721日・日曜日、京都の北山にあるSAKURA CAFÉという貸しカフェで、7月の京都・彩ふ読書会が開催されました。というわけで、今日から暫くの間、この読書会の模様を振り返ろうと思います。

 彩ふ読書会は201711月に大阪で誕生した読書会で、現在は大阪・京都・東京・名古屋で開催されています。このうち京都読書会は、毎月原則第3日曜日に、上記の会場で行われています。読書会は「午前の部」「午後の部」の二部構成で、①午前の部は、参加者がそれぞれお気に入りの本を紹介する「推し本披露会」、②午後の部は、決められた課題本を事前に読んできて感想などを話し合う「課題本読書会」です。また、京都読書会では、午後の部の後も会場を借りていて、メンバー同士、ゲームをしたり雑談に花咲かせたりしながら自由に交流するのがお決まりです。この時間はかつて「ヒミツキチ」と呼ばれており、現在は「オトナの学童保育」と名を改めています。

 これから書く振り返りは、したがって、「午前の部編」「午後の部編」「オトナの学童保育編」の3編からなるわけですが、まずこの記事では「午前の部編」をお届けすることにしましょう。

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 午前の部・推し本披露会は、毎回1040分ごろに始まり、12時ごろまで続きます。参加者は平均68名のグループに分かれて座っていて、総合司会による読書会の流れや注意事項などのアナウンスの後、1時間ほどの間にグループの中で本の紹介を行います。1145分ごろになると再び総合司会が前に立ち、その旗振りのもと全体発表が行われます。全体発表は、各グループの中で最も気になる本に選ばれた1冊を紹介する方式です(なので、全体発表の前に各グループ内で最も気になる本を投票で選ぶ時間があります)。全体発表が終わると、今後の読書会の予定についてのアナウンスを経て、読書会は終了となります。

 今回の推し本披露会には24名の方が集まっており、話し合いは4つのグループに分かれて行われました。僕は会場一番奥のDグループに参加しました。メンバーは全部で6名。男性3名・女性3名、初参加2名・ビギナー2名・ベテラン2名という、とてもバランスの良いグループでした。進行役は第2回彩ふ読書会から参加しているベテランの女性が担当されたので、もう1人のベテランである僕はのほほんと参加し、ブログ用に余念なくメモを取りつつ、しばしば余計な茶々を入れて愉しんでおりました。

 さて、Dグループで紹介されたのは次の6+1冊です。それぞれどんな本なのか、そして、グループではどんな話が飛び交ったのか、順番に見ていくことにいたしましょう。

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①『僕らが毎日やっている最強の読み方』(池上彰・佐藤優)

 進行役を担当されたベテラン女性からの推し本です。言わずと知れた情報通2人が著した情報の集め方に関する本です。話し合いの中で、ベテラン女性の方は、この本に影響を受けて始めたことを順番に紹介してくださいました。曰く、「松本清張などの社会派ミステリーを読むようになった」「いわゆる古典を読むようになった」「図書館に行って主要5新聞プラス地方紙を読むようになった」「世界史A・日本史Aの教科書を買って読んだり、公民の教科書を読み直したりした」「ダイヤモンド・東洋経済などの経済誌を読むようになった」「海外のニュースサイトを見るようになった」「官公庁のホームページにアクセスして一次情報をチェックするようになった」……

 「ちょっと待ってください! 幾つあるんです!?」と僕は思わず訊いたのですが、女性は澄ました顔で、「え、でも、これでもほんのごく一部ですよ」と答えるばかり。ミーハー街道を驀進する女性に驚くと共に、情報通への道の険しさを思い知る1冊でした。

②『アンダー・ユア・ベッド』(大石圭)

 3ヶ月連続3回目の参加となる男子大学院生からの推し本です。男性曰く、「ストーカーの主人公を応援したくなる」恋愛小説なのだそうです。その主人公はコミュニケーション障害を抱え大学で孤立していた時に、コーヒーを渡してくれた女の子のことが忘れられず、9年後にその子を一目見ようと試みます。そうして一目見た時、彼女はひどくやつれていた。原因を探るうち、彼女が夫からDVを受けていることがわかる。何かしたいがどうしていいかわからないまま、主人公はストーカーになっていく……残念ながら、ここから先はネタバレ厳禁とのことです。

 グループでは色んな感想が出ました。「江戸川乱歩の『人間椅子』を思い出しました。こっちには椅子に座る人の感触を確かめる変態が出てきますが」「そう考えると、主人公はストーカー界隈ではマトモな人ですね」という破壊力抜群の発言が出る一方、「(コーヒーのくだりを聞いていると)人は誰しも自分の存在を認めて欲しいっていう承認欲求を抱えているのかなあと思いますね」という分析もありました。

③『わかりあえないことから』(平田オリザ)

 僕の推し本です。これからの日本人に必要なコミュニケーション能力について、劇作家としてこの問題に向き合ってきた著者の考えをまとめた一冊です。グローバル化・個性の多様化が進むこれからの日本では、同質性の高い人たちの間で互いに察し合う能力ではなく、「人間はわかりあえない」という前提のもと、異なる文化・背景をもつ人々と共に生き、互いのずれを理解しながらわずかなわかりあいを喜ぶ「対話」の構築が必要である、という考えが一貫して書かれています。

 その主張もさることながら、僕がとても面白いと思ったのは、日本語とは何か、私たちは普段どんなコミュニケーションをしているか、ということに関して幾つもの具体例が紹介されていることです。異なる他者とのコミュニケーションを考えることは、自分の普段のコミュニケーションについて知ることでもある。〈みんなが均等に喋るように教育をしても仕方がない。例えば、教室を舞台にした寸劇で「僕は喋らない役」「私は遅刻してくる役」と、普段の自分を演じ直すところから、自分なりのコミュニケーションは見えてくるのだ〉どうです、これだけでも面白くないですか?——以上、露骨な推薦でした。

◆④『読んだら忘れない読書術』(樺沢紫苑)

 初参加の女性からの推し本です。1年ほど前に読み、ますます読書がしたいと思えるようになった一冊とのことでした。

 「次の日に簡単な書評を書く」「スキマ時間に読書する」といったためになる読書術もそうですが、女性が面白いと思ったのは、本を読むことにはどんな効果があるのかにまつわる話だったそうです。「自分の悩みは大抵他の人が先に答えを出している、それを本から学ぶことができる」「登場人物を通して追体験したことを自分の中に取り入れられる」「ストレス発散になる」「収入が上がる」……ホントかそれと言いたくなるものもありますが、確かに面白いですね。

 といったように話に聴き入っていたところ、女性から思わぬ発言が飛び出しました。「でもこの作者ちょっとウザくて」なんでも参考図書のコーナーに自分の著作を幾つか入れて高評価をつけているのだとか。「ですからキョリを取って楽しむといいと思います」紹介した女性はそうまとめていましたが、彼女の意図に反して「作者のウザさが気になる」とこの本に魅かれた人は少なくなかったように思います。

◆⑤『不自然な宇宙』(須藤靖)

 初参加の男性からの推し本です。宇宙を考えることから最終的に人間原理の考察に行き着く、一風変わった哲学的科学書とのことです。

 宇宙を、さらにはあまねく自然現象を説明する概念——たとえば原子・引力・電磁気力など——について考えていくと、どれも不自然であることが見えてくる。私たち人間が見ている宇宙は不自然な力関係のもとにある。それは、人間というものが物事を複雑に理解する生き物であることの証である。逆に言えば、私たちがみることのできる宇宙は、不自然で複雑な力関係のもとに置かれたそれでしかない。著者は宇宙複数説なども引用しつつ、人間には人間の見えることだけでしかないこと、そして、その事実を引き受けつつ新たな発見を面白がれる人は科学者に向いているという話を進めていくそうです。

 「物理学の本なのに数式とかが一切出てこずに、哲学みたいな話になるのが意外だった」と紹介した男性は話していましたが、文系人間の僕などは、だからこそ逆に興味が湧いたものでした。

◆⑥『サジュエと魔法の本』(伊藤英彦)

 参加2回目となる女性からの推し本です。上下2巻の分厚い児童文学。タイトルの通り、魔法使いの出てくるお話で、落ちこぼれ魔法使いの男の子サジュエが、おじいさんの家にあった魔法の本で遠くに飛ばされた後、数々の冒険を経て一人前の魔法使いになるまでを描いた物語だそうです。

 紹介した女性がこの本に出会ったのは高校生の時で、『ハリー・ポッター』シリーズに続けて手に取ったそうです。その時の一番の感想は、日本人の作家が日本じゃない世界を舞台に長大なファンタジーを書いているのが凄いというものだったといいます。僕自身、推し本を見て作者が日本人だと知った時には驚きました。

 目次をみてみると、戦争や死別といったテーマが登場していて、「児童文学にしてはハードだなあ」という感想も漏れていましたが、はしがきを読むと、作者は自分の子どもたちが大きくなった時のためにこの本を書いたそうです。見た目も中身も重厚な本のようですね。

◆特別枠:『記者になりたい!』(池上彰)

 以上、11冊の推し本紹介が終わった時でした。「もう1冊紹介したいんですけど」そう言ったのは進行役のベテラン女性でした。この時点でグループでの話し合いは残り5分。投票のことを考えると時間はもうあまりないのですが、進行役自らそこを押し切って、どうしても紹介したかった本の話を始めました。その時紹介されたのが、写真の中ではグループ名「D」の尻に敷かれている本、『記者になりたい!』です。

 この本は、池上彰さんが自分のジャーナリスト人生を新人時代から振り返った半生記のようです。テレビ等ではあまり見えない池上さんのプライベート(奥さんとの出会いなど)が記されておりたいへん面白いとのことでした。

◆大波乱の投票

 こうしていよいよ全体発表が迫る中、グループで一番気になった本を選ぶ投票が行われました。特別枠の1冊を除く6冊の中から、各自一番気になった本を指さして投票します。ところが、これが思わぬ展開になりました。

 投票の結果を見てみましょう。

 ①『僕らが毎日やっている最強の読み方』…2
 ③『わかりあえないことから』…2
 ⑤『不自然な宇宙』…2

 というわけで、なんと3冊が同率1位。進行役が「おー」と感心する中、僕はどうしようと思いました。もう一度投票して何とか1冊に絞りたい。けれども、決選投票をしたところで、結果が変わるとは思えません。既に会場は全体発表に向かいつつあり、総合司会を務めるYさんが「本決まりましたか?」と訊きに来ます。「すみません、今から再投票で……」と言って待ってもらうも、どんな方法を使えばいいか。

 その時、「二番目に読みたい本を指せばいいんじゃないですか?」という意見が出ました。「それで一番読みたい本と得点差をつけて、合計ポイントが一番高い本にしたら」名案だと思いました。そこで、先の投票を2ポイント、次の投票を1ポイントにし、総得点が一番高い本を推すことに決めました。

 そして、二番目に読みたい本の投票結果は次の通りになりました。

 ④『読んだら忘れない読書術』…3
 ①『僕らが毎日やっている最強の読み方』…1
 ②『アンダー・ユア・ベッド』…1
 ⑤『不自然な宇宙』…1

 さて、皆さんお気付きでしょうか。これでもまだ、同率1位の本が2冊あることに。

 ①『僕らが毎日やっている最強の読み方』2点×2票+1点×1票 計6点
 ⑤『不自然な宇宙』2点×2票+1点×1票 計6

 2度の投票にもかかわらず、一番気になる本は1つに絞れなかったのです。「どうしましょう」という空気になる中、僕は言いました。

2冊紹介でいいんじゃないですか?

 とはいうものの、勝手にやるわけにはいきません。たまたまその時他のテーブルに近い側に座っていたので、僕はすぐさま立ち上がって、京都リーダーのちくわさんに事情を説明しました。ちくわさんの答えは、シンプルに「いいですよ」でした。

 こうして、我らがDグループは、一番気になる本を2冊紹介するという前代未聞の発表を行うことになったのでした。

◆全体発表

 というわけで、最後に全体発表で紹介された本について振り返ろうと思います。Dグループが起こした珍事についてはもう十分書きましたので、ここではAC3グループの発表について見ていこうと思います。

Aグループ:『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』〉

 初参加の男性からの推し本。美術が好きになったきっかけの本とのことでした。ただ絵を見るだけでなく、絵に込められた作者の意図が見抜けるようになるので、たいへん面白いそうです。「読むと美術館に行きたくなる、そして絵のメッセージを深読みしたくなる」そんな一冊のようですね。

Bグループ:『傲慢と善良』〉

 いつもクールなベテラン女性からの推し本。辻村深月さんの小説です。婚活アプリで知り合った女性の過去がどんどん明らかにされていく物語で、辻村節全開の一作だそうです。ちなみに、辻村深月さんの作品は、読書会でよく登場します。ファン層の厚さが伺えますね。

Cグループ:『モモ』〉

 初参加の女性からの推し本。ご存知、不思議な少女モモと時間泥棒の対決を描いた児童文学です。「時間とは何か」というテーマが、時間に追われる現代人の心にグサグサ刺さる作品で、僕もお気に入りの一冊ですが、紹介された女性は、読むと作中に出てくるご飯が食べたくなると話していました。飯の美味そうな作品にハズレなし、ということですかね!

 その他、各テーブルで出てきた本を写真で紹介します(各グループの代表が手分けして写真を撮り、後で皆で共有しました)。それぞれ簡単な紹介カードも載っていますので、気になる方はぜひご覧ください。
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 というわけで、読書会午前の部の振り返りは以上になります。次回は「午後の部編」をお届けします。どうぞお楽しみに。