またしても読書会絡みの話になるが——読書会の初詣企画に参加し平安神宮を訪れ、さらにその足で、神宮からほど近い「京都勧業館みやこめっせ」で開催された第4回文学フリマ京都に足を運んだ。

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 平安神宮は、参道に天高く立つ朱塗りの大鳥居で有名な神社である。1895年に平安遷都1100年を記念し、平安京をつくった桓武天皇を祀り、当時の建造物の復元を試みて創建されたもので、神社としては比較的新しいものである。その歴史の短さゆえに、なんとなく奥ゆかしさが足りないと決めつけてしまっていたため、これまで中に入ろうと思ったことはなかった。そういうヘタな拘りを捨てるには、人と行動を共にするのが一番である。

 平安神宮詣でに参加したメンバーは、僕を含め7名だった。本当はもう少し大所帯になるはずだったのだが、体調不良の方が続出したためこの数に落ち着いたのである。前々から読書会に参加されている方が多かったが、久しく会っていない方が殆どだったので、懐かしさと新鮮さが合わさったような気分であった。

 近付いてみると、平安神宮は鳥居だけでなく門も大きかったし、境内も随分広々としていた。神社には本殿以外にも様々な神様を祀るお社があるところが多いが、平安神宮には拝殿である大極殿の他にお社はなく、そこまでは白い砂利を敷き詰めた空間が広がっていた。それがまた、神宮の壮大な雰囲気を作り出しているように思われた。

 ところで、僕には神社に来ると人が書いた絵馬を見るというあまり行儀の良くない趣味がある。どういうわけか知らないが、人の願掛けというのは気になるものだ。大極殿へ向かう前にも絵馬が掛けられているところがあったので、暫く眺めていた。健康・受験・結婚・出産といった定番の願いが殆どで、全体的に平和な願いが掛けられている印象があった。時々「あの人が不幸になりますように」という呪詛のような絵馬が掛かっていて気味の悪い思いをすることがあるが、平安神宮には幸いそのような絵馬はなかった。興味深かったのは、「Kinki Kidsの2人が健康でありますように」といった、自分が推している有名人の幸せを願う絵馬が少なくないことだった。「自分以外の人、それも第三者のことを願えるってとてもいいことですよね」とある方が言ったので、「本当にそうですね」と僕は言った。

 そのためだろう、大極殿に着き、二礼二拍手をしたところで、僕が真っ先に願ったのは「皆が笑って暮らせますように」であった。最近この願いを唱えることは随分減っていたから、本当に久しぶりにそう願った気がした。僕はなんだか可笑しくなりながら、「怖いものを恐れず、新しいことにチャレンジできますように」という自分自身に関する願いを続けた。

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 それから僕らは神宮の庭園を巡ることにした。観光サイトなどで調べると、平安神宮は庭園が見どころと出るのだ。その庭園は、神域である大極殿を囲むようにぐるりと作られている、かなり広いものであった。あいにく季節の関係で殆どの草木は枯れていたり枝だけになっていたりして、些か寂しい気もしたが、松の枝ぶりの立派さなどは見る者の目を惹き付けるに十分であった。幸い天気には恵まれていたので、写真を撮るのは楽しかった。

 思っていたよりずっと広い庭園だったため、足を止めるところはなかったにもかかわらず30分以上は居たように思う。庭園を出たところで、僕らはめいめい御朱印を頂戴して、平安神宮を後にした。時刻は11時を回ったばかりだったが、お腹が空いたというメンバーもいたため、みやこめっせの中にあるレストラン「浮舟」に入り、早い昼食を摂った。

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 昼食を終えた後、文学フリマの会場の手前で、僕らは解散することにした。フリマへの興味・関心の度合いは人によって違うので、気の済んだ人から連絡を入れて帰ることになったのである。結果、初詣目当てで来ていた人は早々に帰っていき、後には僕を含め2、3名だけが残った。フリマから参加するメンバーもいたため、僕はなるべく長くいるようにしたが、折悪しく前の日に梅田の紀伊国屋書店で散財したばかりだったので、財布の紐を締めようという意識が強く、ウロウロしているだけのことが多かった。

 文学フリマは、小説や詩歌をはじめとする文学をテーマにした同人誌即売会である。全国各地で有志が開催しており、関西では1月に京都で、そして9月に大阪で開かれている。京都の会場はみやこめっせの大きなイベントスペースの1つで、その中にブースがずらりと並んでいる。販売ブースとは別に見本誌コーナーというのもあり、今回は会場の中央に一文字に設置されていた。

 僕は一般客としてよく文学フリマに足を運んでおり、訪問はこれでかれこれ6度目となる。最近では、まず会場全体をぐるりと回ってから見本誌コーナーへ行き、気になる本を見つけたらそれが売られているブースをチェックして買いに行くというのが定番になっている。もっとも、今回は会場を回っている間に「これだけはぜひ!」という本が見つかったので、まずはそれを買うことに決めた。そして、それとは別に、見本誌コーナーで見て面白そうだと思った本を1冊だけ買った。折角なので紹介しておこう。

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◆①『関西魂~かにたま~①』

 文学フリマに足を運ぶようになって以来、僕はずっと、「関西作家志望者集う会」というサークルが出している短編集『関西魂』シリーズを買い続けている。初めて訪れた文学フリマで買った「恋」の巻を読んだのがきっかけで、その面白さにすっかり魅了されたのだ。昨年9月に読書会メンバーと共に大阪の文学フリマに参加した際、願ってもないことに、2名の方の協力を得ながら『関西魂』シリーズを彩ふ読書会で買い揃えようという動きが起こった。そして、その日売られていた本は全て我々の元に揃うことになった。しかし、記念すべき創刊号だけは、既に完売したとのことで買えず、あと一歩のところで全巻制覇は見果てぬ夢となってしまった。

 ところが、その完売したはずの創刊号が、京都会場で売られていたのである。

 僕はどうしていいかわからないくらい興奮した。そして、まずこのブースに向かった。最新作である「ラブコメ」の巻にも寄稿されていた方がブースで本を売っていた。「1巻は売り切れたって聞いてたんで驚きました」と正直に言うと、「私たちも完売だと思ってたんです。そしたら、この前本棚を整理してた時に何冊か出てきて」という話が返ってきた。偶然が生んだ奇跡とはこのことだと思った。

 中身も殆ど確認せず即買いした。これにより、彩ふ読書会には『関西魂』シリーズが完全に揃ったことになる。

◆②『文豪の小腹メシ』

 日本の文豪が実際に食べていた食事の一部を、作品などを手掛かりに再現したレシピ本である。とにかく着眼点が面白いと思ったのと、料理の写真が美味しそうだったのが、買おうと思ったきっかけである。ブースで立ち読みしながら話を聞いてみると、どれも実際に作って食べたそうだ。それを聞いて猶更買いたくなった。

 姉貴分に当たる作品として『文豪の奇妙なレシピ』『文豪の家メシ』という本もあり、どれも面白そうだった。最終的に『小腹メシ』を買ったのは、レシピ以外の文豪こぼれ話が充実していたからである。『奇妙なレシピ』や『家メシ』で取り上げた料理は比較的有名なものばかりだったのに対し(とは言っても、森鴎外がまんじゅう茶漬けを食べていたなんて、聞いたこともなかったけれど)、『小腹メシ』では前2作をつくる過程で新たに見えてきたマイナーな料理を取り上げたので、解説を充実させたそうだ。僕としては、料理もさることながら、そういった人となりが見えるエピソードこそ好物なので、それならこれだ、という気分になったのである。

 姉妹本のタイトルを確認しようとしていたところ、サークルのホームページが見つかったので、勝手ながらリンクを貼っておこうと思う。文豪メシシリーズ以外の本も面白そうである(京都の桜の本など、読書会の谷崎潤一郎氏に献上したいくらいだ)。また1つ、気になるサークルに出会った。



 結局、文学フリマの会場は14時過ぎに出てしまった。滞在時間は短かったが、その分濃い経験もあったので、良かったのではないかと思う。

 その後、僕は日頃から凝り固まった身体をほぐすべく、東山から八坂まで歩き、河原町界隈をぶらぶらし、16時半頃になって漸く帰路に着いた。