皆さま、たいへん長引かせてしまい、申し訳ございません。ただ今より、彩ふ読書会レビュー・課題本読書会『宝塚ファンの社会学』、予定外の第三幕を開演いたします。

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 ここまで、①第一幕では、会の概要と、この会の陰で暗躍していた秘密結社「ヅカ社実行委員会」についてご紹介しました。続いて、②第二幕では、テーブルトークのうち、宝塚ファンの社会の仕組みに関する話を取り上げ、詳しく見てきました。今回、第三幕では、残るテーブルトークの内容をざっと見たうえで、『ヅカ社』読書会のフィナーレを飾った一大イベントについて書こうと思います。

 僕の中ではもう前置き書いてる場合じゃないんですが、テーブルトークのメンバーをご紹介しないわけにはいかないので、以下にざっとまとめさせていただきます。

[花組]
 ①僕(進行役も担当)
 ②京都サポーターの男性(最近のブームは哲学カフェです)
 ③リピーターの男性(よく胸キュン小説を紹介されています)
 ④リピーターの女性(読書会ヅカ部2番手に光の速さで躍進した方です)
 ⑤リピーターの男性(とにかく興味関心の幅広い方です)
 ⑥飛び入り参加の女性(現役ファンクラブ会員でもあります)


 それでは早速、本編に入るとしましょう。

◆宝塚ファンの社会と、その他の社会

 宝塚ファンの社会に関する話は前回詳しく取り上げましたが、1つ書き残したことがありました。それは、宝塚ファンの社会の仕組みは、他の社会や集団のどういった部分と似ているだろうかという点です。以下、トークの中で出た意見を順にみていきたいと思います。

 まず、ファン活動の対象である宝塚歌劇団がトップスターを頂点とする序列のはっきりした団体であり、ファンが推しの活躍を待望し活動する中で劇団内の競争に巻き込まれていくという構図は、AKBグループとそのファンの在り方と似ているのではないかという話が出ました。AKBもセンター獲得などを巡る競争がグループ内にあり、ファンはCDを買って総選挙の投票権を得、推しの順位を上げようとしている(はずです)ので、序列と競争がファン活動を活性化させるという点ではよく似ていると思います。

 続いて、ファンクラブが公演中の拍手を仕切っている点について、拍手は歌舞伎や演劇の鑑賞でも見られるものだという話が出ました。これに関連して、お客さんの側が見ている間にタイミングよく同じ行動をとるというのは、演劇だけでなく落語や相撲の興行でもみられることなので、その意味では、宝塚ファンの行動はアイドルファンの行動よりも、伝統芸能ファンのそれに近いのではないかという意見がありました。

 宝塚ファンの間に、ジェンヌさん=生徒を育てる意識があるという点については、ホストにハマる女性のそれに近いという話がありました。また、この「生徒」という呼び方に注目しつつ、育てるべき対象の成長を見守るという意味において、宝塚ファンの意識は高校野球ファンのそれに近いものがあるのではないかという意見が出ました。

 もちろん、これらの中に同じ社会・集団など1つとしてないはずで、似ている点だけでなく違う点も掘り下げてみたら、また1つ面白い話ができたのかもしれません。が、トークの流れはそうはなりませんでした。興味を持った方、検討されてみてはいかがでしょうか。

◆花組、大移動す

 さてここで、今回のテーブルトークで起きた珍事をご紹介しましょう。——考えてみれば、僕ほぼ全てのレポートで何かしらの珍事を紹介しているので、もはや何も珍しくない気さえしますが、まあそれはいいとしましょう。とにかく、毎回フリーダムなことが起きるんです、彩ふ読書会は。

 今回、ファンクラブ活動の経験があるヅカ部長が、実際の活動で使うものや、会員限定の特典などを厳選して持って来られていました。そして、自分のテーブルで独り占めしないように、空いているテーブルにそれらを並べ、トーク中好きに持って行っていいことにしていました。僕は花組の進行役として、トーク前にこのことを説明するよう仰せつかっていました。ところが、いざトークが始まると、場を回すのに夢中になってしまい、うっかり説明を忘れてしまったのです。

 途中でそれに気付いた僕は、トークが落ち着くのを見計らって、「すいません、言い忘れていたことがあるんですけど」と言って、上の話を切り出しました。そして、流れでこう言ってしまったんです。

「と言っても、皆さんそれぞれ気になるものは違うと思いますし、今からあっちのテーブルに行って色々見てみましょうか」

 この僕の提案で、花組6名は一斉に立ち上がり、ファンクラブグッズの置かれたテーブルへそっくり移動してしまいました。読書会史上初めて、トーク中にテーブルごと移動するという事態が起こったのです。さらに、僕らはそのままテーブル周りの椅子に腰かけ、グッズを手に取りながら、当たり前のように話の続きを始めてしまいました。ヅカ部長テーブルの独占を避けるべく共有スペースに置かれたグッズを、逆に僕らが占拠してしまったのです。

 後から聞いた話ですが、ヅカ部長率いる月組は、自分たちの話を進めながらも、なんだなんだといわんばかりにこの事態を見ていたようです。「ああ、みんなで行った!」「そして居座った!!」しかし同時に、「その手があったか!」とも思っていたそうです。実際、僕らが元の席に戻った後、今度は月組の皆さんが大移動していました。

 この時お持ちいただいたグッズには、ファンクラブの会員証や、ファンクラブ活動に参加した時にスタンプを押してもらうスタンプ帳、スターからのメッセージなど、様々なものがありました。僕が一番注目したのは、ファンクラブ会員に届くスターからの年賀状でした。羨ましすぎてしばし見惚れてしまいました。

 ちなみに、ヅカ部長はファンクラブの会員が当日必ず身に付ける「会服」というグッズもお持ちでした。2種類お持ちで、1つは月組の方が身に付け、そしてもう1つは僕がずっと身に付けていました。この関係で、読書会の間僕はずっと首にストールを巻いていて、リピーターからは「ひじきさんどうしたんだ」、そして初参加の方からは「あの人いつもああいうファッションなんだろうか」と思われていたそうです。グッズに話が移ったことで、ストールの話ができたのは、僕にとって救いでした。

◆ヅカトーク

 テーブルトーク振り返りの最後に、途中で出たヅカトークをご紹介したいと思います。と言っても、ファン活動の経験談はこれまでの話の中で大方書き出してしまったので、残っている話はごく僅かなんですが。

「本の中で目線をもらうって出てきたんですけど、本当に合うものなんですか」

 京都サポーターの男性が途中でこんな質問をされました。目線をもらうとは、ステージを見ている観客をスターがまっすぐ見返してくる現象のことで、これによってヅカに落ちる人が後を絶たないと言われています。

 この質問に答えたのは、もちろんこの方、飛び入り参加の女性でした。「タカラヅカに何で落ちたのかって考えてたんですけど、目が合って好きになることは実際ありますし、オペラ越しで目が合うこともあります」さらにこんな話も教えてくださいました。「ジェンヌさんは結構客席を見てるんですね。ただ、下からライトを照らされると、舞台に立っている人は視界が真っ白になってしまうらしいので、客席が見えてるかどうかはわからないんですけど。ファンの方がどのあたりにいるかは事前に聞いてるので、目線を合わせてみてるんだと思います」舞台に立つと客席が見えないのは驚きでした。

 この話の流れで、僕もふと聞きたいことが出てきました。「ヅカって演目によっては客席降りがあるじゃないですか。前にDVDで観て鳥肌立ったんですけど、あれって実際見るとどうなんですか」

 僕の質問に答えてくださったのは、ヅカ部2番手の女性でした。「最近見に行ったショーで客席降りがあったんですけど、もう本当にタッチできるところまでジェンヌさんが降りてきて、私はもう『はあぁ…!!』ってなって固まってしまって、タッチどころじゃなかったです。もうほんと、香水の匂いとかわかるくらい近くて、目の前のおばあちゃんとか普通にタッチしてるんですけど、私できなかったんで、参考になるかどうか」

「いや、とてもよく興奮が伝わってきました」そう答えたのは僕ではなくて、なぜか京都サポーターの男性でした。

◇     ◇     ◇

 15時を5分ほど回ったところで、テーブルトークは終わり、全体発表に移りました。僕は総合司会も担当していて前へ出なければならなかったので、花組の発表者は別の方にお願いしました。

 全体発表を聞いていると、花組も月組もそれぞれ楽しく話ができたようでした。また、ファン活動の比較の話など、同じような話も出ていたようでした。

 さて、この後はいつもなら次回予告や部活動の案内をして読書会終了となるのですが——

「えーただ今回、タカラヅカスペシャルということで、ヅカ部長がどうしてもやりたいことがあるそうです。では、お願いします」

 僕のその振りを合図に、ヅカ部長が立ち上がる。その間に僕は、頼まれていたものを配るため、一度テーブルに戻りました。

「はい。再び登場しました。えっと、今回、タカラヅカを扱った課題本の会ということなので、最後に、ヅカ部のテーマソングでもある『この愛よ永遠に(TAKARAZUKA FOREVER)』を、皆さんで歌いたいと思います」

 その瞬間、読書会でかつて聞いたことのないほど大きく、そして楽しい笑い声が一斉に起こりました。

 そう、これこそ、ヅカ社実行委員会が読書会の最後に仕掛けた一大イベントだったのです。

「では皆さん、いまお手元に渡った袋の中身をご覧ください」

 そう言われて、一同袋の中身を見る。入っていたものは2つ。

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「まず、これなんですけど、これはシャンシャンって言います。ショーのパレードの時にジェンヌさんみんなが持ってる小道具なんですけど、今回は私が作りました」

 それも人数分全部である。元々は実行委員でシャンシャン作りの会を開こうという話だったのですが、部長の愛が昂じて、気付いたら全部でき上がっていたそうです。ちなみに、ヅカオタの日常を描いた『ZUCCA×ZUCA』というマンガの中にシャンシャンの用語解説が出てくるのですが、その最後には「これを手作りするようになったらもう立派な、ガチガチの、最高レベルのヅカオタです」と書かれています。

 もう1つ入っていたものは、「この愛よ永遠に(TAKARAZUKA FOREVER)」の歌詞カードでした。この歌詞カードを見つつ、シャンシャンを振りながら、全員で歌うわけでございます。

 会場中が熱狂する中、その真ん中では、代表のーさんが曲の動画を再生する準備にかかっておりました。身振りはこの動画に合わせることになっていたのです。

 準備が整い、曲がスタート。もちろん、歌える人も歌えない人もいるわけですが、ここまでくればそんなことは問題外、全ては楽しんだもの勝ちでした。

 曲が中盤に差し掛かったところで、ヅカ部長が歩き出しました。それを合図に、他の実行委員も歩き出す。動画の中でスターたちがステージ上を行進するのに合わせて、僕らは参加者全員とハイタッチして回りました。「スター気分でやりましょう!」ヅカ部長の一声で決まったこのハイタッチでしたが、僕はやって本当に良かったと思いました。何しろこのお陰で、僕は会場の熱狂を知ることができたのですから。返ってきたのは決してソフトなハイタッチなんてものじゃありませんでした。言うなれば、ホームランを打った野球選手がベンチに戻ってからチームメイトと交わすような、もうこらえきれんばかりの嬉しさに満ちた力強いハイタッチだったのです。

 曲が終わった時、ヅカ部長は言いました。

「皆さんありがとうございました。夢が叶いました」

 その瞬間、僕は笑いながら興奮の絶頂に達し、こう叫びました。

「僕は今わかりました。彩ふ読書会は、夢が叶う場所です!」

◇     ◇     ◇

 以上で、『ヅカ社』課題本読書会のレポートは終わりになります。

 今回は本当に、ハラハラドキドキの読書会でした。自分たちのやりたいことが上手くいくだろうか。参加された方は皆さんノッてくるだろうか。特に初参加の方は大丈夫だろうか。読書会に来ていきなり読書会らしからぬイベントに巻き込まれて戸惑わないだろうか。しかし、終わってみれば、全ては杞憂でした。全員が笑っていました。

 終了後、何人かの方に話を伺いました。皆さん口をそろえてこう言われました。

「いやー、何かあると思ってたんですけど、全部予想の斜め上できました。めちゃくちゃ楽しかったです」

 なんで何かあると思われていたのかはともかく、いい意味で予想を裏切り面白い会を実現できて、本当に良かったです。

 テーブルトークの方は思った以上に手堅い内容になりましたが、とても濃い話し合いになり、こちらも素晴らしいものになったと思います。参加された皆さま、本当にありがとうございました。

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 ところで、忘れちゃいけないことが1つあります。読書会の振り返りはまだ終わらないんです。あともう1つ、夕方の部が残っております。

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 皆さま、どうぞお楽しみに!!
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