ひじきのごった煮

こんにちは、ひじきです。日々の四方山話を、時に面白く、時に大マジメに書いています。毒にも薬にもならない話ばかりですが、クスッと笑ってくれる人がいたら泣いて喜びます……なあんてオーバーですね。こんな感じで、口から出任せ指から打ち任せでお送りしていますが、よろしければどうぞ。

2018年12月

 2018年も残りわずか。これが今年最後の記事です。
 というわけで、この1年を振り返ってみたいと思います。


◆2018年あれやこれや


 スマホに残していた写真などを頼りに、1月から順に振り返ってみますと、本当に色んなことがありました(以下この節はメンドクサければ読み飛ばしていただいて結構です)。

 伊勢志摩の大野浜で初日の出を見たり、
 『ポーの一族』を観劇してタカラヅカデビューを果たしたり、
 映画を観に行く習慣ができたり、
 泊まれる本屋でお馴染み、池袋の「Book&Bed」に泊まってみたり、
 貴船神社で「恋愛 無駄口を慎め」というおみくじをひいたり、
 会社の研修で同期に上から目線をたしなめられたり、
 大阪城リレーマラソンに初参加し、12㎞を50分で走ったり、
 25歳になったり、
 会社の出張帰りに大学の後輩と皇居・千鳥ヶ淵で花見をしたり、
 新入社員が入ってきて一応先輩になったり、
 大学の友人・先輩と1泊2日の城崎旅行に出掛けて浴衣にハマったり、
 会社から銀行まで車の運転をするようになったり、
 京都大学のタテカンを写した写真がツイッターで拡散されたり、
 会社のロッカーで大阪北部地震に遭遇したり、
 大学院時代の友人と京都で再会しセブンイレブンの軒先で一夜を明かしたり、
 家族で広島・生口島へ祖父の墓参りに出掛けたり、
 学生時代からの読書会で予想外の質問に言葉を失い自己嫌悪に陥ったり、
 超大型台風のあと2日間停電を経験したり、
 『ペンギン・ハイウェイ』の感想を徹夜電話で話し合ったり、
 広島・呉を巡る旅行に出掛け『この世界の片隅に』の聖地巡礼を果たしたり、
 先輩から「銀木犀をテーマに一本書く」という謎の指示を受けたり、
 サプライズで妹の彼氏と面会させられたり、
 着物をレンタルして嵐山を歩いたり、
 年内に二度ブログを作り直し、漸く毎日更新に辿り着いたり、
 がむしゃらになって「銀木犀紀行」を書き上げたり、
 会社をやめた元同期とカラオケでオールしたり、
 上司にスナックへ連れて行っていただいたり、
 心斎橋でコブクロのストリートライブに遭遇したり、
 京都まで月夜の紅葉狩りに出掛けたり、
 森見オフ会に参加したり、
 園田競馬場のダートコースを走ったり、
 クリスマスイブの晩に必死で年賀状を書いたり、
 3日連続で忘年会に参加したり——

 とまあ、小さなものから大きなものまで本当に色んなことがありました。


◆一番大きな出来事


 さて、ここからが本題です。そんな数ある出来事の中で、今年自分にとって特に大きかった出来事の話をしようと思います。

 それは、彩ふ読書会に参加したことです。

 このブログでも既に何度か触れていますが、僕は現在、大阪・京都で毎月開催されている彩ふ読書会という読書会に参加しています。初めて参加したのは7月でしたが、それからあっという間にのめり込み、12月からは京都のサポーターを務めております。

 参加のきっかけは、読書の習慣をきちんと作りたかったこと、そして、本の話ができる人が欲しかったことでした。分けても、本の話ができる人は、会社にほんの数人しかおりませんでしたから、とにかく欲しくてたまりませんでした。あとできちんとお話しようと思いますが、読書は僕にとって、単なる趣味ではなく、もっと大事なものなんです。だから、その話ができる人が欲しかった。そして、そういうコミュニティに身を置くことで、読書の習慣をちゃんともてるようにしたかった。そこで、関西でやっている読書会をネットで調べました。そうして見つけたのが、彩ふ読書会でした。

 初めて参加した時、とにかく2時間ぶっ通しで本の話ができる場所があることに、僕はただただ感動しました。そして、これから毎月色んな人と本の話ができるんだと、ささやかな興奮を覚えたものでした。

 一方で、入ったばかりの頃には、読書会という場は、本の話だけをしている場、言い換えれば、趣味以上の世界には踏み込まない場であるように見えました。考えてみれば仕方のないことなのですが、その頃には、まだ他の参加者の顔や名前もうろ覚えで、年齢をはじめ読書以外のその人の部分については全く見えない状態でした。したがって、趣味の世界に生きるというルールを暗黙裡に共有することで、読書会の場が成り立っているのだとさえ思っていました。

 しかし、繰り返し参加するうち、わけても、参加者同士のサークル活動などを通じて飲み会の場にも顔を出すようになるうち、読書会の中での人付き合いが、一段、また一段と深まっていくようになりました。ただ本の話をするのでも、好きな本の話をするだけじゃなくて、本を読み始めたきっかけの話や本を選ぶ時のポリシーなどを聞くようになり、ただ知らない本を教え合う段階の一歩先へ踏み出したなと感じました。先日行われた忘年会の席では、偶然同じ本を読んでいた人と話し込み、印象に残った箇所の違いを通じて、自分自身の本の読み方を振り返ることもできました。

 また、色んな話をしていると、自然と、読書に留まらない一人一人の姿や考えに触れる機会も多くなりました。参加者の皆さんは、僕の知らない世界をたくさん持っていて、その世界に僕を誘ってくれます。お陰で、最近レポートした謎解きゲームのような新しいことにチャレンジできましたし、実際には経験できないけれども、話づたいに未知の世界を垣間見ることもできました。

 読書会に参加されている方は、優しくてオープンで話し好きの方が多く、一緒にいると心が和らいで楽しくなってくるのです。あんまり褒めちぎると胡散臭くなりそうですが、僕にとっては全て真実である。僕はもう随分ぶりに、自分がどっぷりのめり込める居場所に出会えたと、本気でそう思っています。

 ところで——

 先にも申しました通り、僕にとって読書というのは、単なる趣味以上のものである。学生生活が終わり社会人になるという間際になって、もうほんとそれだけで何か1本書けるのではないかというくらいの分厚い経験を通じて、僕は、〈本を読むこと〉そして〈そこで感じたこと・考えたことを自分の中に蓄積していくこと〉を、一生大事にしたい、ずっと続けていきたいと思いました。20数年人生を歩んできて、本当に自分が大事にしたいものに、僕はここで漸く巡り合ったのです。

 当時の僕は全く自信のない人間で、就職活動の時も、自分が全うな社会人になって仕事をバリバリこなす姿が想像できず、こんな自分でも拾ってくれるところがあれば、そこへ付き従おうという気持ちで現職に就きました。読書と感想・思考の蓄積を、自分の人生の軸にしたいと思ったのは、就職活動を終えたあとのことでした。僕は、好きなものに邁進したいなあという気持ちを幾ばくか抱えつつも、それでは食っていけないこと、それから、何か1つのことに傾倒する人生に自分は耐えられないだろうと思ったことなどから、読書という本当に大切にしたいものを、仕事ではなく趣味にするという生き方を選択しました。この選択の是非についてはここでは問わないことにしましょう。僕はただ、当時の(そして今もおそらく変わっていないであろう)せっかちで視野の狭い頭で考えたことをなぞり書きしているだけですし、それ以上のことはできないわけですから。

 いずれにせよ、重要なのは、読書が僕にとって、単なる趣味を越えたものであるということ、人生の中でずっと大事にしたいものであるということです。だからといって、誰よりも読みが深いかと言われるとそんなことはないし、冊数も月3~4冊と少ない。毎日本を読んでいるかというと、実際そうでもなくて、飲み会が続くと2、3日本を開かないこともある。しかし、そうであっても、読書に対するこだわりだけは消えたことがない。読書が趣味以上の何かであるというのは、つまりそういうことだと僕は思っています。

 彩ふ読書会で僕が手にしたものは、〈その何かを続けるモチベーション〉と、〈その何かを共有できる仲間〉と、〈その何かを起点にして人生を豊かにしていくチャンス〉なのだと思う。なればこそ、読書会への参加が、この1年で最も大きかった出来事なのである。

◇     ◇     ◇

 1年の最後にたいへん真面目な話をしてしまいました。まあ、いつも口から出まかせにものを言い、指から出まかせに文字を打っているわけですから、たまにはちょっとぐらいちゃんとしたところを見せさせてくださいな。

 といったところで、今年最後の記事も終わりにしようと思います。来年もきっと色んなことがあるでしょう。そして、その中には、僕にとって本当に大きな出来事がまたあるかもしれない。そんな期待に胸膨らませつつ、紅白歌合戦の結果と、ゆく年くる年を観ながら、新年を迎えたいと思います。

 皆さまよいお年を。そして、来年もよろしくお願いします!

 11月の終盤に、書きたいことは沢山あるのに、疲れがドッと出て全然書けないでいるという悲鳴を上げたことがある。その時書けなかった話の1つを、今更ながらしたためるとしよう。

 11月25日。勤労感謝の日から始まる3連休が終わるこの日、僕はまた1つ新たなコミュニティに参加することになった。そのコミュニティの名は、森見オフ会という。簡単に言えば、森見登美彦ファンの集まりである。

 ここではあまり素振りを見せていないが、好きな作家を訊かれれば森見登美彦という程度には森見ファンである。もっとも、読み始めは映画公開直後の『夜は短し歩けよ乙女』、それから1年半しか経っておらず、読んだ作品も6冊程度であるから、コアファンには程遠い。しかし、その作品には、頭でっかちで自意識過剰、プライドは高いが引っ込み思案で行動力に欠ける阿呆男子学生の様が赤裸々に描かれていて、僕はそれに感動を覚えて森見作品に傾倒した。森見作品は言い回しもとにかく面白かった。一時はその独特の言い回しを会得したくてたまらなかったくらいで、僕が今書いている文章にも、当時ののめり込み具合が多少爪痕を残しているんじゃないかという気がしなくもない。

 そんな僕に目を付けたのが、ベテラン森見ファンであるとある先輩だった。9月末のある日、ここで書くには幾分長大な諸般の事情を経て、僕は先輩から「銀木犀をテーマに、森見登美彦風で1本書く」というお題を与えられた。僕は困惑しながらもこのお題に挑んだ。そして、京都府立植物園へ実際に銀木犀を見にいき、その時のことを1万5千字の紀行文にしたためて先輩に送った。

 今にして思えばテンポの悪い旅行記であったが、先輩は面白がってくださった。

 それから程なくして、先輩からラインがきた。「実は森見登美彦ファンのオフ会に入ってるんやけど、良かったら来ない?」しゃかりきになってムチャブリに応えた僕は、先輩の目に“見込みのある青年”として映ったらしかった。

 かくして、僕は森見オフ会の門を叩くことになった。

 初めて参加したオフ会の内容は、青春闇市こと京都大学の学祭を回り、吉田寮の見学ツアーに参加し、それから河原町に出て飲み会をするというものであった。

 主催者が背中におぶっていた緋鯉のぬいぐるみに大笑いし、ゴリラの絵のタテカンの制作現場で写真を撮る。キャンプファイヤーのあるグラウンドで昼間からビールを飲み、落研のコントライブで爆笑する。中庭にいた寝袋にくるまって立つ怪しげな学生に興味を示し、医学部生たちのモツ煮の屋台で見かけた「君の臓物を食べたい」の文字に不覚にも吹く。

 そうやって学祭を満喫した後、一同で吉田寮の見学ツアーに参加した。お世辞にも綺麗とは言えない場所で、住んでいる人も一癖・二癖ありそうな雰囲気だったが、その一癖・二癖を受け容れ、醸成するに足る独特の風土と年季が籠った場所だということは感じ取れたし、その場所を愛し、守ろうとする人たちの思いはひしひしと伝わってきたものだった。

 河原町の話についてはもうよかろう。盛況した飲み会ほど語るに値しないものはない……というのは言い過ぎだが、飲み会というのは往々にして内輪話のごった煮のようなものになるから、こういうところで書くには不向きなのである。

 そんなこんなで森見オフ会デビューを果たしたわけだが、実はこの話にはちょっとしたオチがある。

 11月25日、僕らが京大・吉田寮・河原町を放浪し、酒宴に興じていたその時、かの森見登美彦氏本人が京都にいたことが、後日判明したのである。

 この日、出町柳の駅から5分ほどのところにある出町座という映画館で、森見作品の1つで今年8月に映画化された『ペンギン・ハイウェイ』の再上映が開始され、監督・脚本家らのスペシャルトークが行われた。原作者・森見登美彦氏は、それに合わせて劇場へひっそり足を運び、写真撮影に応じ、かつ興じていたという。

 ツイッターでこの事実を知った僕は、口をぱくりと開けたまま黙り込んだ。数日後、かの銀木犀先輩に会った僕は、悔しさをたっぷり滲ませてこの話を打ち明け、理不尽にもご本人に会い損ねたことへの恨み節を述べ立てた。そして、最後にこう言い添えた。

 責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。

◇     ◇     ◇

 さて、察しのいい読者は、僕が突然この話をした理由にとうに気付かれていることだろう。

 12月30日、僕は森見オフ会の忘年会に参加していた。

 夕方までのんびりと独房の大掃除をしてから、電車で京都を目指す。四条木屋町の小路に面した会場の店は、こじんまりとしているが熱気があって賑やかだった。席に着くと、既に鍋が置かれていて、追加の具材と取り皿を置くとテーブルはもういっぱいいっぱい。しかし、出てきたぶりしゃぶはたいへん美味で、量も多く、腹が実に満たされたものであった。

 繰り返しになるが、盛り上がった飲み会の話というのは、こういうところで書くには不向きである。したがって、これ以上は深入りしないことにする。大事なのはただ、自分の中で楽しい場の記憶を積み上げていくことだ。そうして、笑いながら今年を締め、笑って来年を迎えることだ。

 読書会謎解き部の活動報告、いよいよこれが最終回になります。冊子にある3つの章の謎を解き終えた僕たちを待っていたのは、それに続く次の章でした。指示に従い、向かった関西大学梅田キャンパス、ここで遂に、グー・チョキ・パーの3チームが一堂に会し、熾烈な謎解きレースを繰り広げます。そして最後、謎解きレースは思わぬ展開を遂げることになるのです。いったい何が起こるのか。最後までじっくりご覧ください。

◇     ◇     ◇

 黄色いバンダナに伝える5文字の合言葉は何か。「リンゴアワセロ」という指示に辿り着き、冊子の表紙と、コースター状の丸い紙にある2つのリンゴを重ね合わせるも、なかなか答えがわからない。関西大学の1階にあるスターバックスコーヒーの前で、コンビニにたむろする中学生の如くしゃがみ込み、女性陣に笑われながら、頭をひねっていたその時、C氏が小さく叫んだ。

「わかった!」

 僕とMさんはC氏の手元を覗き込んだ。リンゴの絵が描かれていた丸い紙が裏返されている。その裏面には、冊子と似たような模様が入っていた。そして、2つの模様が重なったところに、カタカナ5文字の言葉が浮かび上がった。

 フユヤスミ

 ゲームが終わった後、僕はC氏に「なんでわかったんですか?」と尋ねてみた。するとC氏はこう答えた。

「リンゴの葉っぱが重ならなかったから」

 えっと思い、冊子と丸い紙を見比べて、初めて気付いた。冊子のリンゴは葉っぱが左側に付いている。これに対し、丸い紙のリンゴは葉っぱが右側に付いていた。つまり、2つのリンゴをどちらも表向きにして重ねても、リンゴは合わない。2つのリンゴを合わせるためには、冊子と丸い紙を向い合せなければならないのだ。

 細かいところまで気を抜くなかれ。C氏の教訓の通りだった。

 話を戻そう。僕らは立ち上がって建物の中に入り、黄色いバンダナを首に巻いたスターバックスの店員に合言葉を告げた。すると、バンダナは1枚の紙を渡してくれた。それは、雪だるま・スノキチを作ったハルカという女の子からの手紙だった。スノキチとハルカが再会を果たすための呪文、それが最後の謎だった。

 涙が落ちて雪に変わるとき、上と下にあるもの、
 その間にある四文字が呪文。

◇     ◇     ◇

 僕らは再び建物を出、今度は建物から離れた場所にしゃがみ込んで、キットを見始めた。歩道の反対側、建物の外壁に沿う場所で、グーチームは既にこの謎解きにかかっている。そして程なくして、チョキチームが建物から出てきた。チョキチームの3人は、建物を出てすぐのところに立って、手紙を広げた。

 ゲーム開始から2時間、3つのチームは再び一堂に会した。そして、それぞれに同じ問題に取り組んでいた。先にこの問題を解いたチームが勝者となる。勝者になったからといって何があるわけでもない。ただ、競争があるとスリルがある。誰もが勝手に興奮を求めていた。ただ疲れてハイになっていただけかもしれないけれど。

 「涙が落ちて雪に変わる」この謎は、C氏があっさり解決した。冊子を見開いた時の左側のページの端に、しずくの絵がある。後ろから順番にめくっていくと、しずくは最後雪に変わっていた。

 問題は「上と下にあるもの」そして、「その間にある四文字」だった。

 「こうじゃないですか?」最初に案を出したのはMさんだった。冊子の左端と、ハルカの手紙を重ねる。しずくの上にある文字と、雪の下にある文字を拾う。そして、その間の文字を見る。だが、この方法はどうもしっくりこない。

 「たぶん何かあるんですよ。僕らがまだ使ってない仕掛けが」C氏がそう言って、キットを再び点検し始めた。僕らもそれに倣う。けれども、それらしい仕掛けはもうないように思われた。僕はさっき自分が見つけたビルの絵を眺めて、勝手に満足に浸っていた。

「あ、これ!」

 ふいにC氏が小さく叫んだ。そして、冊子の各ページの四隅にある模様を示した。模様についている〇、その中に入っている線が、全て違うというのである。

「これ組み合わせたら、なんか文字になるんちゃう?」

 早速試してみた。涙が落ちて雪に変わるイラストの上と下にある模様、その中の線を1本ずつ拾っていく。しかし——

「ダメですね」

 Mさんが言った。文字が1つ完成しないのだ。涙の上には、カとサというカタカナ2文字が現れた。しかし、雪の下には、クという文字はできるが、もう1つはヨを逆さまにしたような文字になってしまうという。これも違うのだろうか。

 その時だった。

「わかった!!」

 その叫びは、グーチームの中から聞こえた。驚いて顔を上げる。ハッと左をみると、チョキチームも同じ方を見ていた。

 グーチームの3人は、それから内容をチェックしあい、手紙にあるQRコードを読み取って、呪文を入力したのであろう。ともあれ、暫くしてから、「すごーい!!」「やったー!!」と声を出して抱き合った。そして、「お先でーす」と満面の笑みを浮かべて、ゲームクリアの証のカードを貰うべくバンダナのもとへ向かっていった。

 建物から出てきた3人の手には、雪だるまの絵が描かれた青いカードがあった。その瞬間、僕は謎解きを放り投げ、カメラを手に持って、3人に接近した。

「すいませーん、写真部でーす」

 そこで撮った3人の写真には、苦い顔をしているチョキチームの姿が後ろに小さく映っていた。

◇     ◇     ◇

「やっぱりお昼にしませんか」

 部長が呼びかけた。もちろん勝者の驕りではない。時刻は13時半になろうとしている。お昼には遅いくらいだった。

「行きましょっか。僕ら待ってたらあと1時間くらいかかるかもしれないですし」

 C氏が答えた。チョキチームの3人も同意見だった。かくして、僕らは関西大学を一旦離れ、お昼を食べることにした。余談であるが、割り勘である。敗者の奢りではない。

 昼食会場に向かう間、僕はずっと、原田マハの『楽園のカンヴァス』を思い出していた。伝説のアート・コレクターから招待を受けた若きキュレーターと若手美術研究者の2人が、一冊の古書を手掛かりに1枚の絵の真贋を見極めるというアート・ミステリーだ。この話の途中に、コレクター・キュレーター・研究者の3人が、互いの見解を探り合いながら館で昼食を摂るシーンがある。そのシーンと、今の状況が、どこかダブっているように思えた。あまりにもスケールや緊迫度が違い過ぎるが、そんなことはどうでもよかった。

 幸いにして、実際の昼食は、そんな殺伐としたものではなく、和気藹々としたものになった。何を話していたのかはあまり覚えていないが、とにかく笑っていたことだけは確かである。

 さて、この昼食が始まる前、僕らは「とりあえず一旦謎解きのことは忘れましょう!」と言っていたような気がする。ところが、いざ食事が終わり歓談タイムに入ると、そんな協約はなかったことになってしまった。

「なんかヒントもらえないですか?」

 誰かがグーチームの3人にそう言ったのを引き金に、全員が一斉にキットを取り出す。そして、最後の謎解きが始まった。

「いまどんな感じですか?」

 グーチームの人たちに訊かれ、僕らは現状を説明する。C氏の説明に、部長が「それかなりいい線いってますよ! もう解けるんじゃないですか」と返す。着眼点は、どうやら合っていたらしい。しかし、確か文字が1つ完成しなかったんじゃなかったか。

「線の位置も重要ですよ。〇の縁に当たってるかどうかとか」また1つヒントが増える。その時だった。

「僕わかったかもです!」

 隣にいたMさんが言った。C氏が「えっ⁉」という顔で振り返る。チョキチームの3人も同様だ。僕は振り返ることすらできずに焦った。何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

「あ、僕もわかりました」

 暫くしてC氏が続いた。さらに続いて、チョキチームの3人からも「わかった」の声が相次ぐ。

「ウソぉ、俺だけなんもわかってない」

 最後に僕が取り残された。部長が突然笑い出した。

「なんで、さっきまでチームで助け合ってたのに、いきなり個人戦になってるんですか!」

 まったくである。どうしてこうなったのか教えてほしい。

 とにかく、先ほどのヒントをもとに、涙の上と雪の下の文字を再点検する。上の2文字は「カ」「サ」、下の文字は、1つは「ク」、そしてヨを逆さまにしたような文字は、よく見ると「モ」だった。

「そこまで合ってますよ」

 Mさんが教えてくれた。

「で、こっからどうすんの?」

 僕はもう自力で解く気がない。焦りで言葉もぞんざいだ。

 助け舟が次々出てきた。あっちから、こっちから。

「それから、地図の紙を見るんですよ」
「地図の方じゃないですよ、その裏面」
「よく見てください。何かないですか」

 ——あった。

 無人島の手紙のようなシミの付いた紙。その左上にクモの絵が、そして、左下にカサの絵があった。その2つを1本の線で結ぶと、線は4つの文字の上を通過していった。

 ミラクル

「めっちゃ腹立つ!」

 僕はそう言って、笑いながら紙をテーブルに放り投げた。解けた感動よりも、言いようのない腹立たしさが勝った。

「なんで、なんで」

 全員がツッコミを入れながら笑っていた。

◇     ◇     ◇

 15時ごろになって、僕らは再び関西大学梅田キャンパスに戻った。
 バンダナの店員に、「ミラクル」と打ち込んだ画面を見せる。
 クリア証が手渡された。
 僕らは9人で、それを手に持って記念撮影した。

◇     ◇     ◇

 いかがだったでしょうか。チーム戦のはずが個人戦になるという思いがけない展開を迎えながらも、全員クリアという形で、第1回謎解き部の活動は幕を下ろしました。

 この後我々は、ヅカ部長を兼任している部長に引き連れられて、大阪駅へ行くはずがなぜかキャトル・レーヴというヅカグッズ専門店に辿り着いたり(それこそ、全員クリアならなかった脱出ゲームのようなものだ)、そこから再び地上へ降りて東通り商店街を歩き、2軒はしごして4時間飲み続けたりと、1日が終わるまで梅田の街を満喫したものでした。が、その話は長くなるので割愛します。

 最初の記事の冒頭にも書いたのですが、僕にとってこれは、初めての謎解きゲーム挑戦でした。最後は相当苦しみましたが、振り返ってみると本当に楽しかったなあと思います。何より、推理小説を読んでも謎も解かずパラパラ読みをするような僕にも、頭をひねれば解ける問題があったということが嬉しくてたまりませんでした。ちょっと自信が持てたかも。次の部活動も楽しみです。もっとも、その節はもうちょっと上手くまとめる術を考えたいと思います。

 今年も残すところあと僅かとなりました。独房と実家の大掃除を積み残し、慌てているところではございますが、1年を振り返る日記などをしたためながら来年を迎えたいと思うところでもございます。それでは、次回をお楽しみに。

 梅田・茶屋町を舞台に展開する、彩ふ読書会謎解き部の部活動レポート、今回はその第3章をお送りします。3チームに分かれて進行していた謎解きゲーム。いよいよ全てのチームが冊子のラスト・第3章に突入、大阪工業大学梅田キャンパスにて謎解きにかかります。では、どうぞ。

PC232024

 大工大の建物に入ると、僕らは手掛かりの書かれたパネルを探し始めた。すると、パネルよりも先に、吹き抜けのエントランスをウロウロしているグーチームの3人組が見つかった。「よく会いますね~」と互いに笑う。もっとも、上っ面を一枚めくれば、互いに腹の探り合いをしているのは間違いない。〈どこまで掴んでる〉〈さあな。そっちこそどんな具合だ〉〈腹の中か、空いてるぜ〉時刻は12時半を回りつつあった。

 僕は首からさげたカメラで記念撮影をしておくことにした。実を言うと、僕は謎解き部員であると同時に、写真部員でもあるのだ。「はいはい、スパイじゃありませんよー。ネタバレしない程度に冊子こちらへ向けてくださーい」グーチームは余裕の笑みを返してきた。

 一方、パネルはまだ見つからない。まさかと思いつつ、念のため建物内のコンビニに入る。そこで意外な人たちに出会った。ロフトで苦戦する僕らをよそに、いつの間にか首位に躍り出ていたチョキチームの3人だ。3人はイートインのテーブルを1つ占め、キットを広げて謎解きしているようだった。その様子も写真に収めた。後から聞いたところによると、チョキチームはこの時、「喉が渇いたね」と言ってただ単に休憩していたらしい。それを知ってから写真を見返すと、拍子抜けするほど和んでいた。

 さて、肝心のパネルは、このコンビニの入り口手前にあった。

 記憶を失くしたものを青い四角に立たせ、
 そのまま赤い四角まで、回転させろ。
 そのとき赤い三角を読め。

 ここも、リーダーC氏が早かった。取り出したのは、コースターのような丸い紙だ。丸い紙の縁の1か所に、雪だるまの絵が描かれている。これを、冊子第3章のページの左端に描かれた青い四角の上に立たせる。そして、丸い紙を、ページ右端の赤い四角まで転がしていく。すると、コースターの縁に描かれた赤い三角の矢印が、青赤2つの四角の間にある文字を幾つか指し示すという。

 なるほど、ではやってみよう。そう思った僕に、災難が訪れた。

 丸い紙がない。

 どこかで落としてしまったのだ。

 仕方がないから、カメラのレンズのフタを転がしてみる。もちろん、何もわからない。

 幸いにして、これはチーム戦だった。僕は「おっちょこちょい」のレッテルを甘んじて受け容れ、Mさんの冊子を覗き込んだ。

 ココハナニノアトチカハナミテコタエロ

 「ここは何の跡地か」訊かれていることはすぐにわかった。しかし、その後がわからない。「ハナミテコタエロ」とは、なんのことだろう。

 その時、脳裏を、第2章終盤の暗号「ユビワニアルタキシード」がよぎった。

 指輪、花……もしかしたら!

 急いで地図を見る。大工大の建物のすぐ脇に、花のマークがあった。

「ここに行きましょう!」

 何があるか、だいたい想像がつく。再開発で新しいビルが建った場所には、過去にそこ場所にあったものを示す記念碑のようなものが据えられていることが多い。花の場所にあるのは、その記念碑に違いない。

 それにしても、と僕は思う。これはなんてシャレたゲームなんだろう。

 この謎解きゲームの名前は、「記憶を失くした雪だるま」だ。僕らは雪だるまの記憶を辿るべく、ゲームを続けてきた。そして、冊子に書かれた最後の章・第3章へ辿り着いた。そこで僕らを待ち受けていたもの、それは、梅田という街に眠る失われた過去の記憶だったのだ。

 ロマンチックじゃないか。誰が考えたか知らないが、天才だ。

 果たして、花の地点には記念碑が立っていた。ここにはかつて、梅田東小学校という学校が建っていたようだ。

 早速QRコードを読み取り、答えを入力する。画面が切り替わり、言葉が浮かび上がった。

 スノキチ(注:雪だるまの名前)の記憶が少しよみがえってきた。

 「ぼくはここにあった梅田東小学校で生まれたんだ!
 でも他のことは思い出せない…。
 もうひとつ思い出したぞ!
 “メガネの2階、壁に学舎がある場所を調べ、合言葉を伝えろ…。”
 うーん、何のことだろう???」

 メガネの場所に行き、合言葉を伝えよう。

 僕の言いたいことは1つだ。

 まだ終わらんのかーい!!

PC232045

 地図を見ると、メガネのアイコンが関西大学梅田キャンパスの上にあった。大工大のキャンパスから、JR京都線沿いの信号を渡ってその場所へ向かう。通りに面した自動ドアから入ると、スターバックスコーヒーだった。あちこちに本棚が置かれた店内は、落ち着きがあって、静かで、休日に読書や作業に打ち込むにはもってこいの場所に思われた。そこへ、「どこへ行くんだっけ?」「2階ってなってましたね」「え~学舎学舎」と言いながら分け入っていく僕らは、さぞ場違いだったことだろう。

 学舎の壁は程なく見つかった。グーチームがいたからだ。「お昼どうします?」グーチームを率いる部長から尋ねられる。「僕らは解けるまで頑張るよ」C氏が答える。それから僕らは、メッセージをチェックし、忘れないよう写真に残す。

 合言葉を黄色いバンダナに伝えろ。
 街に黄色い明かりを灯した時星の導きに従え。
 導かれた5文字が合言葉だ。

 その場で謎解きにかかるグーチーム。対する僕らパーチームは、自動ドアを出てすぐのところでしゃがみ込み、キットを広げて謎解きにかかった。

 用意したのは、地図とクリアファイルの2点だ。「黄色い明かりっていうのはこれでしょ」C氏がそう言って、クリアファイルの上の方にある、BCG注射の跡のような黄色い四角の集合体を指す。そして、それを地図の上に重ねる。すると、クリアファイルに描かれている黄色い星が、幾つかの建物と重なった。その場所に合言葉のヒントがあるのだろうか。だが、何だかしっくりこない。

 この時、僕はずっと気になっていることがあった。黄色い四角の集合体が街の明かりなのだとしたら、それはビルの窓に灯る明かりに違いない。どこかにビルの絵があるはずだ。

 地図じゃない気がする。その裏面は絵と文字だけの紙だ。だとしたら、冊子か……ページをめくる。すると、第3章のページの下に、ビルの絵があった。冊子の上下を逆さまにして、クリアファイルに挿し入れる。黄色い四角が、ビルの窓にぴったり重なった。

「わかりましたよ!」

 僕はそう言って、C氏とMさんに答えを見せた。「それか!」2人がそう言って、同じことをする。「もうほんとに無駄なく使うんですよ。細かいところにヒントが隠されてる」C氏が改めて、謎解きの極意を僕らに伝授した。

PC232048

 ビルに明かりが灯った時、クリアファイルに描かれた星は、ページにある7つの文字を囲んでいた。

 リンゴアワセロ

 「やっぱりこれだ」C氏はそう言って、冊子表紙の真ん中にある青いリンゴの絵を示した。そして、「で、合わせるリンゴは、これやな」そう言って取り出したのは、僕がなくしたあの丸い紙だった。仕方がないので、僕はMさんの謎解きにおじゃまする。

 リンゴの位置が重なるように、丸い紙を上に置く。丸い紙の縁には三角矢印が沢山ある。それが何かを指し示すんだと僕は思った。けれども、どうやら違うらしい。地図やその裏、色んな紙を重ねてみるが、どれもしっくりこなかった。

「答え何文字やっけ」
「5文字です」
「……もう阪急三番街でええかな」

 僕らがそんな話をしていると、頭上にヌッと影が伸びた。見上げると、チョキチームの3人がいた。

「今から中ですか?」

 C氏が尋ねる。

「そうです」

 チョキチームのリーダーH氏が返す。

「ここ難しいですよ。僕らもう1時間くらい悩んでます」

 Mさんはどうやら1時間悩むのが好きらしい。もっとも、今は第1章の時とはわけが違う。悩んでいるのは事実なのだ。

 やり取りもそこそこに、チョキチームは建物へ入っていく。最後にH氏が僕らを見てポツリと言った。

「なんか、コンビニの前でたむろしてる中学生みたいですよ」

 チョキチームと入れ違いに、今度はグーチームが建物から出てきた。グーチームの3人は、僕らを見るなりゲラゲラ笑った。スターバックスの前でしゃがみこむ怪しい男3人の姿に笑ったらしいのだが、その時の僕には、謎解きレースの先頭を行く者の余裕の笑みにしか見えなかった。僕はフンと笑ってカメラを手に取り、道端に立って最後の問題に挑戦する3人の姿を撮った。

 その時だった。

「わかった!」

 C氏が声をあげた。

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 次回いよいよ最終回です。まだ先は長いですが一気に書きたいと思います。それでは。

 昨日に引き続き、読書会謎解き部、第1回部活動の話をしようと思います。梅田・茶屋町を舞台にしたまち歩き型謎解きゲーム「記憶を失くした雪だるま」。グー・チョキ・パーの3チームに分かれゲームを開始した我々は第1章を解き進め、第2章の手掛かりが隠された神社へと向かいます。その神社から、話を続けることにしましょう。

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 阪急の高架に面した通りに、綱敷天神社という神社がある。境内へ通じる石段を登って左手に、第2章へ進むための鍵を握る雪だるま・雪じいがいた。雪じいのイラストの下に、キーワードが書かれている。キットの冊子にあるQRコードを読み取り、開いたページにそのキーワードを打ち込む。すると、雪じいの台詞と共に、第2章で巡る3つのポイントが示された。

 第2章の舞台は、ロフト、ジュンク堂書店、NU chayamachiの3か所。第1章の舞台から1ブロック南に下りたエリアだ。

 C氏・Mさん・僕のパーチーム3人衆は、まずNU chayamachiに向かい、ここでの謎解きを難なくクリア。続いてロフトへ向かった。しかし、ここは難関であった。

 冊子の指示に従い、1階のエレベーターホール前に向かった僕らは、モニターに示されたひらがな6文字をメモし、指示に従ってエスカレーターで3階へ向かう。3階には、目を凝らさないと売り物に紛れてしまいそうな小さなモニターがあって、ここにも、ひらがな6文字の暗号と、5階へ上がれという指示が記されていた。再びエスカレーターへ乗り、5階へ向かう。

 不思議なことに、ここに来てから他のチームとすれ違うことがなくなった。「僕らが一番じゃないですか」「それはないわ。グーが先行ってたやろ」「そこらの店でランチでもしてるんじゃないですか」「あら、やっと来たの? もう食べちゃったわよ、とか言ってたりして」そんなことを言いながらスマホを見ると、ラインが1件来ていた。

 こちらチョキチームです。
 雪じいがわかりません💦
 皆さまの進捗状況をドーゾ

 どうやらチョキチームは第1章終盤で苦戦しているらしい。勝機はある。

 こちらパーチーム、現在第2章中盤です!

 もっとも、問題は第1章の時点で先行していたグーチームだ。そう思っているところへラインが来た。

 遅くなりました💦グーチームは第2章終盤です👍

 やはりこのチームは早い。急がねば。

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 ロフトの5階に着くと、目の前にモニターがあり、またしてもひらがな6文字の言葉が書かれていた。暗号はこれで最後だった。程なくして、リーダーC氏が暗号を解読した。横6文字のひらがなを上から下に3列並べ、今度はそれを左から右へ縦読みする。

 れじのてんいんのむねのあかじがこたえ
 レジの店員の胸の赤字が答え

 「ほ~なるほど~」と僕とMさんが感心している間に、C氏はひとりレジへ向かい、そして引き返してきた。

「あの後ろで作業してる人の名札、何か書いてある」

 それだ! その文字を読めば、謎が1つ解ける。

 しかし、問題はここからだった。

 赤字の札をつけた店員は、レジの奥でずっと、品物のラッピングをしている。ちょっとぐらい交代してもよさそうなものなのに、全然その気配がない。おまけに、俯いたりしゃがんだりしていることが多い。だから、赤字の札は目に付いても、文字が一向に読めないのだ。

 途方に暮れてカウンターの前に立ち尽くす男3人。その横に、見慣れた3人組が現れた。グーチームである。グーチームの3人は僕らの姿を見ると二ッと笑った。そして、大事な発見を横取りされまいとするように急によそよそしい態度になって、壁にへばりつくように行き過ぎた。

 急がねば。しかし、どうしても文字が読めない。

 その時、ラインの通知が来た。

 チョキ
 第三章に突入します✨

 何があった、何が起きた、何がどうした!?

 衝撃の展開とはこのことだ。つい数分前まで第1章終盤で躓いていたはずのチョキチームが、僕らと一度たりとすれ違うこともなく、グーチームさえも追い抜いて第3章に突入している。僕らは一気に逆転負けを喫し、2チームの後塵を拝している。

 その時、C氏が動いた。

「ちょっと僕ジュンク堂先行きますわ」
「わかりました。お願いします」

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 レジの前に、Mさんと僕が取り残された。店員の胸にさがる名札の赤字はまだ読めない。僕は首からさげていたカメラを持ち上げ、望遠機能を使って覗く作戦を考え付いた。が、変態みたいだなと思ってすぐにやめた。とすると、残された作戦は1つだ。

「なんか買ってレジに並んだら、近づけるんじゃないですかね」

 すると、

「じゃあ僕これ買ってきます」

 そう言うが早いか、Mさんがチョコレートの詰め合わせを持ってレジに並ぶ。言うだけ言って何も買おうとしなかった僕は、無性に悔しくなって、サービスカウンター越しに店員の姿を追い続けたが、相変わらず成果は上がらない。そこへ、Mさんがやって来る。

「読めました。“とけい”です」

 すみません、Mさん。

 もっとも、すまながっている暇はない。謎を解いた僕らは、ひとまずロフトを下りる。チョキチームが第3章に突入してから、既に5分が経過している。

 僕にできることは、つまらないボケを考えてラインに投げることだけだった。

 パーは文字通りお手上げです✋

 そこへ、C氏から電話が入った。

「お疲れ様です。いま文字を確認してそちらへ向かってます」
「そしたら7階へ来て」

 7階!?

 確かジュンク堂のメッセージは、1階の入り口付近にあったはずだ。しかし、C氏は7階にいる。どうやら、1階のメッセージは7階へ誘導するための指示文のようだ。つくづく、第2章は垂直移動が多い。

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 ジュンク堂の謎解きはあっさり終わり、第3章へ通じるヒントが浮かび上がった。

 とけいから始めてスキーで終わるように線でつないだとき、サンカクを上から読め。
 魔法使いの雪だるまは、答えが示す場所にいるだろう。


 ここから答えの場所に辿り着くまでは、ひたすらC氏劇場が続いた。まず、地図の裏面をみる。無人島に流れ着いた手紙を思わせるシミの付いた紙に、幾つかのイラストと文字がランダムにかかれている。その中に、時計とスキーのイラストがあった。時計から始めてスキーで終わるように、絵しりとりをし、軌跡を直線でなぞる。すると、途中で何度か直線が交差し、三角形をなしている場所があった。それに囲まれている文字を、上から順に読む。

 ユビワニアルタキシード

 「指輪あったよな」そう言いながら、C氏は紙を裏返し、地図を見る。果たして、地図の中央やや右寄りに、指輪の絵がある。指し示している場所は、大阪ベルェベルビューティー&ブライダル専門学校だ。

 すぐさま向かう。角のショーウィンドウの中に、キーワードをもつ雪だるまがいた。冊子のQRコードを読み取り、キーワードを入力する。画面が更新され、第3章の舞台を示す文章が浮かび上がった。

 ろうそくに明かりを灯し、オレンジの導きに従え。

 これもC氏がすぐさま解いた。使ったアイテムは、キットを入れていたプラ製の袋だ。かねて睨んでいた通り、袋の外側を切り取るとクリアファイルに変貌する。そのクリアファイルに地図を挿し入れる。そして、地図の外に描かれたろうそくの絵と、クリアファイルに描かれた炎の絵を重ね合わせる。すると、クリアファイルに描かれたオレンジの〇が、地図上の一点を示した。
 第3章の舞台は、大阪工業大学梅田キャンパスだ。

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 ロフトでえらく手間取ってしまいました。謎解きの話じゃありません。このレポートの話です。というわけで、第2回レポートはここまでです。謎解きはこの後感動の第3章、そして、感動を裏切る波乱の最終章へと続きます。こりゃあと1回じゃ終わらねえな……何はともあれ、次回をお楽しみに。

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