先日紹介した第7回文学フリマ大阪を、彩ふ読書会メンバーと共に訪れた。台風15号の発生そして接近予想によって、一時はどうなるんだろうと心配した文学フリマであったが、その後台風は関西から逸れ、結果的には晴天のもと明るい雰囲気に包まれての開催となった。というわけで、読書会メンバーと共に行った文学フリマ大阪探訪ツアーの様子を振り返るとしよう。

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(画像は公式サイトより)

 文学フリマとは、文学作品の同人誌即売会である。ここでいう文学については公式サイトにおいて「自分が〈文学〉と信じるもの」と定義されているが、実際に出展されているものを見ると、小説が8割くらいを占めており、その他も評論・エッセイ・詩歌集などが殆どであるから、いわゆる文字・言葉で書かれた作品が集う同人誌即売会だと思って間違いない。全国各地で開催されており、それぞれ「文学フリマ東京」「文学フリマ大阪」のように開催される地名を名前の後ろに付している。関西では大阪と京都の2か所でそれぞれ年に1回開かれており、大阪は9月上旬、京都は1月下旬の開催となっている。

 今回の第7回文学フリマ大阪は、天満橋にあるOMMビルの2階展示室が会場で、開催時間は11時から17時までであった。出展ブース数は500で、これは大阪では過去最大規模であったらしい。出展者は、大学の文芸サークルに所属する学生さんから、趣味で様々書いているお年寄りの方まで幅広く、老若男女百花繚乱の観があった。出身地別でみると、大阪近辺の方が多いことは確かだろうが、札幌から来ているという方もいらっしゃったし、以前神奈川の平塚から来ていると話していた方の姿もあった。要するに、様々な人がいたということである。もちろんそれは、僕ら買い手側とて同じことだ。なお、公式Twitterの発表によると、今回の文学フリマ大阪の来場者数は2,155人で、初めて2,000人を突破し、過去最高を更新したそうである(9/9追記、その後の集計の結果、正しくは2,175人とのこと)。

 僕が文学フリマを知ったのは2年前のことである。以来数回ひとりで買いに行っていたのだが、今年1月の文学フリマ京都の際に初めて人と回るという経験をした。そして今回、かねてより文学フリマに興味を示していた彩ふ読書会主催者・のーさん企画のもと、読書会メンバーによる文学フリマ探訪ツアーが実現し、大人数で文学フリマへ行くという、かつては考えられなかった形で文学フリマを見て回ることができた。

 ツアーの参加者は途中参加の方も含め総勢11人。これは読書会の通常の部活動と比べても多い人数である。11時に会場前のロビーに集合した僕らは、まず会場全体をぐるりと回った後、一旦解散して自由行動をとった。そして13時半に再び集合してビルの飲食店街へ向かい、お昼を食べながら戦利品の報告などをしあった。その後、僕を含め一部のメンバーは再び会場に戻り、また暫くブースを見て回った。全体解散は15時半ごろのことだった。

 10人近い人数で列をなして全ブースを順々に見ていった僕らは、ややもすれば総回診を行う医師団さながらのおっかない連中に見えたにちがいない。もっとも、僕ともう1人のメンバーを除けば、文学フリマに来るのは初めてという人ばかりだったから、「面白い」「色々ある」「あれ気になる」と無邪気に興奮していたというのが実際のところだった。僕自身は後述する見本誌コーナーで気になる本を絞り込むつもりで、とりあえず雰囲気を見るために回っていただけだったのだが、他の方にとっては何もかもが新鮮で、心惹かれるものばかりだったのだと思う。かくいう僕も、後で他のメンバーに教えられて見に行ったブースもある。やっぱり、一緒に回る人がいるというのは、面白いことであり、ありがたいことであった。

◇     ◇     ◇

 さて、ここから暫く、僕自身の回り方や戦利品のことを中心に話を進めよう。

 自由行動に移った後、僕はまず見本誌コーナーへ向かった。文学フリマの会場には見本誌コーナーというものがあり、多くのブースが新刊本の見本をここに並べている。各見本誌には出展者名とブース番号が記載されたタグが貼られているので、それらをチェックしてパンフレットの会場図にマークしていけば、その後の行程がスムーズになる。僕はいつもここで色んな本を手に取り、気になる本を見つけてからそのブースへ買いに行くという方法を採っている。そうしないと、会場を回っているうちに色んな本に目移りしてしまい、集中力と財布の中身をごっそり持っていかれることになるからだ。

 これは他のメンバーの感想であるが、「落ち着いて本が読める場所があっていい」「気兼ねなく本を手に取れるのはありがたい」と、見本誌コーナーは評判が良かった。同人誌即売会の醍醐味の1つは、作家さんとブースで直接話しながら本を買えることであるが、考えてみれば、色んなブースで立ち止まった挙句多くの場合本を置いてそのまま立ち去るというのは、なかなかに気まずい。その点、本だけが置かれているコーナーというのは、作品をじっくり見たいタイプの買い手にはうってつけの場所である。今回の文学フリマ大阪では、ブース数が増えたからであろう、見本誌コーナーは本会場とは廊下を挟んで別の一画にあった。振り返ってみるに、落ち着いて本が読めるという意味では、とても有難いレイアウトだったように思う。

 僕はたっぷり40分くらい時間をかけて幾つかの見本誌を手に取り、気になる作品とそれが置かれているブースの位置をチェックした。それから本会場に戻り、それぞれのブースを回り、簡単なコミュニケーションも交えつつ本を買っていったのだった。

 それでは、戦利品をご覧に入れるとしよう。まだ中身には目を通せていないから、なぜその本を手に取ったのかや、ブースでどんなやり取りがあったのかというエピソードと共に紹介していきたいと思う。

◆『もうちょっと生きる』(三田三郎さん)

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 見本誌コーナーで気になった歌集である。1月の文学フリマ京都以来、どういうわけか、文学フリマに来ると歌集に目がいくようになる。普段本屋ではまず手に取らないからなおのこと不思議である。

 数ある歌集の中からこれを選んだのは、最初の一首をはじめ、幾つかの歌になんとも言えない深さを感じたからである。

 人類の二足歩行は偉大だと膝から崩れ落ちて気付いた
 桜なんて散ればピンクのゴミだよと笑う僕らも死ねば生ゴミ
 帰り道ふらりとバーに寄るようにこの世に来たのではあるまいに

 改めて挙げてみるとどれも些か暗い歌であるが、僕はどういうわけか惹かれたのである。この理由を説明するには暫くかかるに違いない。なお、ブースに行くと、作者がちょうどいらっしゃったので二言三言言葉を交わすことができた。もっともそれだけで、いったいどこからこんな歌が出てくるのかがわかるはずもなく、凄いなあという感嘆が残るばかりであった。

◆『四条大橋』(降木要さん)

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 社会人になってから読書会に参加するまでの1年数ヶ月、よく週末にひとりで京都へ行っていた。僕は阪急沿線民なので、電車でふらりと京都へ向かうと河原町に辿り着く。駅を降り地上へ出たあと、まず向かうのは決まって四条大橋だった。そして、特に深い理由もなく、橋の真ん中から鴨川の写真を撮る。それから向こう岸へ渡ったり、元来た方へ引き返したりして、街歩きにかかるのだった。要するに、四条大橋とは、僕にとって京都の入口であり、その日の京都の最初の一枚を撮る場所なのである。

 その場所が、他に人にはどう見えていて、作品としてどんな風に描かれるのか、見てみたいと思った。

 裏表紙に書かれたあらすじを読むと、四条大橋でパフォーマンスをする路上アーティストなど、夢を見つけた若者たちの物語とある。確かに、四条大橋には必ずアーティストがいるが、あの橋が夢を見つける場所として描き出されていること自体が、もう新鮮だった。

 ブースには作者の方が1人で座っていらした。簡単に言葉を交わすだけになってしまったが、『四条大橋』は学生時代の卒業制作で、自信作なので廉価版で頒布しているとのことだった。ますます読んでみたいと思った。

◆『たこまめ 創刊号』

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 「立ち読みだけでも」と引き留める声に立ち止まり、思わず買ってしまった1冊。中をパラパラとめくってみると、住吉川・尼崎など、具体的な地名が幾つか目に付いた。これは僕好みの作品だと直感し、ブースにいた方にその通り伝えると「参考になります!」と頭を下げられてしまった。いや、そんな、単に好みを言っただけなのに、と僕は困惑し、引き下がることもできず、手に取っていたこの本をそのまま買った。

 正直言って、今回買った本の中で、一番中身がよくわからないのはこの本である。果たして、僕の直感は当たるか外れるか——

◆『小説本作成ガイドブック テンプレート&書体サンプル』(太陽出版株式会社)
◆『本を書く、作る。 改訂版』(株式会社ジャストシステム)


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 文学フリマの会場には、同人誌の印刷・出版に携わる業者のブースが必ず存在する。そこで手に入れた無料配布の資料である。あるメンバーから「表紙の色見本があって面白いですよ」「小説の書き方のパンフレットもありましたよ」「あと、手提げ袋もらえますよ!」と教えていただいたのがきっかけで、上のブースにも足を運んだ。

 特に面白かったのはジャストシステムさんのブースでのやりとりである。日本語ワープロソフト「一太郎」を出しているのがこの企業なのだが、「一太郎」はいま、同人誌の印刷を手掛ける会社と提携して、その印刷所用のフォーマットで文章を作成できるシステムを構築しているそうである。Word派の僕には全く見えていなかった世界で、そんなのもあるんだなあと驚いた。

 もっとも、同人誌作成用の資料を2つながら手に取って、使う見込みがあるのかと訊かれると……うん、ふふふ、と苦笑するほかないのだけれど。

◆「金魚すくい」のブックカバー(星野文庫さん)

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 先に書いた通り、文学フリマの出展品の多くを占めるのは文章で書かれた出版物であるが、本来ここでいう「文学」の解釈はもっと自由である。したがって、雑貨・小物を扱っているブースも幾つかある。特に、ブックカバー・しおりのように、文学をたしなむ活動に関わるものは珍しくない。

 と、さも知った風に書いてしまったが、僕がこのブックカバーを買ったそもそものきっかけは、あるメンバーにブースの存在を教えてもらったことである。会場でたまたますれ違ったので、「何か買いました?」と尋ねる際、真っ先に見せていただいたのが、ペンギン柄のブックカバーだった。思わず食い入るように見つめていると、ブースの場所を教えてくださったので、あとから見に行くことにした。

 ペンギン柄、そしてこの金魚柄に限らず、そのブースで取り扱っているブックカバーはどれも綺麗で、全部買い揃えたくなるくらいだった。材料は基本的に紙らしいが、上からろうで薄くコーティングしたり、最初から厚紙を使いミシンで縫ったりしているそうで、ちょっとのことでは破れないという。工芸も未知の世界なので、こうしたちょっとした話がとても面白い。

◆『ちらりちらり』(やまだなおとさん)

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 見本誌コーナーに一際目立つ本があった。大判の絵本である。さく・えを一人の方が担当されている。これは物凄く手間のかかった本を見つけたぞと、僕は俄かに興奮した。さらに、見本誌貼付のタグを見ると、作者の方は札幌から来ているという。これはぜひとも行かねばならない。

 そしてそのブースで買ったのがこの本である。見本誌コーナーにあった本ではなく、その方の処女作の方だ。もっとも、処女作だからという理由だけで買ったのではなく、パラパラとめくって内容が良かったから買ったのである。

 男の子が見ている世界に、1匹の猫の姿がちらつくようになる。けれど、その猫は男の子にしか見えない。思い切って話してみると、猫は「きみとともだちになりたいの」と答える。男の子は猫と友だちになり、出掛けたり遊んだりする。そして、同じくらいの年の子どもと出会い、勇気を出して「友だちになりたい」というのだ。

 シンプルなストーリーだけれど、子どもだけが見える不思議な世界、そして、初めての出会いの物語に、とてもグッときた。

◆『関西魂 ラブコメカニタマ』(関西作家志望者集う会さん)

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 文学フリマに行った人が全員このイベントにハマるとは限らない。リピーターになるには何かしらきっかけがある。僕の場合、そのきっかけとなったのは、2年前に買った1冊の同人誌だった。それはエンタメ系の短編小説を集めた文庫サイズの同人誌だったのだが、とにかくどの作品も面白くて、僕は一瞬でその本と、出展していたサークルのファンになったのである。そのサークルこそ、「関西作家志望者集う会」さんであり、その時僕が手にした本こそ、このサークルが年に1回発行している『関西魂(かにたま)』シリーズであった。

 今回もこのサークルの本を作家買いするというのは心に決めていた。ブースに足を運ぶのもかれこれ3回目になるし、過去の作品だって好きなわけで、このサークルのブースに行くと自然と滞在時間が長くなる。今回もその場にいた方から制作の裏話などを伺いつつ、既刊本、そして今年の新刊をパラパラめくり、どれを買うか考えていった。

 結局買った1冊は、今年の新刊である。実を言うと、新刊を買ったのは初めてのことだ。テーマを決めるだけではなく、ジャンルを絞ったアンソロジーを作る、というコンセプトのもと装いも新たに登場した一作、とのことであるが、その実、ラブコメ色が薄いと評された作品もあるそうである。その場にいた方曰く、「ジャンルを絞っても、メンバーのアクの強さは変わらなかった」とのこと。ますます楽しみである。

 以上が僕の戦利品である。

 戦利品については、13時半にメンバーで再集合し昼食を食べに行った際に互いに見せ合った。ファンタジー系に特化して買っていた方、重厚そうな本ばかり買っていた方、ゲームブックという選択肢ごとにストーリーが分岐していく本を買っていた方、ジャケ買いに走った方など、ジャンル・理由共に様々で興味深かった。

 ちなみに、多くのメンバーの間で話題になっていた本に、『夜ビル』という写真集があった。名前の通り夜のビル群の姿を集めた写真集であるが、とにかく写真が綺麗で、撮影場所へ行きたくなるということで、買った人、立ち読みした人が続出していた。僕はあいにく、この本のことはよくわからない。今度買った人に見せてもらおう。

◇     ◇     ◇

 最初の方で書いたように、僕らは昼食後途中解散したのであるが、結局殆どのメンバーは再び会場に戻り小一時間ばかりぐるぐる回っていた。その際にとても面白いこと、もっと言うと“俺得”なことがあったので、書いておくことにしたい。

 本会場に着いたところで、何気なく、『関西魂』シリーズのブースに行ったことを話してみると、「じゃあ折角だから行ってみましょう」ということで、男性4人で再びあのブースへ向かうことになった。

 実は、『関西魂』は、今回の文学フリマ探訪ツアーとも深く関わっている。そもそも、読書会で文学フリマの存在が知れ渡ったのは、1年前、僕が『関西魂』の第2巻《衣食住編》を推し本として紹介したことがきっかけなのだ。その時のことを振り返ってみるに、僕はとにかく文学フリマのことを読書会で話したかったのだと思う(実際、本の内容についてはロクな紹介ができなかった)。幸い、この目論見は見事達せられ、主催者であるのーさんをはじめ、少なくない人の間に「文学フリマ行ってみたい」という気持ちが沸き起こることになった。

 御礼参りでもするように、読書会と文学フリマを結び付けた本のもとへ、僕らは集団で押し寄せた。そして、ブースにいた方と話をしたり、各巻の紹介を受けたりしながら、パラパラと内容をみていた。すると、一緒にいたのーさんが、「じゃあ、これとこれください」と言って、5巻《祭り》と7巻《誕生》をまとめ買いした。ファンといいながらまとめ買いしたことのない僕は、その決断力に「うおっ!?」と変な声を挙げてしまった。

 ところが、話はこれで終わらなかった。2冊買うや否や、のーさんが僕に尋ねる。

「ひじきさん、何巻持ってるんでしたっけ?

 僕が持っているのは、2巻《衣食住》・3巻《恋》、そして今日買った最新8巻《ラブコメ》である(これだけ見ると、恋愛絡みの割合が異様に高い)。その通り答えると、

「じゃあ、あと4巻と6巻を買えば、コンプリート出来ますね」

 と言われた。1巻は完売していたので、在庫のある28巻について言えば、確かにこれでコンプリートになる。途端に僕は全身から興奮が沸き立つのを感じた。読書会メンバーの総力を結集して、1つのサークルが出している同人誌シリーズを制覇する、そして、それらの本を読書会の中で貸し合うというのである。それも、僕が一番ハマっているサークルの本でそれができるというのだ。こんなに面白く喜ばしいことがあろうか!

 一緒に見に来ていた大阪サポーターの文学青年氏に、僕は働きかけることにした。事情を説明すると、文学青年氏はすぐさま話に飛び乗ってくださった。

「で、あとどれが残ってるんです?
4巻の《幻想》と、6巻の《異世界》です」
「め、ちゃ、く、ちゃ、俺好みじゃないですか!!

 そして文学青年氏は、この日最初の買い物で、46巻をまとめ買いした。こうして僕らは、『関西魂』を買い揃えたのである。これからシリーズをみんなで読むのだ。もう今から楽しみである。

◇     ◇     ◇

 長いレポートの最後に、初めて文学フリマに参加したメンバーの感想を、聞き取った限りで集めておこうと思う。

「面白かった、来てよかった」「会場中から熱気が感じられた。1日中いられる!」「文章だけじゃなくて、装丁とかも自分でやっている人が多くて、本当に色んな本があるんだなあと思った。ちょっとした美術館に来たみたいだった」「ブースで色んな話を聞くと、結構みんな深いところまで喋ってくれて面白かった」「同人誌って正直偏見があって、クオリティとかも低いと思ってたけど、どれも普通にしっかりしてて驚いた」

 要するに、今回ツアーに集まったメンバーは、見事に文学フリマのファンになったということである。今後のツアー開催が楽しみだ。そして、もしかして、なんて妄想がちらほら聞かれたりもしたのであるが……まあまあたっぷり夢見ることにしよう。

 といったところで、第7回文学フリマ探訪記を締めくくりたいと思います。次に関西で文学フリマが開かれるのは、来年1月の京都になります。気になった方がいらしたら、ぜひ足を運んでみてください。それでは。

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※文学フリマの公式サイトはこちら。