前回に引き続き、大阪・彩ふ読書会プレゼンツ『I Love Youの訳し方』スペシャル読書会の振り返り、その続編をお届けしたいと思います。

 10月6日日曜日、大阪の桜橋交差点の近くにあるレンタルスペース「オックスフォードクラブ」にて、毎月恒例の大阪・彩ふ読書会が開催されました。午前の部=推し本披露会、午後の部=課題本読書会の二部構成で行われた、というところまではいつも通り。しかし、今回の午後の部=課題本読書会は、いつもとちょっと(?)様子が違います。

 課題本は、望月竜馬さんの『I Love Youの訳し方』。古今東西の様々な作家が、その著作で、あるいは想い人へ宛てた手紙の中で、実際に使った愛の表現を集めた一冊です。

 かくなる本を扱うからには、心ときめく時間をお届けしたい——

 発案者・ヅカ部長のそんな情熱のもと、今回の課題本読書会は、ただグループに分かれて本の感想を述べ合う会ではなく、次のようなものとして企画されました。

・まず、それぞれの“言いたいI Love You”を、情感たっぷりに読み上げる。
・次に、それぞれの“言って欲しいI Love You”を発表し、実際に他の参加者から言ってもらう。
・その後で、紹介された“I Love You”の中から、各グループの“ベストI Love You”を決定する。
・さらに、“ベストI Love You”を台詞に織り込んだ寸劇を作り、全員の前で発表する。

 いきなりこれを読まれた方は、早くも置いてきぼりにされた感じかもしれません。愛の言葉を伝えあって、挙句の果てに寸劇? 読書会に来ただけなのに? そう思うのも無理はありますまい。僕だって、読書会の話を書いているんだか、学芸会の一部始終をまとめているんだかよくわからんのですから。でもまあこの際です、細かいことは抜きにして、一冊の本を巡り、オトナが本気で悪ノリする様を、とくとご覧くださいませ。

 さて、以下この記事では、僕が参加したCグループの様子を中心に話を進めていこうと思います(読書会の話し合いはいつも複数のグループに分かれて行います。今回は22名の参加者がいたので、グループを3つに分けて愛を語り合いました)。メンバーは僕のほかに7名。進行役を務めるヅカ部長、大阪読書会リーダーのHさん、この日読書会の総合司会を務めたヘリングさん、タカラヅカ娘役ファンと言えばこの方というベテラン女性、通り名を“遠藤周作の人”という純文学ファンの男性、参加2回目の女性、初参加の女性という顔ぶれでした。もっとも、この先、誰がどの言葉を紹介したのかについては、原則ナイショでお送りしたいと思います。

 それぞれの“言いたいI Love You”については、前回の記事で詳しく取り上げていますので、そちらをお読みいただくことにし、この記事では、それぞれの“言われたいI Love You”を紹介するところから話を始めたいと思います。

 が、意地でも前編は読まないという方のために1つだけお伝えしておくことがあります。“言いたいI Love You”について話す途中から、僕らは徐々に言葉そのものの吟味を離れ、どんなシチュエーションがその言葉に相応しいのかを、あたかもドラマの演出家にでもなったような気持ちで考え出すようになっていました。人呼んで、ディレクション大喜利状態。最後に寸劇が待ち構えているせいもあってか、会が進むにつれて、ディレクション大喜利はいっそう加速していきます。そしてこの頃には、誰もが二言目には「それで、どんなシチュエーションでその言葉を言って欲しいんですか?」と尋ね出すというところまで我々は暴走しておりました。これからお送りする振り返りには、この暴走の痕がくっきりと表れています。が、恐れも呆れもせず、どうかそのまま受け止めてください。

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◆3.言われたい愛の言葉たち

★①「僕はあなたをおもうたびに一ばんじかに永遠を感じる」(高村光太郎、p.180)

 まず紹介されたのはこの言葉でした。あなたを想う間は、あなたといる間は、全てが一瞬に思えるということでしょうか。時を忘れるというのは、全てを一瞬に感じることであり、いまこの時を永遠に思うことでもあるのだろう、そんな気がしてきます。紹介した方は、隣のページの解説にある「その人のそばにいると、自然な姿でいられるとき、きっとふたりの相性はとてもよいのだと思う」という一節が気に入ったと話していました。

 さて、高村光太郎と言えば『智恵子抄』であり、『智恵子抄』と言えば安達太良山であるというのが僕のイメージになっています(完全に国語便覧の受け売りですが)。というわけで、穏やかな秋の風に吹かれながら、草原の遥か遠くに佇む山を2人で眺めるシチュエーションが、この言葉には相応しかろうと思ったのですが、あいにく誰の賛同も得られませんでした。

★②「僕は君が結婚したら、死ぬ。きっと死ぬ」(福永武彦、p.134)

 「これだけ思われてみたい」それが紹介の理由とのことでした。確かに、命を賭けるほど想われてみたいと一度は思うものなのかもしれません。紹介した方は、「でもこれを言う時、相手はナイフを持ってるかも」と怯えてもいましたが。

 もっとも、シチュエーションを考える段になって、この言葉のイメージはガラリと変わっていきます。相手は結婚間近なんだろうか。いや、案外そうではあるまい。むしろ結婚の現実味が薄いからこそ、ある種の戯れとしてこの言葉が出て来るんじゃないか——そんな話し合いの末、僕らが辿り着いたのは、友だち以上恋人未満の関係にある2人がじゃれ合っている中で、何気なくこの言葉が出てくるという設定でした。ナイフの鋭さが取っ払われ、ふわふわしたものが出てくる。ここまで来ると、ディレクション大喜利も捨てたもんじゃありません。

★③「でも、好きって言いたくなかったの。たぶん、それよりずっと好きだったから」(村田沙耶香、p.112)

 これはいい。ホントにいい。めちゃくちゃいい。僕は君がこれを言ったら、死ぬ。きっと死ぬ!……というわけで、これが僕の紹介した“言われたいI Love You”です。理由はもう説明できません。あまりに良すぎて。

「で、どんな風に言われたいの?」

 いよいよ自分が問われる番がやって来てしまいました。「向かい合って? それとも?」そんな風に尋ねられます。暫く考えた末、ベンチで横並びが良いと答えました。そこまでは良かったんですが「目を見て言って欲しい?」と訊かれたところから僕が暴走してしまいます。

「いや、最初は合ってないんじゃないですかね。お互いにまっすぐ前を見ているんですよ。特に最初『好きって言いたくなかったの』って否定から入ってますから、ここで目線があってるのはおかしい。でも、その後、『たぶん、それよりずっと好きだったから』っていいながら、徐々に相手の方を振り向いていく。そして、言い終わったところで、言われた側も向き直って、お互いの目線が合うみたいな」

「はい、カット!」Hさんのツッコミで僕らは我に返りました。「目線ひとつでどんだけ細かいディレクションすんねんって思いましたよ」

★④「きみを知る前の人生を忘れてしまいたい。ぼくはきみから始まり、きみで終わる、きみがすべて、きみだけを通して呼吸している」(ジャン・コクトー、p.202)

 めちゃくちゃロマンチックだなあと思ったフレーズです。しかし、それ以上に印象的だったのは、紹介した方の次の言葉。「晩年に言われたいなあって思いました」そんな先のことまで全然考えてなかった。僕は普通にいま言われたい言葉のことばかり考えていました。それだけに、遠い未来を見据えたこの方は凄いと思いました。

 ところで、「晩年」ときいた瞬間、僕はビビッとくるものがありました。あれとつながる。“言いたいI Love You”の中で出てきた、今際のきわがぴったりくる、あの言葉と——

 白を基調とした柔らかい日のさす静かな病室。見舞いに訪れ傍らでじっとしている夫に、妻がささやく。

「たくさんのおんなのひとがいるなかで わたしをみつけてくれてありがとう」

 夫ははっとした表情で妻を見る。穏やかでつぶらな瞳がじっとこちらを眼差している。夫は感に堪えぬと崩れることも身体を震わすこともなく、代わりに真剣そのものの表情となり、じっと妻を見つめる。

「きみを知る前の人生を忘れてしまいたい——」

 これだぁっ!!

★⑤「私はあなたを夢にみていた」(菱山修三、p.196)

 薄々勘付いておられる方もいるかもしれませんが、“言いたいI Love You”の紹介順と“言われたいI Love You”の紹介順は同じです。つまり、“言いたい”の⑤と“言われたい”の⑤を紹介した方は同じなのです。ということは、「ぼくはもう何度も、彼女を食べる夢を見た」云々という言葉に惚れ込んだ方が、「私はあなたを夢にみていた」と言われたいということです。「自分はひねくれてるけど、言われる言葉は素直なのが良い」ちょっと話がウマすぎる気がするんですが僕だけでしょうか。あとお互い夢の見過ぎです。熟睡してください。

 この言葉をどんな場面で言われたいかと問われて、紹介した方は「やっぱり夜ですかね」と言っていました。そこへ割って入ってしまったのが僕。「いや、意外と朝もいけるんじゃないですかね」朝食を摂った後のぼんやりとした時間に、女が唐突につぶやく。「私はあなたを夢にみていた」演出次第で行けるだろうと得心していると、待ったがかかりました。「本人の意向を無視しないでください!」ディレクションの暴走は止まらない。

★⑥「怖がらなくていいさ、僕はお前に惚れているんだもの、バカだね」(北原白秋、p.188)

 「バカだね」って言われたいんでしょうか。そういうものなんでしょうか。そういうものなんだそうです。紹介した方は、この「バカだね」が良いと言っていました。「最後のバカだねは照れ隠しですよね」なるほどそうか、と思いました。恥ずかしそうに目を逸らしながらの「バカだね」確かにこの不器用な感じは却ってグッときそうです。

 話し合いの中では、紹介した方のためにこのフレーズを読み上げた方の声の調子も評判になりました。「めちゃくちゃいい『バカだね』でしたよ」という、他で聞くことないだろうなあという褒め言葉が口々に出てきました。「なんか書生感がありましたよ」という感想もありました。「明治大正の風情ですね」その話を聞いていた僕は、思わず、「はいからさんが通るですね」と言ってしまいました。すると「そうそうそう!」とヅカ部員が総興奮……って、もはやディレクションでもなんでもなーい!

★⑦「キスしてもいいですか」(島本理生、p.44)

 えー! えー! これ言われたいんですか。マジですか。ヤバい。キュンキュンする。聞いてるだけで火照っちゃう。オーバーリアクションとかじゃなく!——えー、取り乱してすみませんでした。でも、当日の僕は本当にこんな感じの反応だったと思います。

 紹介した方曰く、課題本を読んだ時から、言われたい言葉はこれ一択だったそうです。「敬語なのがいい」そんな話がありました。いきなりキスするのでも、キスを迫るのでもなく、控え目に尋ねる。きっと彼(この言葉を言うのは間違いなく男だという話もありました)と彼女は、まだそれほど親し過ぎないのだろう。遠慮がちな言葉だからこそ、彼の気持ちがいっそう乗る。それがたまらないのだそうです。この言葉には、前後のドラマも人物の設定もいらないという話になりました。「キスしてもいいですか」それがすべてなのです。

★⑧「さようなら。もうお目にかかりません。でもすこしだけ、誰かのものになれてうれしかった」(江国香織、p.50)

 “言いたいI Love You”の方でも登場した江国香織のこのフレーズが最後に再び登場しました。「いいんですか、『さようなら』ですよ」と何人かからすかさずツッコミが入ります。紹介した方は「いや、そういうことじゃなくて」と他のメンバーをなだめてから、「誰かのものになれてうれしかった、これがめちゃくちゃ良いんですよ」と話していました。これには一同「あー!」でした。

 ちなみに、「被ってしまった」ということで、この方からはもう1つフレーズを紹介していただきました。

★⑨「デートなんてまったく楽しいものじゃない。なのに、またすぐに会いたくなった。次のデートが待ちきれないほどに。翌朝、学校で顔を合わせるまでの時間さえもどかしいほどに。さっき別れたばかりの彼からの電話を息を殺して待つほどに」(森絵都、p.98)

 この方は、最後の「さっき別れたばかりの彼からの電話を息を殺して待つほどに」がいいと言っていました。「これがなかったら選んでない」と。でも僕は、この言葉を読んだ時、前半の「デートなんてまったく楽しいものじゃない。なのに、またすぐに会いたくなった」がとても良いなと思いました。楽しくないのも、それでも会いたいのも、どっちも真実。それをストレートに表現しているのが凄いと思ったのです。そう言うと、「あー確かに」と言われました。

 ちなみに、このフレーズをディレクションするなら、役者は無言で芝居をしていて、ナレーションで上の言葉が流れるのが最も自然のような気がします。ナレーションぶっ通して3カットぐらいつないで、最後に、スマホをギュッと握りしめる画に辿り着く——ええ、もう思い残すことはありませんとも。

◆4.“ベストI Love You”、そして寸劇へ

 以上、Cグループで紹介された“言いたいI Love You”“言われたいI Love You”全17フレーズをご紹介しました。それでは、この中で最も心ときめくフレーズに選ばれた“ベストI Love You”を発表したいと思います。もっとも、ベストと言いつつ、同率1位が2つございました。

 まず1つ目はこちら。

★「たくさんのおんなのひとがいるなかで わたしをみつけてくれてありがとう」(今橋愛、p.108)

 ディレクション大喜利の幕開けとなったあの言葉が見事1位に輝きました。実際、おふざけ抜きで、この言葉はとても良いと思います。他でもないこの私を見つけてくれた、他でもないあなたへ、感謝という形で愛を表現する。素敵ですよね。

 そして、もう1つがこちら。

★「でも、好きって言いたくなかったの。たぶん、それよりずっと好きだったから」(村田沙耶香、p.112)

 なんと、僕が“言われたいI Love You”で紹介したこの言葉が1位になりました。ありがとうございます。先ほどの言葉もそうですが、Cグループでは、直接的に愛を強く伝える言葉よりも、控えめに、あるいは遠慮がちに、その奥にある強い愛を滲ませるような言葉が高く評価されたということなのかもしません。

 ちなみに、後で「胸キュン♡グラフ」をみたところ、この2つの言葉はともに24ポイントを獲得していました。Cグループのメンバーは8人で、持ち点はそれぞれ3ポイントでしたから、この2つの言葉には全員が最高評価をつけたことになります。それだけグッとくる言葉もあるのでした。

 さて、“ベストI Love You”が決まったところで、いよいよ寸劇づくり本番です。話し合いの末、Cグループでは、既に場面設定の固まっていた今橋さんの言葉の方を使って寸劇をつくることにしました。病室で、余命いくばくもない妻が夫にこの言葉を言うシチュエーション。そしてさらに、夫の方も、ジャン・コクトーの言葉「きみを知る前の人生を忘れてしまいたい……」ということにしました。

 病室ですから、妻はベッドに寝ていなくてはなりません。「どうするんですか」と尋ねると、カフェの椅子を並べてベッドに見立てるのだと言われました。「シーツがありませんよ」と言うと、「そんなのはいい」と言われました。それから、2人の動作や前後の台詞も考えなくてはなりません。妻には、病気であることがわかるように咳の演技をしてもらうことにしました。一方夫には、持ってきた花を活ける仕草をしてもらうことにします。「いきなり話し掛けるんじゃなくて、何か合図があった方がいい」というので、今橋さんの言葉の前に、妻には一度「ありがとう」とつぶやいてもらうことにしました。そして、夫が「ん?」と注意を向けたところで、愛の言葉を述べるのです。これでシナリオは完成しました。

 最後に、配役です。妻役はヅカ部長が、そして、夫役はHさんが担当することになりました。人呼んで、大阪サポーターズがんばるの巻です。いざ演じると決まるや、2人は急に、「これ本をもってやったらおかしいよなあ」と考え出しました。「一緒にアルバムを見ている設定にすれば、本を持ってても違和感ないと思いますよ」僕はそう言いましたが、返ってきた答えは、「いや、覚える!」やるからには本気でやる。それがこの2人の流儀なのでした。

◆5.全体発表

 そしていよいよ、全体発表が始まります。全体発表では、Aグループから順番に“ベストI Love You”が発表され、それに続いて寸劇が披露されました。

 Aグループでは、同率1位の“ベストI Love You”が2つ出たそうです。その2つがこちら。

★①「会いたくて 淋しい あなたに会いたくて淋しい 会えなくて淋しいではなく」(北川悦吏子、p.66)

★②「疲れた君がひたすら海をみるための 小さな白い椅子でありたい」(斎藤芳生、p.128)

 どちらもCグループでは紹介さえなかった言葉です。グループが違うとこんなにも出てくる言葉は違うのだなあと感じました。

 そして、寸劇が始まります。その前に、Aグループでは“ベストI Love You”とは別のフレーズを使って寸劇を作ったという説明がありました。さらに言うと、このグループにいたある方が紹介したフレーズを使ったのだということでした。いよいよ、出演者が立ち上がり、寸劇が始まります。

「それでは始めます。ショートコント、北方謙三」

 その瞬間、会場は割れんばかりの爆笑に包まれました。何が出てくるか、もうみんなわかってしまったのです。それにしても、このタイトルはズルい。ショートコントって言い切ってしまうのもズルいし、北方謙三というタイトルはもっとズルい。

 果たして、寸劇の第一声は「別れろよ、とにかく。そして俺と付き合えばいい」でした。それに対して、女性のほうが「ありがとう。でも、ごめんなさい」と断ります(断っちゃうんだ!)。傷心の男は、小さな声でつぶやきます。

「すきになる ということは 心を ちぎってあげるのか だから こんなに痛いのか」(工藤直子、p.80)

 Aグループの寸劇は、本を読みながらの朗読劇形式でした。僕らのグループでは話題になった、“北方謙三男は必ず女の腕を掴む”という一幕は、したがって実演されることはありませんでした。

 続くBグループの“ベストI Love You”は、なんと3つもありました。

★①「本当はただたださわりたくて、キスしたくて、抱きたくて、少しでも近くに行きたくてたまらなくて一方的にでもなんでも、涙がでるほどしたくて、今すぐ、その人とだけ、その人じゃなければ嫌だ。それが恋だった。思い出した」(吉本ばなな、p.74)

★②「さようなら。もうお目にかかりません。でもすこしだけ、誰かのものになれてうれしかった」(江国香織、p.50)

★③「喜代ちゃん、これからどこかへ酒を飲みに行こう。君を酔っ払わしてみたいんだ」(豊島与志雄、p.96)

 Cグループでもたびたび出ていた江国さんのフレーズが、Bグループでは第1位に輝いていました。それ以外の2つも、僕個人の感想ですが、話し合いで出なかったのが不思議なくらいいい言葉だなあと思えるものでした。特に吉本ばななさんの「それが恋だった。思い出した」はたまらないですね。

 さて、Bグループの寸劇(朗読劇)は、③の「君を酔っ払わしてみたいんだ」を挟みつつ、『I Love Youの訳し方』で取り上げられているフレーズを6つもつなぎ合わせた野心的なものでした。残念ながらその時点では聞き取れなかったものもあるため、詳しいスクリプトは下記のちくわ先生のブログをご覧ください。



 寸劇のポイントは2つ。1つは、男役の落ち着きと温かさを併せ持つナイスボイスでしょう。それもそのはず、Bグループの男役は、マンガ部長でもある京都サポーターの男性。この方は京都の彩ふ読書会の司会でその素晴らしい声を披露され、“京都のフリーアナウンサー”の異名をもつに至った方なのです。これは後で、Aグループに参加していたとある女性から聞いた話ですが、「私たちのグループでも『君を酔っ払わしてみたいんだ』って出て、読んでもらったんですけど、2人読んでもなんか違うってなって、『じゃあ何が違うんだよ』とか言われたんですよね。そしたらBグループの発表の時に『これだ!』ってなって」アナウンサーの実力、まさに恐るべし。

 そしてポイントがもう1つ。折角素敵な寸劇が進んでいたのに、それを一瞬でコントにしてしまうハプニングが起きるのです。それは、件の「君を酔っ払わしてみたいんだ」という台詞が出た直後のことでした。

「で、2人で居酒屋で酒飲んでますぅ」

 演者以外のメンバーの口から、なんだかすご~くゆる~い状況説明が挟まったのです。いやいや、そこはきっちりナレーションでつないでくださいよ。「2人は居酒屋に入り、カウンターに並んで腰かけ、酒を飲み交わした」これだけですよ。と、こんなところで再びディレクション魂が燃え上がってしまいました。

 さて、いよいよCグループの番がやってきました。その瞬間、僕も「えっ」となることが起きました。なんと、“ベストI Love You”の発表抜きで、いきなり寸劇の準備が始まったのです。おそらく気合いが入りすぎて「まず劇!」となったのでしょう。

 そして、椅子を並べる作業が始まりました。これを見て他のグループは大騒ぎです。

「なんか小道具が出てきたぞ!」

 他の2グループが小道具を使わなかったことの方が驚きですが。とにかく、他のグループと比べて明らかに手間のかかる準備が始まりました。それでも椅子が2つ並んだところまではまだ良かったのです。問題は、椅子2つでは寝るには長さが足りたいとわかり、3つ目が出てきた時でした。「カップルが座るわけじゃなさそうだぞ」と、場内はますます騒がしくなります。

 僕らからすれば、そこにあるのは、余命いくばくもない妻が寝る病室のベッドにちがいありません。ですが、他のメンバーからすればそこにあるのはただの椅子です。おまけに、その上へ寝ようとしているのが、読書会の元気印の異名を持つヅカ部長なのです。役と普段の人柄が合わなさすぎる。それでいて、ヅカ部長は全く自由なもので、いつものテンションで「待って、寝づらい」なんて言っている。

 そんなわけで、場の空気がすっかりコントを待ち構えるそれになったところで、Cグループの寸劇は行われることになりました。もっとも、劇そのものはちゃんとシリアスな雰囲気を保ったまま、見事に進行したものでした。

◇     ◇     ◇

 読書会が終わった後、僕らは口々に言いました。「まだ話し足りない」「もっと色んな話がしたい」「逆にピンと来なかった言葉を発表し合いたい」「メンバーをシャッフルしてやりたい」——『I Love Youの訳し方』は、そしてこの日の読書会は、それだけ魅力あふれるものでした。またぜひこの本を使って、あるいはまた別の方法で、愛の言葉だったり、また違った言葉だったりをテーマに、特別な読書会を開いてみたい。そんな風に僕は思うのでした。

 といったところで、10月6日に参加したスペシャル読書会の振り返りを締めくくりたいと思います。皆さま、長い文章にお付き合いくださり、ありがとうございました。