明日は彩ふ読書会@京都の日である。今回の課題本は『宝塚ファンの社会学』(以下、『ヅカ社』)。サポーター推薦枠を獲得したヅカ部長が、いっそひと思いにと課題本に推薦。内輪では発表と同時に一同騒然となったが、一方で、得体の知れない期待と興奮が全員の胸の内を駆け抜けたこともまた確かであろう。
そんな読書会を目前に控えた本日、僕は朝8時に宝塚大劇場の前にいた。『ヅカ社』で説明されていたファンクラブの活動「入り待ちガード」を観に来たのだ。「宝塚の生徒[注:出演者のことをファンは生徒と呼ぶらしい]が公演や稽古で楽屋に入るときにファンが見送ることを『入り待ち』といい」、この時に一般のファンなどがスターに群がるなどの混乱が起きないよう、ファンクラブが組織的に作り出す「整然とした列」のことを「ガード」という(『ヅカ社』p.75-77)。もちろん、解説がなければ何もわからないが、幸いなことに、ヅカ部長が本日観劇予定で、入り待ちから行くという話だったので、ご一緒させていただいた。
余談であるが、僕がこんな突拍子もない“観察”に出掛けたのは、読書会の中に先達がいたからである。「面白いことがあったらとにかくやる」が信条のこの方は、『ヅカ社』を読み終えたある日、面白いことを求めてファンクラブの活動の様子を観に行った。ヅカ部長によると、その時の先達氏の様子は、明らかに他の人とは異なっていたという。一般のファンが当然ながらトップスターに注目する中、先達氏はただ一人、トップスターに付添うファンクラブの代表を見て「ああ、代表だ!」と感激したそうだ。もっとも、先達氏も自分だけヅカへの興味があらぬ方向へ向かっていることは承知のようで、ある時飲み屋で、「僕は宝塚のファンじゃなくて、宝塚のファンのファンなんやと思う」と話していた。ともあれ、この方のお陰で、僕のファン観察の道は開けたのである。
もちろん、『ヅカ社』を読めば、宝塚ファン——とりわけ、ファンクラブおよびその会員——がどのような活動をしているかはある程度わかる。が、百読は一見に如かず。そもそも僕は読書百遍などという柄でもない。とにかく、実際に現場を見にいくと、いろいろと発見があった。
中でも面白かったのは、〈ファンクラブの方々は、ジェンヌさんが楽屋口に来ると座るが、誰も来ていないときは立っている〉ということであった。『ヅカ社』を見返すと、p.126-127にこの“屈伸運動”についての説明が載っていたが、僕はうっかり、ファンクラブの方々はガード中ずっと座っているのだとばかり思っていたから、新鮮な気付きであった。ちなみに、ファンクラブの方々は、ジェンヌさんが自分たちの前を通り過ぎる時だけではなく、後ろを通って楽屋入りする時でも座る。座るのはもともと、一般のファンがジェンヌさんを見るのを妨げないための行動のはずだから、ジェンヌさんが後ろを通る時まで座り込むのは何のためかよくわからないが、素人にはわからない深淵なる理由があるのだろう。
しかし、この場面で僕が最も注目したのは、座るタイミングの不思議さではない。立ったり座ったりという行動が軍隊もかくやというほど統制の取れたものである一方、その中にいる一人一人は、意外と雑談に花を咲かせていたことだった。最前列の人でも、座っている最中にまあまあ喋っている。わざわざ座って見送っているのに、ジェンヌさんの目の前で喋ったら失礼じゃないかという気がするが、ヅカ部長曰く、おしゃべりは当たり前の光景だそうだ。
後になって、僕はこの発見をもとに、『ヅカ社』の内容を踏まえつつ考察を加えた。が、その話はここでは控えておこう。課題本読書会を控えた前日に手の内を全て明かしてしまうのは、阿呆にも程がある。
ところで、僕は決してファンクラブの活動ばかりを観に行ったわけではない。今朝来られたジェンヌさんは、昨日から大劇場での公演が始まった月組の方々であるが、僕が最初にドハマりしたヅカのショー『BADDY』が月組公演だったこともあり、この方々はなんとなく名前がわかる。舞台メイク前なので、誰が誰だかサッパリだが、そこは部長の手ほどきを受ける。『BADDY』で羽根をつけて大階段を降りていた誰それが今来たなんてわかろうものなら、興奮は止められない。僕はずっと、明日の読書会に持っていこうと思って楽屋口前の出来事を資料映像に収めていたのだが、その方々が来たときは直接見たいので、ああもどかしいと思った。
中でも、特に見たかったのは、今回の公演を最後に退団する二番手スター・美弥るりか様の見送りだった。僕をめくるめくヅカの世界に叩き入れたのは読書会ヅカ部であるが、そもそも僕がヅカを意識するようになったのは、数年前に妹がヅカに傾倒したからである。そして、妹をヅカ道に引き込んだのは、関東に住み、大劇場での公演を見るたびに実家に泊まりに来ていた親戚であった。最近分かったことなのだが、この親戚が美弥様のファンだったらしく、その影響を受けた妹も見事に美弥様ファンになった。要するに、美弥様がいなければ、僕はヅカに触れることがなかっただろうし、よしんば触れる機会があったとしても、一度きりで受け流していたに違いないのだ。
退団が決まったスターの見送りは、人手も多く壮麗だった。美弥様は見送りに来たファン全員が体勢を整えるのを待ってから、通用口先と、楽屋の扉の前とで2回手を振っていかれた。
まったく、最近の僕は自分でもどうしたんだろうと思うくらいヅカヅカ言っている気がする。まだあれこれ語る域には達していないはずなのに、生来の言葉数の多さが祟って矢鱈と饒舌である。畏れ多いことこの上ない。が、正直言って、書いている時は楽しい。不思議なものである。
何はともあれ、明日の『ヅカ社』読書会も、めいっぱい楽しむとしよう。
そんな読書会を目前に控えた本日、僕は朝8時に宝塚大劇場の前にいた。『ヅカ社』で説明されていたファンクラブの活動「入り待ちガード」を観に来たのだ。「宝塚の生徒[注:出演者のことをファンは生徒と呼ぶらしい]が公演や稽古で楽屋に入るときにファンが見送ることを『入り待ち』といい」、この時に一般のファンなどがスターに群がるなどの混乱が起きないよう、ファンクラブが組織的に作り出す「整然とした列」のことを「ガード」という(『ヅカ社』p.75-77)。もちろん、解説がなければ何もわからないが、幸いなことに、ヅカ部長が本日観劇予定で、入り待ちから行くという話だったので、ご一緒させていただいた。
余談であるが、僕がこんな突拍子もない“観察”に出掛けたのは、読書会の中に先達がいたからである。「面白いことがあったらとにかくやる」が信条のこの方は、『ヅカ社』を読み終えたある日、面白いことを求めてファンクラブの活動の様子を観に行った。ヅカ部長によると、その時の先達氏の様子は、明らかに他の人とは異なっていたという。一般のファンが当然ながらトップスターに注目する中、先達氏はただ一人、トップスターに付添うファンクラブの代表を見て「ああ、代表だ!」と感激したそうだ。もっとも、先達氏も自分だけヅカへの興味があらぬ方向へ向かっていることは承知のようで、ある時飲み屋で、「僕は宝塚のファンじゃなくて、宝塚のファンのファンなんやと思う」と話していた。ともあれ、この方のお陰で、僕のファン観察の道は開けたのである。
もちろん、『ヅカ社』を読めば、宝塚ファン——とりわけ、ファンクラブおよびその会員——がどのような活動をしているかはある程度わかる。が、百読は一見に如かず。そもそも僕は読書百遍などという柄でもない。とにかく、実際に現場を見にいくと、いろいろと発見があった。
中でも面白かったのは、〈ファンクラブの方々は、ジェンヌさんが楽屋口に来ると座るが、誰も来ていないときは立っている〉ということであった。『ヅカ社』を見返すと、p.126-127にこの“屈伸運動”についての説明が載っていたが、僕はうっかり、ファンクラブの方々はガード中ずっと座っているのだとばかり思っていたから、新鮮な気付きであった。ちなみに、ファンクラブの方々は、ジェンヌさんが自分たちの前を通り過ぎる時だけではなく、後ろを通って楽屋入りする時でも座る。座るのはもともと、一般のファンがジェンヌさんを見るのを妨げないための行動のはずだから、ジェンヌさんが後ろを通る時まで座り込むのは何のためかよくわからないが、素人にはわからない深淵なる理由があるのだろう。
しかし、この場面で僕が最も注目したのは、座るタイミングの不思議さではない。立ったり座ったりという行動が軍隊もかくやというほど統制の取れたものである一方、その中にいる一人一人は、意外と雑談に花を咲かせていたことだった。最前列の人でも、座っている最中にまあまあ喋っている。わざわざ座って見送っているのに、ジェンヌさんの目の前で喋ったら失礼じゃないかという気がするが、ヅカ部長曰く、おしゃべりは当たり前の光景だそうだ。
後になって、僕はこの発見をもとに、『ヅカ社』の内容を踏まえつつ考察を加えた。が、その話はここでは控えておこう。課題本読書会を控えた前日に手の内を全て明かしてしまうのは、阿呆にも程がある。
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ところで、僕は決してファンクラブの活動ばかりを観に行ったわけではない。今朝来られたジェンヌさんは、昨日から大劇場での公演が始まった月組の方々であるが、僕が最初にドハマりしたヅカのショー『BADDY』が月組公演だったこともあり、この方々はなんとなく名前がわかる。舞台メイク前なので、誰が誰だかサッパリだが、そこは部長の手ほどきを受ける。『BADDY』で羽根をつけて大階段を降りていた誰それが今来たなんてわかろうものなら、興奮は止められない。僕はずっと、明日の読書会に持っていこうと思って楽屋口前の出来事を資料映像に収めていたのだが、その方々が来たときは直接見たいので、ああもどかしいと思った。
中でも、特に見たかったのは、今回の公演を最後に退団する二番手スター・美弥るりか様の見送りだった。僕をめくるめくヅカの世界に叩き入れたのは読書会ヅカ部であるが、そもそも僕がヅカを意識するようになったのは、数年前に妹がヅカに傾倒したからである。そして、妹をヅカ道に引き込んだのは、関東に住み、大劇場での公演を見るたびに実家に泊まりに来ていた親戚であった。最近分かったことなのだが、この親戚が美弥様のファンだったらしく、その影響を受けた妹も見事に美弥様ファンになった。要するに、美弥様がいなければ、僕はヅカに触れることがなかっただろうし、よしんば触れる機会があったとしても、一度きりで受け流していたに違いないのだ。
退団が決まったスターの見送りは、人手も多く壮麗だった。美弥様は見送りに来たファン全員が体勢を整えるのを待ってから、通用口先と、楽屋の扉の前とで2回手を振っていかれた。
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まったく、最近の僕は自分でもどうしたんだろうと思うくらいヅカヅカ言っている気がする。まだあれこれ語る域には達していないはずなのに、生来の言葉数の多さが祟って矢鱈と饒舌である。畏れ多いことこの上ない。が、正直言って、書いている時は楽しい。不思議なものである。
何はともあれ、明日の『ヅカ社』読書会も、めいっぱい楽しむとしよう。