6月16日日曜日、京都北山にあるSAKURA CAFEにて、今月の京都の彩ふ読書会が開催されました。というわけで、毎月恒例・読書会の振り返りを、これから数回にわたってお送りしたいと思います。

 読書会は、「午前の部」「午後の部」の二部構成となっています。①午前の部は、参加者がそれぞれ好きな本を紹介する「推し本披露会」、②午後の部は、1冊の課題本を事前に読んできて感想などを自由に話し合う「課題本読書会」です。また、京都の読書会では、午後の部の後も会場を借りていて、残った参加者同士が雑談に花を咲かせたり、ゲームに夢中になったりできる場が設けられています。これは先月まで「ヒミツキチ」と呼ばれていましたが、今月から「オトナの学童保育」に改称しました。ともあれ、「推し本編」「課題本編」「オトナの学童保育編」の2+1部構成で、読書会の様子を振り返っていこうと思います。まずこの記事では「推し本編」をお送りしましょう。

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 推し本披露会は、10時40分ごろに始まり、12時ごろまで続きます。参加者はおよそ6~8人ずつのグループに分かれて座り、司会から読書会の流れや注意事項についてアナウンスがあった後、グループの中で持ってきた本の紹介を行います。そして、全ての本の紹介が終わったところで、グループの中で「最も読みたいと思った本」を1冊決めます。11時45分をメドにグループでの話し合いは終了し、司会の旗振りのもと全体発表に移ります。全体発表では各グループで出た「最も読みたいと思った本」が、参加者全員に紹介されます。全体発表の後、今後の読書会や部活動についてのお知らせがあり、読書会は終了になります。終わった後も会場は借りているので、午後の部が始まるまで長いフリートークが繰り広げられることになります。

 今回の推し本披露会には22名の参加者があり、4つのグループに分かれて本の紹介を行いました。京都会場では最近推し本披露会の参加者数が多くなっており、先月以降グループの数が3から4に増えています。玄関から一番奥までの動線を確保しつつ、テーブルや椅子を並べ替え、4つの島を作った時には、幾分ぎうぎうの感が出ています。

 もちろん、それは喜ばしいことなのですが、今回ちょいと問題が起きてしまいました。不肖ワタクシ、タイヘンに声が大きく、わけても笑い声がよく通るのですが、今回、そのワタクシが真ん中のグループに着座してしまったのでございます。そして、不肖ワタクシ、空気を読むのをタイヘン苦手としているもので、所かまわずいつもの通り大いに喋り大いに笑っておりました。何が起きたかはご想像の通り。想像できなかったのは当日のワタクシだけでございます。

 読書会が終わってから複数の方に言われました。

「ヒジキさんを真ん中のグループにしたのは、失敗でしたねえ」

 ここに、彩ふ読書会は新たな教訓を得ることになるわけですが——随分話が脱線したようです。

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 僕が場所柄、そしてサポーターという役柄さえもわきまえずはしゃいでしまったBグループは、会場真ん中の、玄関から一番近い場所にありました。参加者は、男性4名・女性2名の計6名。うち1名が初参加、1名が推し本披露会初参加(課題本読書会は経験あり)で、あとの4名は常連さんでした。進行役を務めたのは先月大阪サポーターになったばかりの女性でした。初めての進行役で緊張している様子でしたが、同時に、「特に仕切ったりするつもりもなくて……まあ、なんとかなるでしょ」と物凄く割り切ってもいました。そして実際、なんとかなりました。恐るべし、彩ふ読書会。(僕の大はしゃぎも、グループの中に限って言えば、場の盛り上げとして受け容れられていました。いやはやありがたい話……反省します。)

 紹介されたのは写真の6冊です。では、それぞれどんな本なのか、披露会の中でどんな話が出たのか、順にみていくことにしましょう。

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◆『ここは、おしまいの地』(こだま)

 進行役の女性の推し本です。タイトルを口に出して言いづらい“あの話題本”の著者・こだまさんによる日常エッセイ集です。シリアスなタイトルに反して、笑える話が多く、さらにはほっこりする話もあるといいます。著者・こだまさんは自称「不幸体質」なのだそうですが、身に降りかかる不幸を「なんで自分だけ」と嘆くのではなく、むしろ笑いに変えていく。それがこの本の魅力なのだと、紹介した女性は話していました。

 特に印象深かったのは、高校の時に著者をからかってきた男の子の話だといいます。あまり関わらずにいた彼と、大人になってから電車で再開した際、彼が知人に「あの子は高校で一番頭が良かった人」というのを聞いて涙ぐむという、ただそれだけのエピソードなのですが、とてもジーンとくる話に仕上がっているようです。

 紹介の後、イメージを膨らますため、みんなで目次をみることにしました。最終話のタイトル「父のシャンプーをぶっかけて走る」に「なんやそれ!?」と声が挙がるなど、それぞれが気になる話を見つけていたようでした。

◆『死ねばいいのに』(京極夏彦)

 初参加の女性からの推し本です。京極夏彦さんのミステリー。一人の女性が殺され、その人はどんな人かについて、ヤクザの端くれである主人公が6人の人に聞いて回るという物語。もっとも、6人は誰も殺された女性について知りません。そこから話は発展していき、なぜ主人公がこの事件のことを聞いて回っているのかの謎も解き明かしながらラストへと向かっていくそうです。

 タイトルの「死ねばいいのに」は、主人公が他の人たちに向ける台詞からきているとのことです。生きるのがイヤになっている人々に対して、主人公は「だったら死ねばいいのに」という言葉を突き付けます(「(ヤクザが言うんだから)なんか凄味がありますね」という意見もありました)。

 紹介した女性は、実はこの言葉に救われたのだといいます。社会人になって間もなく、「つらい」「やめたい」と思っていた時期に、彼女はこの本を手に取ります。そして、「死ねばいいのに」という言葉を自分に突き付けながら、「死にたいと思っていないから大丈夫」と思ったそうです。「ミステリーとしても一級なんですけど、それ以上に、これは私を救ってくれた本です」という言葉がとても印象的でした。

◆『「罪と罰」を読まない』(岸本佐知子・三浦しをん・吉田篤弘・吉田浩美)

 午前の部初参加の男性からの推し本です。『罪と罰』を読んだことのない作家4人(え、この人読んでないの、という人ばっかり)が集まって、断片的な情報をもとに内容を推理する、そんな座談会の模様を収録した1冊です。なんでも、「『罪と罰』って読んでも内容を覚えてない人多いし、だったら読んでなくても語れるだろ」というノリでできちゃった1冊なのだとか。発刊の経緯からもうおかしい。

 流石に全く内容を見ないで推理するわけにもいかないので、コーディネーターが「この1ページだけ読んでみましょう」と言ってヒントを出していくそうですが、出てくる推理はトンチンカンなものばかり。かと思いきや、意外と惜しい推理も出てきたり。そんな座談会の様子がとても面白いといいます。また、最後には、結局『罪と罰』を読み切った4人が再び集まった事後座談会の様子も収録されているそうで、こちらは、作家ならではの着眼点が非常に楽しい座談会になっているそうです。

 紹介した男性は『罪と罰』を読んだことがあり、推理パートについては高みの見物をしていたそうですが、事後座談会の内容については、読んだことがあるからこそ「そこを見るんだ!」と驚くことがたくさんあったそうです。『罪と罰』を読んだことがある人も、読んでいない人も、読む予定のない人も楽しめる1冊だといいます。

 ちなみに、グループの中で『罪と罰』を読んだことがあったのは、紹介した男性と僕の2人でした。僕が読んだのは中3の時。夏休みの課題図書で『罪と罰』を出したのは、いくら中高一貫校とはいえ無謀だったろうと今では思います。実際、内容はすっかり忘れてしまいました。おかしいと書いた発刊の経緯も、我が身に照らせば頷けるものでした……

◆『聖なる怠け者の冒険』(森見登美彦)

 僕が「森見作品の生き字引」と崇める男性からの推し本です。午後の部の課題本が森見登美彦さんの『有頂天家族』だったので、それに絡めて森見作品を持ってきたということでした。

 物語の主人公は2人。1人は、突如京都に現れてなぜか善行をして回る謎の怪人「ぽんぽこ仮面」、そしてもう1人は、怠け者の社会人「小野田くん」です。小野田くんはぽんぽこ仮面から跡を継ぐよう執拗に迫られますが、怠け者ゆえ断固拒否を続けます。そんな中、祇園祭宵山の晩に飲んでいた小野田くんは、翌朝目覚めると、小学校の校庭で椅子に縛り付けられており、その状況でぽんぽこ仮面の“脅迫”を受けることに。そこへ、ぽんぽこ仮面を追う謎の女子学生が現れて……と、聞いた話を幾ら書いてもまとまるどころかむしろ拡散し続けるこの感じ、まさに森見作品だなあという感じです。

 生き字引氏曰く、この作品は森見作品の中では人気のない作品だそうですが、その最たる理由は、主人公が全く動かないことだそうです。小野田くんは校庭で縛り付けられた状態のまま、作中朝9時から夕方16時まで寝続けます。しかも、物語は宵山の翌日1日を描くだけで終わる。つまり、主人公は作中殆ど寝ているのです。ナンジャソリャ。もっとも、彼をはじめ登場人物たちが怠け者であるのには、それぞれ理由があるそうですが……果たしてどんな話なのやら……

◆『世界の名前』(岩波書店辞典編集部編)

 久々登場、歴史・社会科好きが高じてなかなか文学に手を伸ばせないでいる男性からの推し本です。普段は辞典を作っている言葉の専門家たちが書いた、世界各国の名前にまつわる四方山話集です。各話とても短いので読みやすく、内容もトリビア的に楽しく読めるものばかりだと言います。

 披露会の中では、姓に関する色んな話を紹介していただきました。世界には名前に姓のない国が沢山あるそうです。例えばミャンマーもその1つで、「アウンサンスーチー」も1つの名前なのだといいます。また、近代国家誕生と同時に突然国民に名字の届け出を指示したトルコでは、名字とは何かをわかっていない人たちがあだ名をそのまま名字にしてしまったため、「怠け者さん」「豚のエサさん」など残念な名字の人が大勢いるそうです。確かに、全然知らないことばかりです。

 世界各地でキラキラネームが増えているという話もありました。僕の知っているキラキラネームは「悪魔」「光宙(ピカチュウ)」が限度だったのですが、今では「星の王子様」なんていう名前まで出てきていると聞き、衝撃で頭がフリーズしてしまいました。名前は慎重につけたいものですね。

◆『太陽の塔』(森見登美彦)

 僕からの推し本です。午後の部の課題本が森見登美彦さんの『有頂天家族』だったので、それに絡めて森見作品を持ってきました……あれ、こんな話さっきもありましたね。

 何を隠そう『有頂天家族』を課題本にしたのは僕だったのですが、実は隠れた課題本候補がありました。それがこの『太陽の塔』です。

 華のない大学生活、とりわけ女性と縁のない大学生活を送っていた「私」は、3回生の時、水尾さんという後輩と付き合うことになった。ところが、事もあろうに水尾さんは「私」を袖にする。それから2年。休学中の大学5回生になった「私」は未だに失恋を引きずり、クリスマスを前に浮かれる京都の街外れで、虚しい妄想に身を焦がす。——プライドが高いくせにモジモジしてばかりで何もできない腐れ大学生の、呆れるほど馬鹿馬鹿しい日常に、イライラを通り越して大笑いする物語であるとともに、一部の(僕のような)人間にとっては、青春のほろ苦さを思い起こすような、辛く懐かしい物語になっています。

 特に最後の、クリスマスイブの四条河原町で「ええじゃないか騒動」が勃発する場面が大好きです。笑いに笑っていたはずなのに、最後にはもう切なさが全身を駆け巡ります。僕はあの場面で何度脳内絵コンテを切ったか……気になった方はとにかく本を手に取ってください。

◆投票タイム

 以上、Bグループで登場した6冊の本について紹介してきました。それでは、6冊の中からこの日「最も読みたいと思った本」に選ばれた1冊をご紹介したいと思います。

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 ……勿体ぶってもしょうがないですね。

 午前の部初参加の男性の推し本『「罪と罰」を読まない』です。

 6票中5票獲得。票を投じなかったのは紹介者だけという、事実上の満場一致で、この本に決定しました。やはりコンセプトの面白さや、紹介者の話術が僕らの興味を惹きつけたのでしょう。個人的には他に幾つか気になる本もあったので、もう少し票は割れると思っていましたが、蓋を開けてみればこの結果でした。

 ちなみに、控えめな紹介者がこっそり指差した1冊は、なんと『太陽の塔』。推し本投票形式が始まって3ヶ月、初めて僕の推し本に票が入りました。ありがとうございます。ランキングとは全く関係ありませんが、記念すべき出来事として書き留めさせていただきます。

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 最後に、全体発表で紹介された、他のグループの「一番読みたいと思った本」についてざっと見たうえで、今回の推し本披露会で紹介された全ての本を写真でまとめたいと思います。

 Aグループの「一番読みたいと思った本」は、先日結婚した南キャン山ちゃんの『天才はあきらめた』。京都読書会では記念すべき第1回の課題本としてもお馴染みの1冊です(当日のレポートはこちら)。紹介者は先月から来てくださっている男性の方。「クズだけど努力家。読んでいて、これは山ちゃんモテるだろうなあと思える1冊でした」とのことでした。

 Cグループの「一番読みたいと思った本」は、澤田瞳子さんの『腐れ梅』。1人の巫女と菅原道真の関係を描いた平安絵巻。タイトルも秀逸な1冊だそうです。謎解き部を席巻した謎解きクイーンとしてもお馴染み、京都サポーターの女性からの推し本でした。

 Dグループの「一番読みたいと思った本」は、藤田里奈さんの『フランスはとにっき』。作者が実際にフランス・パリに住んでいた時のことを綴ったコミックエッセイだそうです。「フランスってこんな国だっけ?」という驚きに満ちたエッセイなのだとか。読書会常連で、先月戻ってきた女性の方からの推し本でした。

 その他の推し本は写真の通りです。それぞれ紹介カードもありますので、気になる本があれば拡大してご覧になってみてください。

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 おやおや、Aグループの推し本の中にも森見作品がありますね。それも、僕が参加2回目に紹介した『ペンギン・ハイウェイ』ではありませんか。この本の紹介者については、午後の部の最後にある事実が明らかになるのですが、その話はまた後日。

 それでは、午前の部・推し本編の振り返りはここまで。次回は午後の部・課題本編をお送りします。読者諸賢、いざ待てしばし。