前回に引き続き、12月の京都・彩ふ読書会の模様をご紹介したいと思います。今月の読書会は、1215日、京都の北山にあるSAKURA CAFÉというところで開かれました。午前の部・午後の部の二部構成であるという点はいつも通りですが、今回は午前の部が「課題本読書会」、午後の部が「推し本披露会」で、いつもとは構成が逆になっておりました。前回の記事では、このうち午前の部=課題本読書会の模様を取り上げ、ご紹介しました。ですので、この記事では午後の部=推し本披露会の様子を見ていこうと思います。

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 推し本披露会とは、その名の通り、参加者がそれぞれお気に入りの本を紹介し合う形式の読書会です。小説(純文学、エンタメ小説ほか)やエッセイだけでなく、自己啓発本・絵本・マンガなど様々なジャンルの本が紹介されるので、推し本披露会に出るといつも、「こんな本もあるんだ!」というわくわく感でいっぱいになります。

 15日の推し本披露会には30名の方が参加し、4つのグループに分かれて本を紹介し合いました。また、読書会の最後には、一言メッセージを添えて皆さんに本を紹介する全体発表の時間も設けられていました。1340分、お昼を食べ終えた参加者が続々集まり、ほうっと一息ついた頃に、総合司会が現れて会の進め方や注意事項を読み上げるところから、読書会は始まります。そして、グループの中でそれぞれの持ってきた本について1時間ほど語り合います。1445分を回ったところで、グループでの話し合いは終了となり、全体発表に移ります。その後、総合司会から今後の読書会に関するお知らせがあり、読書会は終了となります。全体の所要時間は1時間半余り。もっとも、体感的にはそれほど長くない気がしました。

 さて、ここからは僕が参加したグループの推し本について詳しく見ていくことにしようと思います。今回僕はBグループに参加しました。メンバーは全部で7名。うち2名が初参加で、あとは全員リピーターでした。グループの進行役は、6月に『有頂天家族』の課題本読書会に参加して以来ずっと通ってくださっている女性の方が担当されました。僕は一応進行フォローという立場だったのですが、何もフォローせずはしゃぎ回っておりました。まあ、進行妨害をした覚えはないので良しとしましょう。

 紹介されたのは次の7作でした。それでは、本の内容や紹介の中で面白いと思ったことなどを順番に見ていくことにしましょう。

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◆①『小説NieR:Automata(ニーアオートマタ)』(映島巡・ヨコオタロウ)

 進行役の女性からの推し本です。自己紹介では必ず「本を読む以外はずっとゲームしています」と語る彼女が持ってきたのは、ゲームのノベライズ作品でした。

 エイリアンに地球を侵略され、人類が月に移住したその世界では、人間が造り出したアンドロイドと、エイリアンが造り出した機械生命体とが、地球の争奪を巡り代理戦争を展開していた。このゲームは、その戦争の模様を、人間が造り出したアンドロイドの視点から進めていくものだそうです。アンドロイドたちは、地球の奪還という目的を知らないまま戦い続け、地球から来る機械生命体と、死ぬことの無い者同士互いを殺し合う。その様を見ていると、生きるとはどういうことか考えさせられると、紹介者は話していました。

 小説版は、ゲームの制作者が監修していることもあり、上の筋書きに忠実に書かれているそうで、ゲームを知っている人はもちろん、全く知らない人でも1から楽しめるようになっているとのことでした。

 今や珍しいゲーム禁止家庭に育ったレッドデータアニマル・ひじき氏には、何もかもが新鮮でしたが、ゲームに精通している人の間ではこの手のノベライズはよく知られているようでした。読書会の中では、ゲームをよく知っている別の男性が思わず内容に関わることを口にしかけ、紹介者が「ダメです、ネタバレですから!」と止めに入る場面もありました。

◆②『ぐうたら人間学』(遠藤周作)

 わたくし・ひじきの推し本です。この日の課題本が遠藤周作の『沈黙』だったので、それに絡めて、全くテイストの違う遠藤周作のエッセイ集を紹介しました。

「私は基督教の洗礼をうけた男なので『神がかった』本を読むのも好きであるが『下がかった』馬鹿話を友人としたり、自分で考えたりするのはむしろ大好きなほうだ」(p.33)本文中にこんな一節が出てきますが、実際この本の前半は、10ページに1回の割合で“そういう話”が出てくる「下がかった」エッセイ集になっています。下がかりに限らず、この本はオフザケ満載です。若い頃、デート中に女の子がトイレに行きたそうな様子になるとわざと長話をしていたという、下がかっているうえにひどい話も出てきたりします。まあ、なぜか笑ってしまうんですが。

 もっとも、馬鹿話ばかりが出てくるわけではありません。自分に都合の悪い事は非難して、適当な理屈を並べて正義漢ぶる人間なんて大嫌いだという話が後半に出てくるのですが、この章などを読んでいると遠藤の人間観察力の鋭さにハッとさせられます。笑いあり、頷きあり、気付きありで、色々おいしいエッセイ集だと僕は思います。

 読書会の中では、遠藤周作の書くものの幅広さが話題にあがりました。「そんなものも書くんですか!?」という人もいれば、「やっぱり、遠藤周作って色々書いてますよね」と確かめるように話す方もいましたが、いずれにせよ、『沈黙』の作家のイメージはいい意味で崩れたような気がします。

◆③『善の研究』(西田幾多郎)

 以前同じグループになった時に『有頂天家族』を紹介されていた女性からの推し本です。いきなりテイストが変わったので、本が出てきた時にはビックリしました。なんでも、金沢を旅行した時に西田幾多郎のことを知り、勢いで買って読んでみたそうです。

 『善の研究』というタイトルは、倫理の資料集などでよく見かけるので知っていましたが、本を手に取ろうと思ったことはなかったので、推し本紹介で内容を知れたのは貴重でした。タイトルにつられ、善悪の問題について論じている本なのかなあと思っていたのですが、紹介者によると、メインで展開されているのは〈物事をどう捉えるか〉という話なのだそうです。私たちが出来事を考え分析する時の方法の話がメインで、そこから、あなたはどう生きていくかという問いにまで話が広がっていくのだといいます。いやはや、どう広がっていくんでしょう。

 紹介した方はこうも話していました。「頭の良い人がぐるぐる考えたことが詰まっている本で、考えずに読まないと読み進められないから、頭を空っぽにした方がいいです」とにかく通読せよ、話はそれからだということでしょうか。

 余談ですが、京都の哲学の道は、西田幾多郎が散策していたことなどにちなんでその名がつけられたと聞いたことがあります。その話を思い起こすと、この読書会に相応しい推し本だったように思えるのでした。

◆④『聖☆おにいさん』(中村光)

 彩ふ読書会主催者・のーさんからの推し本です。ご存知、イエスとブッダが立川を舞台に繰り広げる日常を描いたマンガですが、では一体なぜこの本が推し本だったのか。

 順番が回って来ると、のーさんはご自身が推し本を選ぶ時の幾つかのパターンに関する話から順を追って話始めました。読んで面白かった本を推すこともあれば、課題本に絡めて選んでくることもある。今回は後者で行こうと思ったのだけれど、遠藤周作の本を読んだのは初めてだし、どうしようと思った。考えた末に、とにかく自分の知っている範囲でキリスト教の絡む作品を持っていこうと決めた——そのフリに続けて『聖☆おにいさん』が出てきた時、グループは爆笑に包まれました。

 『沈黙』の中に「この国は沼地だ」という台詞が登場します。キリスト教を布教するため日本を訪れ、20年間活動した後棄教した宣教師の言葉で、いくらキリスト教を広めようとしても、日本という沼地ではその内実は変化させられ、根から腐ってしまうという意味が込められています。さて、『聖☆おにいさん』を携えながらのーさんは明言しました。「こういう本が出ることこそ、日本が沼地であることの何よりの証拠です!」ずるいばかりの必笑ド正論でした。

◆⑤『デンジャラス』(桐野夏生)

 初参加の男性からの推し本です。谷崎潤一郎の『細雪』や『瘋癲老人日記』をベースに、谷崎、『細雪』の主人公雪子のモデルとなった重子、その姉であり谷崎の妻である松子、そして谷崎の息子の奥さんである千萬子との四角関係を描いた小説です。実際にあった出来事をベースにした作品で、登場人物も実名で出て来るそうですが、物語の内容は桐野さん流にアレンジされており、それがまたいい味を出していると、紹介者は話していました。

 既に老境に差し掛かっていながら、谷崎は息子の奥さんで自由奔放な性格の千萬子に惚れる。これにより、『細雪』の主人公のモデルという自負を持つ重子と、文豪の妻であることに誇りを持つ松子のプライドに傷がついてしまう。そこから物語はどんどん展開していきます。終盤には、重子が自分の思い出の清算を求め、谷崎の頭に足をかけながら、千萬子に手紙を出さないよう要求するという鬼気迫るシーンもあるそうです。「女性の方が生のバイタリティがあると思う。男は弱い部分もあるけれど」そんな話を紹介者は最後にされていました。

 自己紹介の時には「人の集まるところは苦手で、とても緊張しています」と話しておられましたが、それまでの発表を聞くうちに緊張がほぐれていたようで、好きな作家の作品について熱量一杯に話しておられました。

◆⑥『人ノ町』(詠坂雄二)

 名古屋から何度も参戦してくださっている男性からの推し本です。古本屋で偶然見つけたというSF系の旅小説を紹介してくださいました。

 物語の舞台は、文明が衰退し荒廃した未来の町。その町を、ひとりの女性が旅していく。訪れる町々で、女性はその町に関する謎を解き明かしていく。そうするうち、どうして世界はこのような姿になってしまったのか、そして、この女性はいったい誰なのかということが、どんどん明らかになっていくとのことです。大きな謎がじわじわとわかっていく物語と聞いて、いったい何が待ち受けているのだろうと気になって仕方がなかった我々ですが、紹介者が「ネタバレするのもなんですので」というので、詳細は聞けないままになってしまいました。推し本として紹介されているわけですから、気になるなら読めばいいんですけどね。

 もっとも、「ネタバレするのもなんですので」と言っておきながら、紹介者はその後3度ほど「ネタバレになってしまいますが」と断りながら本の内容を次々と喋り出していました。本当は話したいことがいっぱいあったのでしょう。とは言うものの、ネタバレにネタバレを重ね、僅か数分のうちに3つも禁断のネタバレをしてしまった紹介者に、ツッコミが入らないわけはありませんでした。まあツッコんだの僕なんですけどね。

◆⑦『ミレニアム1』上下巻(スティーグ・ラーソン)

 初参加の女性からの推し本です。スウェーデンを舞台にした大人気推理小説を紹介してくださいました。

 主人公は、ミレニアム社に勤める正義感の強いジャーナリスト。彼はしかしある日、罠にかけられ刑に処されてしまう。そんな彼のもとに、とある財閥の人間から、失踪した娘を探して欲しいという依頼が舞い込む。刑罰を受け失職することになった彼に、新たなパートナーがあてがわれる。それは、奇抜な風貌などにより勘違いを受け、精神病棟に入れられているが、パソコンを使った情報収集に長けている1人の女の子だった。2人はタッグを組み、自分を罠にはめた黒幕を探しながら、同時に、財閥令嬢の行方を追う。

 話を聞いているだけでどんどん惹き込まれていく内容でした。紹介した方も、分厚い本だけれど、先が気になって仕方なくてずんずん読めると話していました。

 ただ1つだけネックなのが、登場人物が多く、なおかつ、似た名前のキャラクターや名字が同じキャラクターが沢山出てくること。巻頭に登場人物をまとめた織り込みが入っているのですが、僕は正直見ただけでうへぇとなってしまいました。これがダメな人はめげてしまうかもしれないとのことですが、たいへん気になる紹介でした。

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 以上、僕の参加したグループの推し本を紹介しました。今回も、小説・エッセイ・専門書・マンガ・ゲームノベライズと様々なジャンルの本が登場しました。作者も、日本人だけでなくスウェーデンの作家が取り上げられるなど、幅広さを感じさせる内容でした。どの本についての話し合いも和やかな雰囲気のうちに進み、落ち着いて楽しめる会となりました。

 その他のグループの推し本については、写真がありますので以下にまとめてご紹介します。それぞれの本には、紹介者の手による紹介カードが載っていますので、気になる方はぜひそちらで内容を確認してみてください。

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 といったところで、午後の部=推し本披露会の振り返りを締めくくりたいと思います。以上で読書会の振り返りは終了となるのですが、前回の記事の最初に書いた通り、1215日にはこの後、彩ふ読書会京都会場1周年を記念したイベントが控えておりました。というわけで、次回引き続き、このイベントの模様の振り返りを書き綴ろうと思います。皆さまどうぞご期待ください。