毎月恒例・彩ふ読書会レポート、今月も書いていきたいと思います。

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 915日・日曜日、京都の北山にある「SAKURA CAFÉ」というところで、今月の京都・彩ふ読書会が開催されました。

 彩ふ読書会は201711月に大阪で始まった読書会で、現在は大阪・京都・東京で毎月1回ずつ行われています。京都の彩ふ読書会は原則として毎月第3日曜日に開かれます。読書会は午前の部・午後の部の2部構成で、①午前の部は、参加者がそれぞれ好きな本を紹介する「推し本披露会」、②午後の部は、決められた課題本を読んできて感想などを話し合う「課題本読書会」となっています。さらに、京都読書会では午後の部終了後も会場を借りて、メンバー同士が交流したりゲームに興じたりする場を設けています。

 と、いうわけで、今月も、①午前の部=推し本編、②午後の部=課題本編、③アフター編の3部構成で読書会を振り返りたいと思います。まずこの記事では、①午前の部=推し本披露会の様子をみていくことにしましょう。

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 推し本披露会は、1040分に始まり、1215分ごろまで続きます。参加者は平均68名のグループに分かれて座り、司会の進行説明の後、グループ内で本を紹介し合います。1145分頃になると、再び司会が前に立ち、全体発表に移ります(全体発表はここ数ヶ月ほど、各グループで最も読みたい本に選ばれた1冊を紹介する方式でしたが、今回から、全員が本のタイトルと簡単な紹介を行う方式が復活しました)。全体発表が終わると、今後の読書会や部活動に関するお知らせを経て読書会は終了となります。その後も、めいめいテーブルを回って紹介された本を手に取ったり、趣味の話で盛り上がったりという時間が続きます。

 今回午前の部の参加者は総勢28名で、4つのグループに分かれて本の紹介を行いました。僕はDグループに参加しました。メンバーは全部で7名。僕のほか、京都副リーダーのゆうさん(彩読ラジオパーソナリティでもお馴染みですね)、大阪サポーターの女性、6月からずっと来てくださっている女性、参加2回目の男性、そして、初参加の男性が2名という構成でした。進行役はゆうさんが務めてくださいました。

 紹介された本の一覧は次の通りです。それでは、それぞれの本を巡りどんな話が展開したのか、順番にみていくことにしましょう。

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◆『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(レンタルなんもしない人)

 進行役・ゆうさんの推し本です。レンタルなんもしない人さんは、一人で入りにくい店に一緒に入ったり、ゲームの頭数を合わせに行ったり、花見の席取りをしたりと、とにかく一人誰かが必要なところに依頼に応じて出向くという“仕事”をやっている人だそうです。この本は、そんなレンタルなんもしない人さんが、自分のツイートに補足を書き加える形で“仕事”上の経験をまとめたエッセイ集になっています。

 上で挙げた例の他にも、「訴えられて裁判に出頭するので傍聴に来て欲しい」とか、はんたいに「今から人を訴えに行くんだけど一人じゃ心細いから一緒に来て欲しい」とか、「そんなことあんのかよ!?」と言いたくなる経験談がたくさん綴られているそうで、事実を羅列しているだけでありながらとても面白い本になっていると言います。

 ゆうさん曰く、一番印象に残ったのは、社会人に向いていないと自称するレンタルなんもしない人さんが、〈ただそこにいるだけでいい、それでも人はありがたがられる〉ということを発見していくプロセスそのものだったそうです。自分のできること・持てる力を発揮しようとしなくても——つまり、何かをしようと気負わなくても、何もせずただそこにいることに意味がある、ということをこの本は教えてくれるのでしょう。「人って人を求めるんだなあと思いました」と、ゆうさんは話していました。

◆『ゼロからトースターを作ってみた』(トーマス・トウェイツ)

 参加2回目の男性からの推し本。1人の大学生が、タイトルの通りゼロからトースターを作る過程を記録したノンフィクションです。

 さて、「ゼロから」とはどこからか。ホームセンターで材料を買い揃えるところからだろうと思っていた僕はたいへんな甘ちゃんでした。作者・トウェイツさんは、なんと原材料を作るところから始めたのです。つまり、トースターを作るのに鉄板がいるとなれば、まず鉱山へ行って鉄鉱石を掘り出してくる。こりゃあTKI〇もビックリだ。そうして全てをゼロから作った結果できあがるのが、表紙に載ったトースターです。何も知らずに見ると不格好にしか思ませんが、上の経緯を知るとこの形になるまでの苦労が偲ばれます……いやはや、人間の感想なんて勝手なもんですね。

 紹介された男性は、機械がいっぱいあり、ITAIという言葉が実体から遊離してもてはやされる時代だからこそ、このトースターづくりには大いに意味があったと思うと話していました。1つの機械をつくり出すのに何千何万という技術がいること、機械や技術の裏側には必ず人の手があること、われわれの生活が様々な人とのつながりや諸外国との関係のもとに成り立っていること。そういった原点がこのノンフィクションから垣間見える、そしてそれが人の胸を打つのだ。その力説にはただただ頷くばかりでした。

◆『学びを結果に変えるアウトプット大全』(樺沢紫苑)

 初参加の男性からの推し本。タイトルの通り、アウトプットについて書かれた本で、アウトプットの方法/種類やその効能などがまとめられた1冊です。殆どの内容が見開き1ページにまとまっているので、ちょっとずつ読むのにも向いていそうです。ちなみに、パラパラめくってみると、「笑う」「泣く」などもアウトプットの1つとして紹介されていました。なんだか面白いですね。

 紹介された男性は、会社の勉強会でこの本を読んだそうです。そして、「アウトプットしないと身につかない」のだと痛感したといいます。男性は高校生の頃から読書をしていたそうですが、今までずっと読むだけで、つまりインプットしただけで終わっていたそうで、そのせいか前に読んだ本の内容を忘れてばかりだったそうです。アウトプットによって物事の理解を深め、さらに、自分の周りに働きかけてみよう。そう感じた1冊だと話していました。

 確かに、アウトプットを意識するからインプットの質が上がるということはあるように思います。読書会で紹介しようと思うから、本を読み返しポイントを確認したり自分の言葉に置き換えたりする。そうして本への理解が深まるというのは、僕もよく経験するところです(逆に振り返りが間に合わなくて思いのカタマリがボロッと出てしまうこともあるけれど)。この方にはぜひまた来て本を紹介していただきたいなと思います。

◆『ジンメル・つながりの哲学』(菅野仁)

 わたくし・ひじきの推し本です。「“私”という実体はないとわかっていても、『ほんとうの私』を探してしまうという性をどのように理解したらいいのか」「親しい人の間で秘密を作ってしまうのはいけないことなのか」といった身近な問題を、人と人とのつながりに焦点を当てた初期社会学の大家・ジンメルの著作を手掛かりに考えていく1冊です。物の豊かさが実現しコミュニケーションが重視されるようになったと言われるいまこそ必要な人間関係を考えるヒントが詰まっています。

 その内容ももちろん良いのですが、僕がこの本をとても推したいと思うのは、私の目の前にある切実な問題を考えることを、社会を見通す足掛かりにしようという著者・菅野仁さんの思考スタイルが僕の目指すそれにとても近いと思うからなんです。自分を社会と切り離し中空から諸事の評定をするのではなく、社会の中(ここでいう社会にはとても身近で小さなコミュニティも含まれるし、僕はむしろその単位ばかり思い描きがちなんですが)にいる私という立場で自分の問題を考えるところから始める。そして広い視野を獲得していく。そのような視点の持ち方をミーアキャットの喩えで説明する部分が文中にあります。本当に忘れられない一節です。

◆『氷姫』(カミラ・レックバリ)

 大阪サポーターでもあるベテラン女性からの推し本。スウェーデンの作家レックバリの書いたシリーズ・ミステリーの中の1作です。幼馴染について本を書くために取材を進める中で、それまで知らなかったことが次々発覚していくという内容。村の縛りが強いスウェーデン社会の特質などもストーリーによく表れているそうです。

 実はこの本、8月末に放送された「彩読ラジオ」で紹介された本のうちの1冊です。好きな作家について3人の出演者が語り合っている最中、突如謎の差出人からのお便りが紹介されるという一幕があったのですが、その差出人というのがこのベテラン女性で、彼女がお便りに書いていたのがこのレックバリという作家と『氷姫』という作品のことだったのです。お便りが取り上げられたのが余程嬉しかったのでしょう、ラジオで取り上げられたと言いたいがためにこの本を持ってきたのだと話されていたものでした。

 ところで、この方、いつもよく海外の、それも日本ではあまり知られていない作品を紹介してくださることが多いのですが、いったいどうやってそれらの本を知るのかは、僕の中で長らく謎のままになっていました。そこで思い切って尋ねてみると、「あの、いつも本の最後に近日発刊とかで色んな本の紹介してるじゃないですか。あれで見て面白そうだなあって思ったやつを読んでます」とのこと。あの本紹介を有効活用している人、僕初めて会いました……!

◆『羅生門』(芥川龍之介)

 初参加の男性からの推し本。ご存知、国語の教科書にも登場する芥川龍之介の『羅生門』です。紹介された男性は、『羅生門』の描写がカッコよくて好きで、特に最後の一節が気に入っているそうです。試しに引用してみましょう。 

 しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくのことである。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪を倒にして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
 下人の行方は、誰も知らない。

(青空文庫より)

 

 確かに、淡々とした短文が強いインパクトを残していきますね。

 ちなみに、この男性の方、最近読書を始め、思い立ったが吉日と読書会にも参加することにしたのだそうです。そして、前の日に別の読書会へ行き、15日に彩ふ読書会に来てくださいました。ありがたい以前に、勢いの良さにただただビックリです。

◆『The Book』(乙一)

 6月から連続で参加してくださっている女性からの推し本。読書会にもファンの多いマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』第4部のスピンオフとして、作家・乙一さんが書いた小説です。もっとも、紹介された女性曰く、『ジョジョ』ファンだけでなく、ただ乙一さんのファンだという人も、さらに『ジョジョ』も乙一さんも知らないという人も楽しめる作品になっているそうです。というのは、原作の設定がきちんと説明されているうえ、作家自身のテイストが原作の作風と見事に折り合いながら物語が展開するから。そのため、一個の物語としてとても楽しめると言います。

 さらに「スゴイ」というのが、作品の締め方です。スピンオフ作品だけあって本作オリジナルのキャラクターや設定もちらほら出てくるそうですが、それらの設定がラストで全て消えるのだそうです。だから、『ジョジョ』本編には全く影響を出さない形で、スピンオフが完結する。その展開が「本当にキレイ」だと、紹介された女性は感嘆しきった表情で話していました。

 ちなみに、乙一さんは『ジョジョ』だけでなく『DEATH NOTE』などのスピンオフも手掛けているそうですが、どれも人気が高いそうです。スピンオフを書いてなお人気って、本当に才能なんだろうなあと思います。乙一さん、読んだことないんですが、何から手に取ったらいいんでしょう……?(あ、この本か)

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 以上、Dグループで紹介された本について見てきました。その他のテーブルの本については、写真がありますので、こちらをもって紹介並びに全体発表振り返りに代えさせていただきます。

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 個人的には、Bグループの『現代知識チートマニュアル』がツボでした。「この本を読んでおけば異世界に転生してもチート出来ます」そんな紹介されて笑わずにいられるわけがない。それにしても、異世界転生がさらっと仮定される現代って、どんな時代なんでしょうね……

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 そんな疑問をいい加減に残しつつ、午前の部=推し本披露会の振り返りを締めくくりたいと思います。次回は午後の部=課題本読書会編をお送りします。今回の課題本はスウィフトの『ガリバー旅行記』です。いったいどんな話が展開するのでしょう。皆さまどうぞお楽しみに。