拝啓。諸君、ごきげんよう。——おっと、このテンションで書くヤツはもう終わりだった。失敬失敬。

 11月10日・日曜日、大阪の桜橋交差点の近くにあるオックスフォードクラブというレンタルスペースで、今月の彩ふ読書会が開催された。読書会はいつも、午前の部=参加者がそれぞれ好きな本を紹介し合う「推し本披露会」と、午後の部=予め課題本を読んできて感想などを話し合う「課題本読書会」の二部構成で行われる。そしてさらに、10月からは大阪会場でも、課題本読書会の終了後も会場を借り続け、参加者同士が交流をもつ「ヒミツキチ」の時間が設けられるようになった(もともと京都会場で実施していた)。この日、課題本読書会に参加した僕は、そのまま会場に残り、ヒミツキチの時間もまた満喫した。というわけで、この記事では「ヒミツキチ」の様子を皆さんにご披露しようと思う。

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 ヒミツキチの時間には、基本的に何をやるのも自由である。読書会の続きを話しても良し、ゲームを持ち込んで遊ぶも良し、他の企画を持ち込んで実現するも良しである。全員が同じことをやる必要はなく、やりたいことをやればいいという実に気楽な時間である。さて、11月10日のヒミツキチは、企画持ち込み型のカードゲーム会という色合いの濃いものであった。

 このほど、彩ふ読書会に「ボードゲーム部」という新たな部活ができた。名前の通り、ボードゲームやカードゲームを楽しむメンバーのための部活で、各地にあるボードゲームカフェへ行って遊んだり、レンタルスペースにメンバーが持っているゲームを持ち寄って遊んだりするというのが、主な活動内容である。そのボードゲーム部が、ヒミツキチでのゲーム会を出張企画として立てたのである。

 もっとも、これは実に自然な企画だったように思う。そもそも読書会の中でボードゲームやカードゲームが流行り出したのは、京都の読書会のヒミツキチの時間にみんながゲームを持ち寄って遊び始めたのがきっかけだった。その頃のメンバーのゲーム熱は凄まじく、中には読書会が終わるや否や「〇〇さん、あれはまだか」と言い出す人もいたものだった。彩ふ読書会には「本読んでる場合じゃねえ」という読書会にあるまじき迷言があるが、読書会にボードゲーム文化が持ち込まれた最初期には、この言葉を地で行く人が実際後を絶たなかったのである。ともあれ、ボードゲーム・カードゲームとヒミツキチとの間には切っても切れない関係があるわけで、この流れを受ける形で生まれたボードゲーム部がヒミツキチの時間を活用しようとするのは、当然のことであった。

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 課題本読書会が終了したのは15時20分ごろのことだった。僕らはその後もそれぞれのテーブルに貼り付いてアフタートークに花を咲かせていた。そして20分ほど経った頃、ボードゲーム部副部長である謎解きクイーンが会場入口に姿を現した。クイーンはその名の通り、謎解きゲームの成功率の高さで有名を馳せる御方であるが、その他にも、タカラヅカ、ハロプロなど数々の趣味を持っておられることでも知られている。そして、ボードゲームもまた、クイーンのお好きなものの1つというわけである。

 さて、会場に姿を現したクイーンは、その通り名に反して沢山の荷物を自ら肩にお提げであった。その中には、自宅から持ってきた数々のゲームが入っていた。クイーンはそれらを1つずつ取り出し、受付用の机の上に並べ始めた。机の上は、博物館の一画のような雰囲気に様変わりした。

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 写真を見ればお分かりいただけると思うが、クイーンの持ってきたゲームの中には、文学全集を思い出すような大きなサイズのものもあった。見るからにかさばるものなので、僕なら絶対に持ち歩かないと思うのだが、どうやら敢えてこれを持ってきたらしい。そこにはゲームに対するクイーンなりのこだわりがあった。

「私こういう大きなゲームの方が好きなんですよね。というより世界観がしっかりしているゲームが好きで。そういうのの方がプレイしてるっていう感覚になれるんですよね。だから、サッと終わってしまうゲームよりも、時間をかけてやるゲームの方が本当は好きだったりするんです」

 さらに続く。

「あと私デザインに凝ってるのが好きで。こういうカードとかアイテムとかってめっちゃその辺作り込まれてるんですよね。正直言って、紙とペンさえあれば自分で作れちゃうゲームってあるんですよ、この中にも。でも私はデザインのちゃんとしたものが欲しいので、ちょっと高くてもちゃんとしたやつを買って置くんですよね」

 クイーンの喋り方は淡々としていたが、その思いの丈は隠しようもなくありありと出ていた。そもそも、クイーンは普段会話の中でこれほど長く一人で喋り続ける人ではないのである。その熱い思いに触れて、僕は畏れ多さのあまり身体をブルッと震わせてしまったものだった。

 一方で、その淡々とした喋りは、内を駆け巡る情熱を丸のまま表出するのを押しとどめ、理性的なものに代えていた。そしてそれ故に、彼女の喋りには、僕のようなズブの素人をもゲームの魅力に惹き込まんとするだけの面白みがあった。できるものならこんな喋り方をしてみたいものだと、僕は思った。と、これは本筋とは別の話である。

 ともあれ、クイーンが到着し、ゲームが一式揃ったところで、いよいよヒミツキチの開幕となった。

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 ではここから、当日やったゲームを3つご紹介しよう。いずれもクイーンが持ってきたものである。ちなみに、僕も一応「犯人は踊る」というカードゲームを持ってきていたが、折角の機会なので自分の持っていないゲームを沢山やることにした。

◆Love Letter—恋文—

 まず紹介するのは、「Love Letter—恋文—」というゲームである。この日の課題本『恋文の技術』に合わせたのではないかというようなタイトルのゲームだ。パッケージからしてロマンチックな雰囲気を漂っており、勢い込んでやってみたのだが、一言でいえば、予想以上に殺伐としたゲームだった。諸君、これだけは言っておく。「恋文」という言葉を聞いたくらいでロマンチックな幻想を抱くのはくれぐれも慎んだ方がいい。それなりの頻度で裏切られる(ウソだと思う方は課題本読書会レポートの後編を参照されたし)。

 ゲームのコンセプトは、お姫様に恋文を届けるというもので、他のプレーヤーはみな恋敵ということになる。恋敵を負けに追いやり、最後まで残ったひとりが勝者になる。プレーヤーは最初手札を1枚ずつ持ち、自分の手番になったら山からカードを1枚引いて、その2枚のうちいずれかを出す。カードには、「1.女官」「2.忍者」「4.占師」「5.陰陽師」といった役割・数字と、そのカードを出した時に生じる効果が書かれている。その効果を実行して、恋敵を倒していくのである。例えば、あるカードには、「プレーヤーの1人を指名し、その手札の数字が自分のそれよりも小さい場合、相手は負ける」というようなことが書いてある。このような効果を駆使して、どんどん敵を倒していくというわけだ。うん、やっぱり殺伐としている。

 実際にプレイしてみても、カードの効果によってあっさり相手に負かされたり、場合によっては自滅したりして、呆気なく勝負がついてしまう。元々他のゲームをやるまでのつなぎに、サクッと終わるゲームとして始めたのが「恋文」だったから、その趣旨には合っていたわけだけれど、僕は何とも言えない気分だった。

 余談であるが、恋に関連するゲームで割とロマンチックなものとして、「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ」というのがある。いわゆる大喜利系ゲームの一種で、カードに書かれた単語を組み合わせてプロポーズの言葉を考え、誰の告白を受けるかを選んでもらうというゲームだ。過去のヒミツキチでやったことがあり、たいへん盛り上がった。当日の記事を発掘したので、気になる方はご覧いただきたい。



◆インサイダー

 続いて「インサイダー」というゲームを紹介しよう。 ざくっと説明すれば、プレーヤーの中に1人だけ紛れているインサイダー(スパイのような人)を、全員で協力して捜し出すゲームである。クイーンは着いた時からとにかくこのゲームをやりたがっていた。実際たいへん面白いゲームで、この日一番長い時間プレイしていたのは「インサイダー」だった。

 ゲームの流れを説明しよう。まずプレーヤーは、黒ゴマ入りウエハースのような姿形をしたカードを1枚受け取る。そこには「庶民」「マスター」「インサイダー」という役割が書かれているので、プレーヤーはこっそり自分の役割を確認する。マスターはゲームの進行役となるので、名乗り出る。

 その後全員目を伏せる。マスターは目を開け、トランプのような大きさをしたカードをめくり、「お題」を確認した後、目を伏せる。続いてインサイダーだけが目を開け、マスターが10数える間にお題を確認する。再びマスターが目を開け、「お題」を伏せたところで、全員目を開ける。

 全員が目を開けたところで、プレーヤーは「お題」が何なのかを、マスターに質問しながら5分以内に当てていく。すなわち、「身に付けるものですか?」「いいえ」「食べ物ですか?」「いいえ」「いま持っていますか」「はい」といったようなやり取りを通じて、お題に書かれていた単語を当てるのである。時間は砂時計を使ってはかる。ここで重要なのは、5分以内に誰もお題を当てられなかった場合、全員負けになってしまうということだ。したがって、インサイダーは自分が勝つために、ある程度「お題」に近付けるような質問を敢えて挟まなければならない。例えば、上のやり取りに続けて、「電話やメールのために使うものですか?」という質問を投げかけ、「携帯電話」という「お題」を当てやすくするというように、である。もちろん、あからさまな質問をするとインサイダーであることがばれてしまうので、言葉は慎重に選ばなくてはならない。

 お題がわかったところで、マスターは砂時計をひっくり返す。そして、砂が落ちきるまでの時間に、全員で、誰がインサイダーだったのかを話し合う。「あの人の質問鋭くなかった?」「なんだかいつもと雰囲気が違ったから怪しくない?」といった風にして、である。見事インサイダーを当てることができればみんなが勝ちとなり、みんなの予想が外れれば、逃げ切ったインサイダーのひとり勝ちとなる。

 ちなみに、プレイ人数は3~8名である。役割のカードをお手製で増やせば人数の上限はなくなるが、デザインにこだわるクイーンの哲学に則り、僕らは常に8人以内でプレイしていた。

 さてここから、実際に起こった悲劇をご覧いただくとしよう。ゲーム自体はたいへん面白かったが、その中で1つの悲劇が起こっていたこともまた事実なのである。簡単に言えば、僕が庶民の役割であったにもかかわらず、何度もインサイダーとして指名を受けることになったのだ。

 事の発端は、最初の1プレイで僕が見事「お題」を的中させたことであった。推理フェイズが始まったところで、まず、お題を当てた人がインサイダーかどうかが審議される。その際、鋭いから怪しいという理由で疑いの目を向けられたのだ。その際急先鋒に立ったのはクイーンだったが、僕は逆にその攻め口からクイーンが怪しいと踏んで反撃。結果的に僕の読みが当たることになるのであるが、その過程で、1人のプレーヤーからインサイダーとして指名されたのである。この1回に関する限り、その人は完全に騙されたらしかった。しかし、この出来事がその後の悲劇につながる。

 いちいち書くのも面倒なのでざっくり言ってしまうと、次にまた「お題」を的中させたところで、「今度こそインサイダーだ」と疑われ、逆に今度「お題」を答えないでいると、「今までと手法が違うから怪しい」と言われるという、どうしたって疑われる事態に発展したのである。もちろん途中からは悪ノリなのであるが、制限時間がある中でゲームの主旨そのものをほったらかして「こいつがインサイダーだ」という話して勝手に盛り上がるのだからたまったものじゃない。悪ノリした張本人は涙が出るほど笑っていて、もはや手が付けられない。“自由な女神様”の二つ名をもつ参加者が慈愛に満ちた表情で「おいしい役回りですね~」と言っていたが、あまりにおいしすぎるのも考えものである。ちなみに、悪ノリから真面目な推理に引き戻す過程でも、クイーンに「でも、ひじきさんがインサイダーになってたら、きっともっとはしゃいでますよ」と言われる始末で、僕は実に散々な目に遭った。

 もちろんこれは誇張して言っているのであって、実際のところ、お題を当てた時の僕は得意がっていたし、あらぬ誤解を受けた時には、逆にそれまでの展開を思い出しながら誰がインサイダーかを推理するのを楽しんだものだった。比較的見抜きやすい回がある一方で、中に1人鋭いプレーヤーがいて、インサイダーが一言も発しないうちにお題が当てられてしまったので、見事に全員攪乱されたという回もあった。ちなみに、後者の回には、初プレイでいきなりインサイダーになってしまったその人は、ルールがよく分からず黙っていただけだったというオチがある。インサイダーはどこかで馬脚を露すという僕らの思い込みがアダになった格好だった。

◆ザ・ゲーム

 最後に、「ザ・ゲーム」という全員協力型のゲームを紹介しよう。プレーヤーは全員カードを1枚だけ持ってゲームに参加する。そのカードには1から99までの数字が書かれている。そのカードを1枚ずつ出していき、数字の若いものから順番に並べきったら全員の勝ち、大きすぎる数字が出てしまい誰かが手札を出せなくなったら全員の負けとなる。実にシンプルなゲームであり、なおかつ、全員勝つか負けるかの完全協力型ゲームである。ただし、プレイ中は誰も何も喋ってはいけないというルールがある。プレーヤーはお互いの表情だけを頼りに、誰がどれくらいの数字のカードを持っているかを想像し、時に躊躇し、時に思い切りよくカードを出さなければならない。シンプルであるが、奥の深いゲームである。ともあれ、ルールが分かりやすいうえに、人数制限もないと言っていいようなものなので、最後には残っていたメンバー全員でプレイすることになるなど、結構楽しい展開が待っていた。

 結論からいうと、残念ながら時間中に全員勝ちになる回はやって来なかった。割と若い手札を持っているのに出し惜しみしてしまった方がいたり、ある程度ゲームが進んでいる中でまだ自分の番じゃないだろうと思っていたら案外出さなければならなかったり、とにかく上手くいかないものである。僕も一度出し惜しみをしてしまい、「それは出さなきゃ」と言われてしまった。それでも、この探り合いは誰かを出し抜くためのものではないので、ゲームとしては平和なものだった。

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 会場予約は18時までだったので、15分ほど前から片付けに取り掛かった。あっという間に時間が流れていた。そのため、片付けはそれなりにバタバタした。机や椅子の配置を読書会前の状態に戻し、ゴミをまとめ、読書会中に配られたお菓子の余りをみんなで分け、あるサポーターが『恋文の技術』にかけて持ってきていたマシマロを「小松崎~!」と言いながら食べるなどしていたら、15分もまた一瞬であった。

 解散後飲み会があり、僕は二次会まで参加した。11月11日の日記に、飲み会の翌日はどうも調子が上がらないというようなことを書いたが、そこで言った飲み会というのがこれである。もっとも、飲み会のことを書くとまた長くなるので、その先何があったかは皆さまの想像にお任せしよう。

 といったところで、11月10日の大阪・彩ふ読書会の参加レポート全3回をここに締めくくりたいと思います。長らくお付き合いくださり、ありがとうございました。