5月4日11時、JR宝塚駅改札前。

 壁にもたれかかって本を読みながら、僕は人を待っていた。何ゆえそんなところで人を待っていたのかというと、この日がヅ活動の日だったからである。

 ヅ活動とは、彩ふ読書会の派生部活動の1つ・ヅカ部の活動を意味する言葉である。今回のヅ活動は、本拠地・宝塚大劇場へ乗り込み、宙組公演「オーシャンズ11」を観る、というものであった。ちなみに、実際に公演を観に行くことはヅ観劇という。

 今回の参加者は4人。しかし、1人遅れて来るとのことだったので、宝塚駅で集合するのは3人だった。僕以外の2人は、部長と、最近新たに京都サポーターになった方だった。僕も京都のサポーター、部長は大阪のサポーターなので、宝塚駅で揃った3人は全員読書会サポーターである。サポーターが揃ってヅカヅカしたのだと思うと、ちょっぴり可笑しい。

「じゃあ、行きましょっか」

 部長の言葉を合図に、僕らは花の道に向かって歩き始めた。お姉さま方2人は「いい天気ですね~」「そうですね~」などと話し合っている。心なしか優雅に聞こえる。なぜだろうと思って、僕はあることに気付いた。

「なんか今日、お二人、ファッションに気合い入ってないですか?」

 そうとしか思えなかった。「えー、そう?」と逆に訊かれる。「スカートだからじゃない?」と、わかるようなわからないような解説を受ける。

 無意識なのだろうか。無意識なのだろう。

 むろん正装ではないし、煌びやかに着飾っているわけでもない。いつもの服の延長の、ちょっと綺麗なヤツ。敢えて言うなら、ヅカジュアルであった。

◇     ◇     ◇

 というわけで今回は、ヅカジュアルな方々と行ってきたヅ活動の模様を振り返りたいと思います。上のペースで書いていたら字数が幾らあっても足りませんので、ここからはいつもの読書会日誌のテイストでお送りしましょう。

◇     ◇     ◇

 今回のプランを確認しておきましょう。僕らが観るのは15時公演なので、11時集合だと開演までかなり間があります。その間は部長の案内で大劇場内外のあちこちを回るヅカツアーをします。そして、14時半の開場後客席に移動し、いよいよ観劇です。1回の公演は休憩を含め3時間ほどあるので、終了は18時過ぎになります。そのあとはゆるっと飲み会です。

 宝塚駅を出て、大劇場の前を通る花の道に着いた我々は、まずルマンというサンドイッチ屋さんでお昼を摂ることにしました。有名だというたまごサンドを注文し、あとは気のままに食べたいものを頼みました。たまごサンドは見たこともない分厚さで、どう食べたものかと思うものがありましたが、味は抜群でした。

 コーヒーまで飲み、すっかり満たされたところで次の場所へ。向かったのは、ルマンから程近い場所にある「宝塚アン」というヅカグッズ専門ショップでした。ヅカグッズ専門ショップといえば、僕が最初に覚えたのは、梅田や大劇場内にもある「キャトルレーヴ」というお店ですが、キャトルが新しいグッズを扱うのに対し、宝塚アンは中古グッズの販売なども行っているそうで、古い雑誌やポストカード・ビデオ・DVD・CDなどが沢山揃っています。ファンなら喉から手が出るほど欲しいような掘り出し物もあることでしょう。ちなみに、部長はここで、御贔屓さんが表紙を飾っている雑誌を年代から推測し一発で抜き取るという離れ業をやってのけ、僕らを驚嘆させていました。

 しばし昔のヅカグッズを見た後、花の道を移動して楽屋口へ。遠方から大劇場まで来ていた京都サポーターのために、部長が入り待ちを見る時間を設けていたのです。あいにくトップクラスは楽屋に入った後でしたが、ファンクラブ活動の一端を見ることができた京都サポーターは感激していました。ちなみにこの方、普段は家でタカラヅカ専門チャンネルなどを見ることが多いそうで、「私は主に在宅なので」と話していました。そんな在宅の使い方初めて聞きました。

◇     ◇     ◇

 といったところで、いよいよ大劇場に入ります。花の道をもと来た方へ引き返し、ちょうど道の真ん中あたりまで来ると、そこが大劇場の入口です。敷地内へ入ると、まず屋外に撮影スポットがあります。舞台衣装でラインダンスを踊るジェンヌさんの絵が、現在は工事現場を囲うフェンスの一画に描かれています。この絵の向かって左端に行き、同じように足を上げると、自分も一緒になってラインダンスを踊っているような写真が撮れるのです。僕らは代わる代わるその場所へ行き、写真を撮り合いました。え、代わる代わるって、まさかお前……まあそれは色々とご想像にお任せします。

 大劇場の建物に入ると、僕らは一目散にキャトルレーヴを目指しました。と言いたいところなのですが、今回ちょっとした寄り道がありました。この日観に行った「オーシャンズ11」は、この3月に宝塚音楽学校を卒業し歌劇団に入った105期生のお披露目公演でもありました。そのため、劇場内に105期生全員の顔写真が貼られたパネルが用意されていたのです。僕らはそのパネルの前に立ち、「出身同じ子いますね」「誕生日一緒の子いますか」「娘役の子顔ちっさい~あ~~」などと話し合っていました。ちなみに、105期生の中にはあの松岡修造さんの娘さんがいらっしゃいますが、「この子ですよ」と紹介された写真を見ると、少し面影がありました。見ているだけで意味もなくアツくなりそうです。

 さて、キャトル。なんやかんやで行くといつもあれこれ見てしまうキャトルですが、今回部長にはお目当てのグッズがあったようです。それは、各組現役男役スターの舞台写真と吹き出しが一体になった付箋メモ。御贔屓さんのものと大喜利に使えそうなものを両方買って、布教用に使うのだと言っていました。ちなみに、この時の部長は名言メーカー状態。普通に喋っていたかと思えば「あれ、なんで私3つも付箋持ってるんだろう」と不思議がり始めたり、「推しの付箋を買おうと思ってたけど、会社で伝言メモに使ってすぐゴミ箱に捨てられると思ったら、ムリ、耐えられない」と言って1つ別のスターのものと取り換えたり(むしろ新たに買うことになった付箋のスターが哀れ)、とにかく挙動が常人のそれとは別次元になっていました。京都サポーターの方は、ポストカードを念入りに見て、幾つか買っていたようでした。

 キャトルを出ると、目の前のエレベーターに乗って2階へ。ここには宝塚の殿堂というミュージアムがあり、タカラヅカのレジェンドたちを紹介している常設展と、その時の公演内容や企画に合わせて実際の舞台衣装や小道具を紹介する企画展が催されています。何もわからない僕と京都サポーターは展示をイチからじっくり見始めたのですが、「それじゃいつまで経っても回れないんでサクッと行きますよ」と部長に言われ、テンポアップしました。

 ところで、殿堂に着いたところで4人目のヅカ部員が到着しました。この方は去年の11月にタカラヅカを見始めたばかりなのですが、その後光の速さで沼に落ち、今ではその鑑賞眼・考察力において右に出るものなしと言われています。今回は推しのいる宙組公演だけあって気合い十分。あとから知ったことですが、翌5月5日にも観劇に行き、さらにあと数回劇場に足を運ぶのだとか。ご自身でも言っていましたが、自分の愛が重い状態です。

 そんな上気気味のルーキーを交えて、殿堂ツアーは続きます。レジェンドの展示をテンポよく見たあと、階段を上って企画展示へ。今回の宙組公演に合わせ、前の公演の衣装が展示されていたほか、「男役の美学」という企画展が催されていて、トップスターの衣装や、男役だけの群舞の写真などが展示されていました。群舞の映像だけを集めた20分ほどのダイジェスト動画もあり、みんなで観ました。その中に1つ、明らかにレベルの違う映像があって、すっかり魅入ってしまいました。あとで「金色の砂漠、特に凄かったですね」と言うと、「わかります!? コンサバはいいですよ!」と力説されました。金色の砂漠、略してコンサバ。前々からコンサバという単語は耳に入っていたのですが、僕はてっきり「CON SAVA」みたいな演目があるのかと思っていました。1人で勝手に勘違いして、1人で勝手に恥ずかしくなりました。

 この殿堂の中にも撮影スポットがありました。実際の衣装の前で、シャンシャンという小道具をもって撮影できる場所があるのですが、ヅカ部でシャンシャンと言えば、もちろんアレです。部長特製手作りシャンシャン。ヅ活動とわかっていた僕は、たぶん写真撮るだろうし、みんな持ってくるだろうと思いながら、念のため3つカバンに入れていました。すると蓋を開けてみたら、持ってきていたのは僕だけ。お陰で謎に準備の良い人になってしまいました。ともあれ、お手製シャンシャン3つと本物のシャンシャン1つで、無事4人分のシャンシャンが揃ったので、全員で写真を撮りました。

◇     ◇     ◇

 といったところで、いよいよこれから観劇ですが——

 ここで一旦話を区切ります。いや、まさか、こんな大部になるとは——

 皆さま、どうぞ続きをお楽しみに。