前々回、そして前回と、4月13日に開かれた読書会哲学カフェ部の活動を紹介してきた。しかし、この日の読書会部活動はこれで終わったわけではない。14時に心斎橋のレンタルスペースを出たあと、僕を含む4人のメンバーは地下鉄で恵美須町へ向かった。堺筋線恵美須町駅から歩いて5分ほどのところに、「アジトオブスクラップ 大阪ナゾビル」という建物がある。ここで15時から次の部活動が始まるのだ。

 というわけで、今回の記事では、4月13日午後に行われた読書会謎解き部の活動をご紹介しよう。

 謎解き部はその名の通り、各地で開催されている謎解きイベントや脱出ゲームなどにみんなで行こうという部活で、これまでに、街歩き型謎解きイベント1回、観劇型謎解きイベント1回、脱出ゲーム1回と、計3回の活動歴がある。活動の度に参加者募集の案内が来るためか、非常に存在感のある部である。そしてまた、実際に参加してみて思うが、活気溢れる部である。

 そんな謎解き部の第4回の活動は、大阪ナゾビルで開催されていた「ときどき監視員が見回りに来る部屋からの脱出」という脱出ゲームへの参加であった。定員は10名。部長の尽力で10名全員揃って参加することができた。

ときどき監視員 0603

 部としては2度目の脱出ゲーム挑戦である。メンバーの中には個人で何度も脱出ゲームに挑戦している人もいる。しかし、僕自身はこれが初めての脱出ゲーム挑戦だった。そんな僕の前に立ちはだかったこの脱出ゲーム、矢鱈と滑舌の良いスタッフのお姉さん曰く、「企画史上最高難度とも言われるものでございます」とのことだった。なんてこった、である。まあ比較のしようがないから怖気ようもないのだけれど。

 ゲームの概要はこうである。貴重品・スマホ・腕時計を含む全ての荷物をロッカーに預けたあと、僕らは会場となる密室に案内される。そしてスタッフから何点かの注意事項を受けた後、部屋の後方に設けられた収容スペースに閉じ込められてしまう。そこへ監視員がやって来てこう告げる。「お前たちにはこれから地下の強制労働施設で一生働いてもらう。1時間後に迎えに来るから大人しく待ってろ。それまでの間、時々見回りに来るからな。変なマネをするんじゃないぞ」そして、収容スペースに鍵をかけ、部屋の明かりを消して立ち去る。強制労働を回避すべく、僕らはまず狭い収容スペースから脱出し、それから密室の中に隠された部屋を脱出するためのヒントをかき集め、入ってきた扉から外へ出なければならない。制限時間は1時間だ。

 ではここから、参加中のことについて書いていくことにしよう。あいにくネタバレ厳禁なので脱出の過程を詳細に記すことはできない。が、幸いなことに、脱出ゲーム初心者の僕には見るもの全てが新鮮かつ奇異であった。なので、その場で感じたことを書き出していけばある程度のものになるんじゃないかと思う。

 奇妙な光景は開始直後から繰り広げられた。ゲームスタートの合図があった瞬間、メンバーが一斉にゴソゴソし始め、狭いスペースで振り返ったりしゃがんだりする。何の説明も打ち合わせもなしだ。僕は「えっ?」と思いながら棒立ちしている。

「とにかく周りをよく見て、何かあったら教えて」
「明かりを確保するものがないか見て」
「その他、なんでもいいから」

 断片的な言葉から何とか状況を理解する。どうやら経験者は、打ち合わせなどしなくてもどう振舞えばいいのかわかるらしい。そして、今は1分1秒を争う。僕にできるのは、巻き込まれることだけだ。

 この、全く状況がつかめないまま見様見真似で行動する展開は、収容スペースの脱出に成功してからも続いた。誰も何も言わないまま、密室に置かれたアレコレのもとに駆け寄り、じっと観察する。中身をごっそり抜き出したり、裏返しにして調べたり。そんなところにヒントがあるのかと驚いている間に、メンバーはメモを取り終え、次のステップに進んでいる。

 哲学カフェから一緒だったある男性に至っては、行動が早すぎて何が何だかわからない。その男性の声を聴いてやるべきことを見定めたと思っていると、次の瞬間その方は違うことをしている。ある時急にその方の姿が見えなくなったと思ったら、部屋の反対側にあるロッカーの下にスライディングで潜り込み、ヒントを読み上げていた。怖いものなしである。

 10分経ち、30分経ち、40分経つ。あっという間だ。

 それでもある程度ヒントは集まった。僕も幾つかのヒント解明に加わっている。ただ、僕はついヒントを集めるのに夢中になり、本題を忘れてしまっていた。密室から出るのに、ヒントがどう役に立つのだろう。

 その答えは、僕が全く感知していなかったエリアに残っていたアイテムの中にあった。「そういうことか」と分かった時には、脱出のリミットはすぐそこまで迫っていた。

 まあでも重要なアイテムは出てきたし、もうなんとかなるだろう。そう思っていた僕は手の施しようのない甘ちゃんだった。ここから続く、「まだなんかあるの?」のオンパレード。そして、時間だけが容赦なく過ぎていく。

「あと1分」
「あと30秒」
「あと10秒」

 あと10秒で新アイテム登場。

 いやいやいやいやどういうことだよ。

 と思っているうちに、僕らは脱出に失敗した。

 それから強制労働へ連行されるまでの間、僕らは滑舌の良いスタッフのお姉さんから解けなかった謎の続きを教えてもらった。終了間際に出てきたアイテムの活用法、推測で完成させていたヒントの足りないパーツ探し。それらを1つ1つ聞きながら、「えーそういうこと⁉」「いや無理でしょ」「でもここまではメモ取ってましたよ」「うそ、すごい!!」と互いに声を上げた。

 最後にスタッフから、「この悔しさを晴らすべく、アンケートにご協力ください」という、合ってるんだか合ってないんだかわかりかねるお願いがあった。そして、合図とともに監視員が紙とペンを持って入ってきた。さっきまで真顔で「おーしお前ら」「おいなんだ変なマネしてないだろうな」とドスを利かせて威張り散らしていた監視員は、スタッフに戻った瞬間声まで優しくなっていて、「お疲れ様でした」と朗らかに笑いながらアンケートを配っていった。どうやら強制労働の心配はなさそうだ。

 アンケートを書き終えたところで、僕らは部屋を後にした。ここで1つだけネタバレを許していただきたい。扉から出る直前、僕はずっと気になっていたことを思わず口にしてしまった。

「監視員さんの手の包帯は謎解きとは関係なかったんですね」

 あくまで大きなつぶやきのつもりだったのだが、これがどうやら監視員の耳にまで届いたらしかった。

「これは、個人的な怪我です」

 監視員さん、どうぞお大事に。

◇     ◇     ◇

 ナゾビルを出た時、時刻はまだ16時半だった。僕らはそれから通天閣の下を潜って新世界まで歩いて行き、まだ明るいうちから飲むことにした。

 居酒屋へ入り席に通された瞬間、まだ飲んでもいないのに、いつもの悪ノリ癖が出てしまった。もうどこからも脱出しなくていいのに、とにかくテーブルの上のものを手に取って、裏まであれこれ眺めてみる。なかなかツッコミが来ないので、「何か書いてないかなーと思って」と言って、言うだけ言って恥ずかしくなってすぐにやめた。それでも気分は収まらず、ドリンクを頼もうと店員を呼んでいる間に、「ときどき店員が来る居酒屋」などと言ってみたりした。案の定、「それただの居酒屋やん」とツッコまれた。

 乾杯を境に僕の悪ノリも影を潜め、ワイワイガヤガヤとした飲み会が始まった。

 程なくして、向かいに座っていた女性から、「すいません、私まだ誰が誰かわからなくて」という話があったため、自己紹介が始まった。もっとも、僕も何人かわからない人がいたので、むしろ有難かった。

 そしてこれが実に長い自己紹介だった。最初は普通に名前や職業、読書会の参加歴などを淡々と話していたのだが、途中から「読書会なんだからどんな本を読んでいるか言いません?」という話になり、その話が幾多の脱線を経て続いた。結果、1時間半で6人しか自己紹介が終わらないという珍事が発生した。

 それにしても、色んな方がいるものだと思った。僕より若いのにもう転職を繰り返している人がいたり、職業柄画集をよく読むという人がいたり、お子さんを海外で産んだという方がいたり。考えてみれば、本を通じて互いの好みや考えを知る機会は多いけれど、身の上話を聴く機会はあまりない。疲労とアルコールで酩酊の始まる中、僕は1つ1つの話にじっと耳を傾けていた。そして、気付いた時には、大学に入ったばかりの妹の話が止まらなくなっていた。

 19時半ごろに1軒目を出たあと、イツメンと、先週新たに大阪サポーターに加わった男性の5人が残った。イツメンの1人、謎解き部長兼ヅカ部長がミナミの空気に恐れをなしたらしかったので、2次会は我々のホームグラウンド・大阪第3ビルで敢行された。いつの間にか行きつけになっている安酒屋に入り、天ぷらやおでんをつまむ。どんな話をしていたのか、こちらは全く思い出せない。思い出せないが、だいたいいつも同じ話をしているので、今までにどこかで書いた話を焼き直したのだろう。新サポーターの男性にとっては洗礼に等しい会だったかもしれないが、これに懲りず、今後ともよろしくお願いします。

◇     ◇     ◇

 というわけで、長いオマケもほどほどに、謎解き部の振り返りを締めたいと思います。4月13日の読書会活動記録はこれで以上になります。ここまでお付き合いくださった皆さま、いつもいつもありがとうございます。

 そして、次の日曜日は京都読書会の日でございます。また長大なレポートを拵えてしまうと思いますので、覚悟してお待ちください。さらにもう1つ。日曜までの課題本が全然読めていないので、暫く読書優先、日記いい加減の日々が続くと思います。何卒ご容赦を。誰に断っているのかわかりませんけれど。