれそんな次第で、2時間ほどで僕らは「たこ梅」を出て、次を探すことにした。その段に至って、僕はふいに、大阪駅で気がつけば辿り着いている店と言えば、あそこしかあるまいというものに思い当たった。それは、読書会の帰りによく飲みに行く「なじみ野」という大衆居酒屋であった。これは大阪駅前ビルの地下街にあるのだが、聞けば彼はこの地下街を開拓したいと思いつつ手を出しかねていたというから、好都合であった。
「なじみ野」はとにかく安くて美味い。コスパが最高に良いのである。僕自身は平日に訪れるのは初めてだったが、読書会メンバーの中にはずっと前から平日にも言っている人もいる。その人から「2日で3回行った」という勘定の合わない話を聞いたこともある。なんでも、ある日仲の良い人と2人で「なじみ野」で飲んでいて、それから2軒目へ行こうということになったが、結局いい行き先が見つからず、2軒目も「なじみ野」に入った、そしてその翌日も別のメンバーで「なじみ野」に来たから、こういうことになったそうだ。
それほど病みつきになる人も現れる店であるが、気付けば彼も「1ヶ月以内にまた来ると思う」と言いながら飲んでいた。幸いなことに、この店は23時閉店で、22時過ぎに食事のラストオーダー、22時半にドリンクのラストオーダーとなる。ドハマりしても後ろが決まっているから安心である。
そんなわけで、僕らはどちらも気が確かなうちに店を出た。「この2人でこんなに健全に飲んだのは初めてや」と言いながら、僕らは東西線の改札をくぐった。
前から気になっていた店があるというので、そこへ一緒に行くことにした。新梅田食道街の中にある「たこ梅」というおでん屋だった。なんでも、彼のお父さんのオススメらしい。着いてみると、全席カウンターの店である。創業170年を超える老舗で、僕らが入った店舗も1950年にオープンしたという。確かに、いい意味で年季の入った趣のある店だった。
「たこ梅」という名前だけあって、たこの甘露煮を推していたので、とりあえずそれを食べ、あとはおでんを適当に頼んだ。どれも味がよくしみていて美味しかった。ちなみに、たこを出しているから「たこ梅」なのかと思ったら、そうではなく、その昔効率よく料理を出すためコの字型に席を配置し、その真ん中でおでんを煮て四方八方へ提供する様を「たこ」と呼んだのが名前の由来だそうだ(ということは、たこ料理は後から付けたのかしらん)。コの字型のカウンター席は今ではそれほど珍しくない印象だが、当時としてはアイデアの賜物だったのだろう。
僕と彼が飲みに行くと、大概両方べろべろになる。どちらかが悪いというわけではない。強いて言うなら、どちらも勝手に悪いのである。ともあれ僕は今回も相応の覚悟をして臨んだ。が、最初の生中が減ってきた頃に彼に「次どうする?」と尋ねると、「ちょっと去年酒の失敗が相次いだから、今年はペースを落とす」という。僕も何やら思い出すことがあって、一緒にのんびり飲むことにした。僕らは酒を舐めるようにしながら、どちらからともなく過ちを語り出し、互いの傷を舐めた。
それでも、錫の容器で適温にされた山田錦だけはどうしても飲みたいと思ったので、ビール2杯の後に思い切って頼んだ。その時、きっと2人とも1合ずつ飲むだろうと思って2合注文したら、「試し飲みの量じゃないな」と苦笑された。もっとも、彼も苦笑はするが止めないし、いざお酒が出てきたらよく飲む。つまるところ、好きなのである。
そうやって飲んでいると、入口ののれんの方から運ばれてきた料理がある。これはなんだろうと思って尋ねてみると、斜め向かいの別店舗に調理場があって、おでん以外の料理を頼むとそうして運んできてくれるのだという。「出前みたいなもんよ」と言って女将さんが笑う。これは面白いと思った僕らがメニュー表を覗き込んでいると、「その気になってきたやん」とまた笑う。結局僕らは刺身と茶碗蒸しを頼んだ。味もさることながら、こうしてひょっこり運ばれてくる料理を食べているのだということが、何か特別なことのように思われた。
ところで、僕も彼も1つ所で飲み続けるより、2、3軒渡り歩いて飲むのを好むタイプである。どれだけ店が良くても、滅多なことで長居はしない。これは性分だから仕方がない。ともあれそんな次第で、2時間ほどで僕らは「たこ梅」を出て、次を探すことにした。その段に至って、僕はふいに、大阪駅で気がつけば辿り着いている店と言えば、あそこしかあるまいというものに思い当たった。それは、読書会の帰りによく飲みに行く「なじみ野」という大衆居酒屋であった。これは大阪駅前ビルの地下街にあるのだが、聞けば彼はこの地下街を開拓したいと思いつつ手を出しかねていたというから、好都合であった。
「なじみ野」はとにかく安くて美味い。コスパが最高に良いのである。僕自身は平日に訪れるのは初めてだったが、読書会メンバーの中にはずっと前から平日にも言っている人もいる。その人から「2日で3回行った」という勘定の合わない話を聞いたこともある。なんでも、ある日仲の良い人と2人で「なじみ野」で飲んでいて、それから2軒目へ行こうということになったが、結局いい行き先が見つからず、2軒目も「なじみ野」に入った、そしてその翌日も別のメンバーで「なじみ野」に来たから、こういうことになったそうだ。
それほど病みつきになる人も現れる店であるが、気付けば彼も「1ヶ月以内にまた来ると思う」と言いながら飲んでいた。幸いなことに、この店は23時閉店で、22時過ぎに食事のラストオーダー、22時半にドリンクのラストオーダーとなる。ドハマりしても後ろが決まっているから安心である。
そんなわけで、僕らはどちらも気が確かなうちに店を出た。「この2人でこんなに健全に飲んだのは初めてや」と言いながら、僕らは東西線の改札をくぐった。
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