5月4日14時30分、宝塚大劇場。

 15時公演が開場となった。人だかりが劇場の入口へ向かう。マナーに定評のあるタカラヅカファンの集団だけあって、もみくちゃになる心配はない。しかし一方で、列がきっちり決まっているわけでもない。集団はぞろぞろと入口へ向かい、手前でなんとなく列になってチケットを提示する。

 ヅ活動4人組は混雑を避け、集団の後方へ回った。京都サポーターの女性と、ヅカ部きっての洞察家は、僕には到底ついて行けないめくるめくヅカトークの世界に埋没している。驚くべきことに、2人はこの日初対面であった。顔を合わせてまだ1時間にもならないというのに、他の場面・他の話題ではまずありえない深度の話が展開している。やはりヅカは恐ろしい。

 一方の僕はというと、かれこれ1時間ばかり、頃合いを見計らってはしょうもないことを考えていた。

 客席に着くのをゴールとする〈タカラヅカすごろく〉なんて作ったら面白いんじゃないだろうか。

 そして、マス目を思い付く度に口に出してみるのだった。

 推しのポスターを撮り忘れた。1マス戻る。
 キャトルレーヴで買い物に熱中する。1回休み。
 ステージスタジオで着たい衣装についてひとしきり話す。1回休み。
 開場の混乱に巻き込まれる。1回休み。

 すると、横で聞いていた部長からツッコミが入った。

「それじゃ全然進まへんやん」

 もっとも、そういう部長が考え出したマス目も「駅の乗り換えを間違える。2マス戻る」だった。

◇     ◇     ◇

 皆さま、大変長らくお待たせいたしました。ただ今より、ヅ活動レビュー・宙組公演「オーシャンズ11」観劇編、第二幕を開演いたします。前回の第一幕では、観劇に先立つヅカツアーの模様を仔細に書くあまり、タイトルに「オーシャンズ11」編と書いておきながら「オーシャンズ11」の話を一切しないという、詐欺まがいの手違いを起こしてしまいました。ご安心ください。今回は「オーシャンズ11」の話をちゃんとしようと思います。

 1回休みだらけのすごろくのような歩みを続けた我々ですが、上述の通り無事劇場入りを果たし、チケット通りの席へと向かいました。今回の座席位置は、1階後方、舞台に向かって右側のA席でした。僕はこれが3度目のタカラヅカ観劇だったのですが、1階席で観るのは初めてのことで、わくわくしていました。

 さらに、そのわくわくを倍加するような前情報を1つ入手していました。今回の舞台では客席降りがあるというのです。別作品のDVDで観て興奮したあの客席降りを直接、それも、実際にジェンヌさんが降りてくる1階で観ることができる。これが期待せずにいられますか! ということで、僕はそれなりに興奮しておりました。

 ここで、「オーシャンズ11」のあらすじや、今回の観劇で僕が何を楽しみにしていたかといったことをまとめておきましょう。「オーシャンズ11」は、刑務所から仮釈放された天才詐欺師ダニー・オーシャンが、盟友のラスティをはじめとする10人の仲間を集め、ラスベガスにあるホテルの地下金庫を破ろうとする物語です。しかし、ただそれだけの物語ではありません。ダニーが潜入を企てるホテルのオーナー・ベネディクトの愛人は、ダニーに離婚届を突き付けている妻テスでした。金庫の金と妻の愛、2つのものを同時に手にすべく、ダニーの練りに練った計画が発動します。——本作は元々ハリウッド映画なので、そちらを知っている方もおられるかもしれませんが、僕は全くの初見だったので、筋書きや話の展開も気になることの1つでした。

 僕が楽しみにしていたことについては、ここまでで既に、客席降りのことやストーリーのことなどを書いていますが、何より楽しみだったのは、月組以外の演目を見ることでした。僕の周りには美弥るりかさんのファンが矢鱈と多く、そのためもあってか、今年に入ってから視聴したタカラヅカ作品は殆ど月組のものばかりでした。対して、今回の「オーシャンズ11」は宙組公演。いったいどんな感じの舞台になるのか、気になるジェンヌさんはいるだろうかなど、色んなことを考えながら足を運びました。

◇     ◇     ◇

 15時、開演。

 演目に先立って、今回の公演が初舞台となる105期生の挨拶がありました。感想というほどのものもありませんが、第一声を聞いた瞬間「声高っ!」と思いました。新入生の挨拶は例年声が高いそうです。経験を積むことで徐々にあのヅカボイスは形成されるんだと知りました。あとから知ったことですが、一緒にみていた皆さんは、気になる新入生探しに余念がなかったそうです。

 そして、舞台が始まります。

 公演中の舞台のことゆえ、仔細に書くわけにはいきませんが、とりあえず僕が楽しみにしていたポイントに沿ってざっと感想をまとめようと思います。

 まず、ストーリーについてですが、筋書きがわかりやすいうえ、無駄な展開もなく、とても観やすいと思いました。僕が知っている限りでも、タカラヅカの脚本は時々要素を詰め込み過ぎて筋書きがわからなくなるのですが、今回の「オーシャンズ11」にはそれが全くありませんでした。部長から「今回のは初心者にもおススメです」と言われていたのですが、確かにそうだなあと感じました。もっとも、そのわかりやすさゆえスルスルと観てしまったので、これといった考察もないのですが……。複数回観に行ったヅカ部きっての洞察家は、後で「ダニーとテスの関係の描き方が絶妙」と評していました。

 次に、何より注目していた、宙組の舞台の雰囲気について。一番印象に残っているのは「みんな歌が上手い!」ということでした。とにかく聴きやすい。これを聞いてしまったらこの先聴けないものに沢山出会ってしまうのではないかと不安になるくらいでした。また、踊りもキレがあって見応え十分でした。カジノの享楽ぶりには派手さが、そして、オーシャンズの男たちの挑戦にはキレがそれぞれ欠かせないと思うのですが、どちらも素晴らしいものでした。——実はこの感想、何か書かなきゃと思っていま慌てて捻り出したもので、もとはと言えば何も考えていないに等しい状態だったのですが、それはおそらく、ストーリーと演技が高いレベルでマッチしていて、一切疑問を抱かなかったからなのだと思います。

 そして、客席降りについて。意外なシーンで出てきました。「ああ、そう使うのか!」と驚く間もなく、前の通路をジェンヌさんが駆け抜ける様子に興奮が抑えられませんでした。誰が通ったのかなんて全然わからなかったのですが、距離感に興奮しました。もっとも、客席降り演出はほんの一場面だけで時間にしても短かったのですが——その後にもう1つ、思わず「あああああ」と叫びたくなるような演出が待ち構えていました。書きたいんですが、これは敢えて伏せます。ちなみに、その時視線を動かす関係で隣の席が見えたのですが、かの洞察家は興奮のあまり震えが止まらなくなっていました。
 
 えー、ここまでの長い文章に比して感想が幾分短すぎる気がしますが、これが限界です。何度か書いた通り、本当にスルスルと自然に観られる演目だったので、逆に書くことが見当たらないのだと思います。とにかく、とても良いものが観られたと思ったことだけは確かです。宙組としてまた何度か見たいと思いました。個人でこの人を推したいというのは今回は思わなかったのですが、回数を踏むうちに見えてくるものがあるかもしれません。次の楽しみはこれかなあ。

◇     ◇     ◇

 公演時間の3時間はあっという間に過ぎました。劇場を出たあと、近くの居酒屋で飲み会となりましたが、例によってこの話は割愛します。盛況した飲み会ほど語るに値しないものはございませんので。

 というわけで、今回のヅ活動レポートは以上でございます。ここまでお読みいただいた皆さま、ありがとうございました。