土曜日に先輩と友人の結婚式が東京であり、2年ぶりに東京を訪れた。偶然にも、その翌日は第4日曜日であり、東京の彩ふ読書会が開催される日であった。折角なので、一泊して読書会に参加することにした。というわけで、京都会場の振り返りに続き、12月の東京会場の読書会の模様についても振り返りをつけていこうと思う。

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 東京の読書会も、通常時は関西の会場(大阪・京都)と同じく、午前の部=推し本披露会と、午後の部=課題本読書会の二部構成を取っている。ただ、僕が参加した12月の読書会は、いつもとは違う構成であった。午前の部が推し本披露会であるのは変わらないのだが、その後、「東京会場ほぼ1周年半イベント」ということで、デリバリーの食事を食べたりゲームをしたりしながらワイワイ楽しむ会が催されたのである。“ほぼ一周年半”というのは何とも中途半端なネーミングであるが、その理由についてはいずれ述べる機会があるだろうから、ひとまずそういうものだと呑み込んでいただきたい。

 この記事では推し本披露会の模様を振り返ることにしよう。推し本披露会とは、参加者がそれぞれお気に入りの本を紹介し合う形式の読書会である。通常は全く自由に本を紹介すればいいのであるが、今回の推し本披露会にはテーマが設けられていた。「好きだけど、人にはオススメできない本」というものである。

 このテーマに僕はいきなり戸惑った。「ないぞ、そんな本」と思ったのである。僕は遅読だから読んだ本の冊数は決して多くない。それでいて「面白い!」と思った本は片っ端から紹介している。専門的な本かどうかということも一切考慮に入れない。そんな次第なので、ある時かつての自分の専門に近い推し本を人に貸したところ、「よくもこんな難しい本を読ませましたね」というコメントが返ってきたことさえある(普段は物腰の柔らかい方なので、よほど難しかったか、虫の居所が悪かったかのどちらかだと思っている)。

 ともあれ、かくいうわけで、オススメできない本などそうそうないのである。考えてもどうしようもないので、「未だにオススメできていない本」を持っていくことにした。何とかこじつけられたつもりだったが、よくよく考えてみれば、これはただの推し本披露である。もっとも、同じようにテーマに苦しめられ、普通に推し本を持ってきた人は少なくなかったので、事なきを得た。

 読書会の会場は、馬喰町にある「STUDIO777」というレンタルスペースだった。うっかり写真を撮り忘れてしまったのだが、木張りのフローリングに、これまた木製の机と、緑や茶色など落ち着いた色の椅子が配置された暖かみのある場所だった。会場の奥には大型のテレビがあり、その前にはカーペット敷きの一画がしつらえられていて、それがいっそうアットホームな雰囲気を醸し出していた。

 会場全体の形を見ると、鰻の寝床とは言わないまでも、久方ぶりにその言葉を思い出すくらいには縦に長い形をしていた。僕はAグループという、会場の一番奥のテーブルを使うグループに案内された。関西地区では、ひじきはよく喋る上に声が大きいから、会場の端のグループに配置するという暗黙のルールがあるのだが、まさか東京でも同じルールが適用されているとは思いも寄らなかったので、大変に面喰ってしまった。どこから情報が漏れたのか考えてみたところ、どうもこのブログではないかという気がしてきた。なんでもかんでも書き立てるのも考えものである。

 おっと、ウケを狙うあまりとんでもないウソをついてしまった。席の配置は偶然の帰結と聞いている。初めて参加した会場について書くのにこんな失礼極まることはない。お詫びして誠実なレポートを心掛けよう。もっとも、これくらいオフザケしてもいいかなあと思えるくらい、初参加とは思えないほど居心地が良かったのも確かなことである。とりわけ、「京都のサポーターをしているひじきです」と名乗ったところ、「あぁ! いつもレポート読んでますよ!」と返ってきた時には、ここでもやっていけそうだという安心感に包まれた。どんな人にも興味を持ち、受け容れるという彩ふ読書会のスタンスは、関の東西を問わず根付いているらしかった。

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 さて、推し本披露会は1040分過ぎに始まり、1時間半余り続いた。参加者は全部で25名おり、4つのグループに分かれて本の紹介を行った後、1145分過ぎから全体発表を行うという流れであった。東京会場では、普段は全体発表では自分の名前と本のタイトルだけを紹介しているそうだが、この日はそれに加え、メッセージカードに書いた本の概要も読んでよいことになっていた。

 僕は前述の通りAグループに参加した。メンバーは全部で6名。男性3名、女性3名というバランスの良いグループであった。紹介された本の一覧は写真の通りである。それでは、それぞれの本の内容について詳しくみていくことにしよう。

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◆①『火蛾』(古泉迦十)

 グループ進行を担当されたサポーター男性からの推し本です。一応ミステリーの範疇に入る小説で、殺人が起き、謎が解決されるというプロットはある。ただし、この小説のポイントはそこではなく、世界観の面白さだ。紹介した方はそのように話していました(そのため、いわゆる謎解きミステリーを好む人には「オススメできない」とのことでした)。

 舞台は中東で、宗教色の強い世界が描かれており、とても独特でファンタジックだと言います。パッと読んだだけで惹き込まれる世界観で、作者は天才だと思ったとのことでした。ちなみに、作者である古泉迦十さんの本は、この1冊しか出ていないそうです。それもまた本のミステリアスな趣を深める話だと思いました。

 男性の自己紹介の中に「最近はゲームばかりやっていて本があまり読めていません」という言葉があったのですが、ゲームと独特の練られた世界観を持つ小説とは親和性が高いのかなあなどと思いながら、話を聞いておりました。

 以下は全く余談ですが、紹介者の男性の方を見ていると、角の取れた生き字引氏に会っているような感じがしました。背格好が似ているだけでなく、いいカメラをお持ちで構図にこだわるというところまで同じ。関西から飛び出てきたのにこの不思議なデジャブはなんだろうと、頭に湧いた疑問符が取れないひじき氏でした(すいません、関西ローカルネタです)。

◆②『医学生』(南木佳士)

 3ヶ月に1回程度、主に課題本読書会に参加されているという女性からの推し本です。テーマに合わせられなかったので、最近読んだ、むしろ「オススメしたい」という小説を紹介されていました。

 作者の南木佳士さんは秋田大学の医学部出身の芥川賞作家だそうで、この小説は、自身の経験を投影しながら、秋田大学の医学部に通う4人の男女の青春を描いた作品とのことです。憧れの医学部に入った者、希望の大学に落ち不本意ながら入学した者、親が医者なのでなんとなく医学部に進学した者、それぞれの立場で青春の物語が展開します。秋田を最後まで好きになれなかった作者の姿が投影されているため、自然の厳しさなどの描写も多いそうですが、最後まで読んでみると爽やかな青春小説になっているそうです。ちなみに、「強いてオススメできない理由を挙げるとすれば……解剖の描写などがかなりリアルで、ちょっと気持ち悪いので、そういうのが苦手な人には向かないかな」とのことでした。

 話し合いの中では「地方の学生生活を描いているというのが面白いですね。東京の大学の物語と違いがありそうで」という話が出ていました。また、作者が大衆向けを意識して書いたという話が出たところでは「そうですよね、芥川賞作家と爽やかな青春小説ってなんか結びつかないなあと思ったんです」という返しで笑いが起きていました。

◆③『BANANA MOON GOLD 10 YEARS BOOK』ほか、バナナマン関連書籍・DVD

 参加3回目という女性から、大好きな芸人バナナマン関連の本・DVDがドーンと紹介されました。関西だとヅカ部長や特撮隊長が時折矢鱈と大きなトートバッグを持っている印象がありますが、ハマるものがあると荷物が増えるのは、どこでも起きる現象のようです。

 メインの推し本は、バナナマンが毎週金曜日にやっているラジオの放送10周年を記念したフォトブックと、お便り代わりに届けられるメールの傑作選。オススメできない理由は、自分の愛の重さを悟られたくないから……ではなく(ええ、そんなことで人は怖気づきませんとも!)、「下ネタがキツいから」とのことでした。開いてみると、メール傑作選は冒頭から下ネタだし、フォトブックは矢鱈と肌色成分が多いしで、確かに日曜午前に持ち歩きやすい本では到底ありませんでした。もっとも、その分話は盛り上がりを見せました。

 バナナマンの良い所は、コントが面白いからとのこと。日村のイメージが強いバナナマンですが、コントは会話劇のような調子で、キャラを売りにするのではなく展開で魅せるもののようです。「東京03やおぎやはぎが好きな人はハマると思う」そうです。

 話の中で印象的だったのは、「ラジオについては、2人の会話を聞いているだけで、何をやっているのか様子が見える。はんたいに、写真集については、見ているだけで会話が聞こえる」というものでした。そういうイメージ喚起力をもった人というのは本当に凄いと思いましたし、その言葉で語れる紹介者の感性も鋭いなあと思いました。

◆④『長い旅の途上』(星野道夫)

 わたくし・ひじきの推し本です。4月に京都で紹介した『旅をする木』の著者であり、本業は写真家であった星野道夫さんの遺稿からなるエッセイ集です。遺稿集という性質上、内容の重複が多く、後半やや飽きが来てしまうものの(強いて言うなら、この点に関してはオススメできない)、アラスカの自然や人々と真摯に向き合い続けた氏の文章は、新鮮な驚きと計り知れない説得力に溢れていて、何かハッとさせられるものがあります。特に、「狩人の墓」というエッセイの末尾にある「美しい墓の周りに咲き始めた小さな極北の花々をながめていると、有機物と無機物、いや生と死の境目さえぼんやりとしてきて、あらゆるものが生まれ変わりながら終わりのない旅をしているような気がしてくる」という一文を読んだ時には、「どうやったらこんな文章が書けるのだろう!」というくらい衝撃を受けたものでした。

 紹介が終わったところで、「とても詩的な文章ですね」というコメントが寄せられました。確かに、星野道夫さんの文章はロマンチックで、それが僕の好きなポイントなのかなと気付かされました。また、この本には氏の撮ったカラー写真が何点か収録されているのですが、「カラー写真入りで定価780円は安い!」という現実的なコメントもありました。

◆⑤『デジタルネイチャー』(落合陽一)

 東京会場のリーダーで、大阪にも何度かいらしたことのあるKJさんの推し本です。メディアの寵児となった落合陽一さんが、一般向けなど考えず、とにかく書きたいことを詰め込んだ1冊とのことです。

 メインテーマになっているのは〈人工と自然の対立からの超克〉です。僕らは、人工と自然、アナログとデジタルといったものを対立的に捉えがちですが、情報社会の進展と共に、例えば目に見える景色よりもカーナビの位置情報に頼るようになった人間は、アナログな情報よりもデジタルなそれに依存する存在になってきています。このように人工物と自然なものとの境界が曖昧になったこれからの時代においては、あるがままの姿にこだわらず、テクノロジーを駆使して、個々の人間性を発揮できるようにすることが重要だというのは、この本の主張のようです。単にテクノロジーの問題を論じた本ではなく、社会の在り方や人間の生き方など、幅広い分野にまたがって論が展開されている感じがします。

 注釈が多いため、専門書等を読み慣れていない方にはオススメできないとのことでしたが、内容を聞いているととても面白そうで、気になりました。

◆⑥『アンと青春』(坂木司)

 普段は小説をよく読んでいるという女性からの推し本です。この方もテーマに合った本を持ってくるのが難しかったそうで、最近良かった本を紹介されていました。

 『和菓子のアン』という本が、坂木司ファンである某Mさんの熱烈な宣伝により関西会場に知れ渡ったことがかつてありましたが、『アンと青春』は、この『和菓子のアン』の続編にあたる作品だそうです。主人公は、デパートの和菓子売り場で働く、食べるのが大好きでちょっとぽっちゃりとした女の子。彼女が各章ごとに日々の生活の中で出会う謎を解き明かしながら成長していく姿が描かれており、とてもほのぼのした気分になれるそうです。七夕の短冊を書くときに、「痩せたい」って書こうとして、「痩せたいは努力だ」と思い留まるというシーンが話し合いの中で紹介されたのですが、確かに可愛らしいなあと思いました。

 ちなみに、強いてオススメできないポイントを挙げるとすれば、和菓子が食べたくてたまらなくなってしまう点だそうです。要するに、飯テロ小説ということですね。ここから話はどんどん料理のことに流れていきます。折角なので「料理系の本っていう縛りで推し本やってみたら面白そうですね」と言ったところ、「人肉食をテーマにした本とか持ってくる方がいたらどうしましょう」という想定外の懸念が提示されました。そんな本持ってくる人がいたら本当にテロだと思いました。

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 以上、Aグループで紹介された推し本6冊について見てきました。その他のグループの推し本は写真の通りです。いずれも東京のサポーターさんが撮影されたものですが、拝借させていただきます。

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 さて、これらの本についても全体発表を通じて少し話を聞くことができました。もっとも、個々の内容についてはうろ覚えなので、とても何か書ける状態ではないのですが……全体発表を通じて印象深かったのは、「オススメできない」の意味づけがそれぞれ違っていたことです。多かったのは、「変わったミステリーなので、本格的な推理小説が好きな方にはオススメできません」というように、オススメできない読み手を特定するタイプの発表でした。これには「なるほど! そうすれば良かったのか!」と目からウロコが落ちる思いでした。また、ある本のメッセージカードに「充実した人生を送ってきた人にはおすすめしません。読んでも得るものがないからです。コンプレックスを抱えている人にもおすすめしません。自分の卑屈さと向き合うことになるからです」と書かれているのですが、これはとても面白くて、印象に残りました。

 そんな中、全体発表でとんでもないインパクトを残した方が一人おりました。敢えて名前は申し上げません。でも、きっと誰のことか察しがつくだろうと思います。

 その人は、開口一番「彩ふ読書会の谷崎潤一郎」という全く耳慣れない通り名を口にしたかと思うと、『よむタイツpalette』という写真集を取り出しました。この時点で既に相当インパクトがあるのですが、さらにこの方、内容紹介をすべて終えた後に、握りこぶしを控えめに突き上げながら「タイツ最高!」と叫んだのです。

 瞬間、僕の脳裏をよぎったものがありました。11月の大阪会場の課題本だった『恋文の技術』に登場する迷言の1つ、「おっぱい万歳」です。彩ふ読書会の谷崎潤一郎だかなんだか知りませんが、言ってることもやってることもほぼほぼ『恋文』の主人公・守田一郎です。合っているのは一郎だけですよ。

 何はともあれ、こんなブッ飛んだ発表でさえ受け容れられるのが彩ふ読書会である、序盤にも書いた通り、誰でもなんでもウェルカムなのが彩読の良さである、という真面目なオチがついたところで、推し本披露会の振り返りを締めようと思います。さて、最初に書いた通り、この後会場では「東京会場ほぼ1周年半イベント」が開かれるのですが、その模様は記事を改めてお伝えすることにいたしましょう。皆さま、次回もどうぞご期待ください。