13時40分が近付いてきた。会場には既に、12人の参加者全員が揃っている。
30分リピートし続けた「すみれの花咲く頃」が鳴り止み、部屋の明かりが落とされる。まだざわつきの残る中、僕はスマホの画面を押した。「ブー」という開演ブザーの音が鳴り響き、程なく止む。それを合図に、ヅカ部長が口を開いた。
「みなさま、本日はサクラカフェ、もといサクラヅカ大劇場へお越しくださりありがとうございます。ただ今より、宮本直美・作、ヅカ社実行委員会・演出、課題本読書会『宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外でつくられる』を開演いたします。最後まで存分にお楽しみください」——
というわけで、3月17日に行われた彩ふ読書会@京都の午後の部・課題本読書会の模様を、これから振り返っていこうと思います。いや、この書き出しで「というわけで」ってどういうわけよ、とお思いのそこのあなたよ、案ずるなかれ。これから全てをご説明差し上げましょう。
改めて、今回の課題本をご紹介しましょう。宮本直美さんの『宝塚ファンの社会学』、通称『ヅカ社』です。
いよいよやって参りました。読書会で存分にヅカを語る会。課題本発表の時点から、この会は読書会内部でかなりの注目を集めておりました。ある者は嬉々とし、ある者は畏怖の念に駆られる。ともあれ一同は震撼し、やがて「何かが起こる」という期待で胸を膨らませたのでございます。
もっとも、『ヅカ社』そのものは宝塚歌劇の魅力をアツく語る本ではありません。自身宝塚ファンであり、ファンクラブの所属歴もある宮本さんが、その経験をもとに、宝塚ファンの活動を詳しく紹介しつつ、ファン活動の秩序や統制が保たれる仕組みについて社会学的な試論を展開した1冊です。つまり、ファンクラブという1つの社会の姿を描くことを目的にした本なので、後で見るように、テーブルトークの中では、その社会の仕組みを巡って色んな議論が交わされています。とはいえ、同時に宝塚歌劇そのものについての話も沢山出たのは確かなことで、読書会は多分にヅカ化されていたといっていいでしょう。
さて、課題本読書会は、冒頭の通り13時40分ごろに始まり、1時間半ほど続きました。参加者は全部で12名で、トークは2つのグループに分かれて行いました。ちなみに、普段の読書会ではそれぞれのグループは「A」「B」という名前なのですが、今回は宝塚仕様で「花組」「月組」でございました。受付の際に「今日は月組でお願いします」と言われて、「ハハハ、あ、今日はそういう……!」といきなり笑われたリピーターもいたので、たぶんウケは良かったんだと思います。
僕は花組に参加し、進行役も務めさせていただきました。メンバーは他に5名。①午前の部で進行役を務めてくださった京都サポーターの男性、②いつも胸がキュンキュンしそうな小説を紹介してくださる大人しめの男性、③昨年11月の初観劇から光の速さでヅカ沼に沈んだ読書会ヅカ部2番手の女性、④哲学カフェ・ヅカ・特撮・講談ととにかく多彩な関心を持つアグレッシブな男性、そして、⑤『ヅカ社』に惹かれて来たものの間違って午前の部に申し込んでしまい飛び入りで午後の部に参加された初参加の女性、という、書き出してみるからに濃いメンバーでした。
既に述べた通り、テーブルトークは、宝塚ファンのシステムに関する話と、タカラヅカそのものに関する話を織り交ぜながら進行していきました。飛び入り参加の女性が、なんと現在もファンクラブに入られていて、この方が色々と話してくださったお陰で、ディープで実り多いトークになりました。
それでは、その内容に話を進めましょう。と、言いたいところなのですが……
どうやら僕は大事なことを言い忘れていたようです。
そもそも冒頭で書き出した一幕はなんなのか。そして、ヅカ部長の言葉に出てくる「ヅカ社実行委員会」とはいったい何者なのか。
ざっとご説明いたしましょう。「ヅカ社実行委員会」とは、『ヅカ社』課題本読書会をジャックし、ヅカ化を加速させつつ、とにかく面白く楽しい会の実現を目指す有志の集まりでございます。もっとも、正式にメンバーを集めたわけではなく、飲み会帰りにヅカ社の会でやりたいことを数多妄想していたイツメンが勝手に名乗り、代表を巻き込んで組織したゲリラ的な集まりでございました。さらに言えば、ヅカ化を加速させる会といっても、ヅカ部長以外は観劇回数1回以下の人間ばかりで、実質的には悪ノリ集団に近いものがございました。もうお察しと思いますが、僕はヅカ社実行委員の1人でございます。
ヅカ社実行委員による当初のヅカ化計画は、それはもう途方もない妄想の数々でございました。貸しカフェにあるロフトへ続く階段を宝塚大劇場の大階段に見立て、ヅカ部長が歌いながら階段を降りてくる一幕を設けるとか。そのために羽根の付いた衣装を用意し、部長にヅカメイクを施すとか。ヅカの開演前の風景を再現すべく、指揮者役を1人つけるとか。その指揮者は、本来舞台より一段下に立っていて頭ぐらいしか見えない人だから、貸しカフェにあるキッチンカウンターの向こうに潜んでもらうことにしようとか。とにかく妄想の限りを尽くし、立っているのが辛くなるほど笑ったところで、我々は漸く落ち着きを取り戻し、現実的な計画を練り始めたものでした。
当日実現したヅカ化計画は、大きく2つ。そのうちの1つが、冒頭の一幕です。昼休みのうちから「すみれの花咲く頃」を流し続け、午後の部開始と同時にフェードアウトさせる。そして、間髪を入れずに、宝塚大劇場の開幕の場面を再現してみせたのです。場内が暗転し、開演ブザーが鳴り響く。それが止むや、トップスター、すなわちヅカ部長による開演アナウンスが流れ出す。
「みなさま、本日はさくらカフェ、もといサクラヅカ大劇場にお越しくださりありがとうございます。ただ今より、宮本直美・作、ヅカ社実行委員会・演出、課題本読書会『宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外でつくられる』を開演いたします。最後まで存分にお楽しみください」
そして場内が明転し、いつもの読書会が始まったのでございます。
ヅカ社実行委員会の大仕掛けはもう1つありますが、それは読書会の最後に登場しますので、ひとまず読書会の話に移りましょう。と、言いたいところなのですが……
30分リピートし続けた「すみれの花咲く頃」が鳴り止み、部屋の明かりが落とされる。まだざわつきの残る中、僕はスマホの画面を押した。「ブー」という開演ブザーの音が鳴り響き、程なく止む。それを合図に、ヅカ部長が口を開いた。
「みなさま、本日はサクラカフェ、もといサクラヅカ大劇場へお越しくださりありがとうございます。ただ今より、宮本直美・作、ヅカ社実行委員会・演出、課題本読書会『宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外でつくられる』を開演いたします。最後まで存分にお楽しみください」——
◇ ◇ ◇
というわけで、3月17日に行われた彩ふ読書会@京都の午後の部・課題本読書会の模様を、これから振り返っていこうと思います。いや、この書き出しで「というわけで」ってどういうわけよ、とお思いのそこのあなたよ、案ずるなかれ。これから全てをご説明差し上げましょう。
改めて、今回の課題本をご紹介しましょう。宮本直美さんの『宝塚ファンの社会学』、通称『ヅカ社』です。
いよいよやって参りました。読書会で存分にヅカを語る会。課題本発表の時点から、この会は読書会内部でかなりの注目を集めておりました。ある者は嬉々とし、ある者は畏怖の念に駆られる。ともあれ一同は震撼し、やがて「何かが起こる」という期待で胸を膨らませたのでございます。
もっとも、『ヅカ社』そのものは宝塚歌劇の魅力をアツく語る本ではありません。自身宝塚ファンであり、ファンクラブの所属歴もある宮本さんが、その経験をもとに、宝塚ファンの活動を詳しく紹介しつつ、ファン活動の秩序や統制が保たれる仕組みについて社会学的な試論を展開した1冊です。つまり、ファンクラブという1つの社会の姿を描くことを目的にした本なので、後で見るように、テーブルトークの中では、その社会の仕組みを巡って色んな議論が交わされています。とはいえ、同時に宝塚歌劇そのものについての話も沢山出たのは確かなことで、読書会は多分にヅカ化されていたといっていいでしょう。
さて、課題本読書会は、冒頭の通り13時40分ごろに始まり、1時間半ほど続きました。参加者は全部で12名で、トークは2つのグループに分かれて行いました。ちなみに、普段の読書会ではそれぞれのグループは「A」「B」という名前なのですが、今回は宝塚仕様で「花組」「月組」でございました。受付の際に「今日は月組でお願いします」と言われて、「ハハハ、あ、今日はそういう……!」といきなり笑われたリピーターもいたので、たぶんウケは良かったんだと思います。
僕は花組に参加し、進行役も務めさせていただきました。メンバーは他に5名。①午前の部で進行役を務めてくださった京都サポーターの男性、②いつも胸がキュンキュンしそうな小説を紹介してくださる大人しめの男性、③昨年11月の初観劇から光の速さでヅカ沼に沈んだ読書会ヅカ部2番手の女性、④哲学カフェ・ヅカ・特撮・講談ととにかく多彩な関心を持つアグレッシブな男性、そして、⑤『ヅカ社』に惹かれて来たものの間違って午前の部に申し込んでしまい飛び入りで午後の部に参加された初参加の女性、という、書き出してみるからに濃いメンバーでした。
既に述べた通り、テーブルトークは、宝塚ファンのシステムに関する話と、タカラヅカそのものに関する話を織り交ぜながら進行していきました。飛び入り参加の女性が、なんと現在もファンクラブに入られていて、この方が色々と話してくださったお陰で、ディープで実り多いトークになりました。
それでは、その内容に話を進めましょう。と、言いたいところなのですが……
◇ ◇ ◇
どうやら僕は大事なことを言い忘れていたようです。
そもそも冒頭で書き出した一幕はなんなのか。そして、ヅカ部長の言葉に出てくる「ヅカ社実行委員会」とはいったい何者なのか。
ざっとご説明いたしましょう。「ヅカ社実行委員会」とは、『ヅカ社』課題本読書会をジャックし、ヅカ化を加速させつつ、とにかく面白く楽しい会の実現を目指す有志の集まりでございます。もっとも、正式にメンバーを集めたわけではなく、飲み会帰りにヅカ社の会でやりたいことを数多妄想していたイツメンが勝手に名乗り、代表を巻き込んで組織したゲリラ的な集まりでございました。さらに言えば、ヅカ化を加速させる会といっても、ヅカ部長以外は観劇回数1回以下の人間ばかりで、実質的には悪ノリ集団に近いものがございました。もうお察しと思いますが、僕はヅカ社実行委員の1人でございます。
ヅカ社実行委員による当初のヅカ化計画は、それはもう途方もない妄想の数々でございました。貸しカフェにあるロフトへ続く階段を宝塚大劇場の大階段に見立て、ヅカ部長が歌いながら階段を降りてくる一幕を設けるとか。そのために羽根の付いた衣装を用意し、部長にヅカメイクを施すとか。ヅカの開演前の風景を再現すべく、指揮者役を1人つけるとか。その指揮者は、本来舞台より一段下に立っていて頭ぐらいしか見えない人だから、貸しカフェにあるキッチンカウンターの向こうに潜んでもらうことにしようとか。とにかく妄想の限りを尽くし、立っているのが辛くなるほど笑ったところで、我々は漸く落ち着きを取り戻し、現実的な計画を練り始めたものでした。
当日実現したヅカ化計画は、大きく2つ。そのうちの1つが、冒頭の一幕です。昼休みのうちから「すみれの花咲く頃」を流し続け、午後の部開始と同時にフェードアウトさせる。そして、間髪を入れずに、宝塚大劇場の開幕の場面を再現してみせたのです。場内が暗転し、開演ブザーが鳴り響く。それが止むや、トップスター、すなわちヅカ部長による開演アナウンスが流れ出す。
「みなさま、本日はさくらカフェ、もといサクラヅカ大劇場にお越しくださりありがとうございます。ただ今より、宮本直美・作、ヅカ社実行委員会・演出、課題本読書会『宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外でつくられる』を開演いたします。最後まで存分にお楽しみください」
そして場内が明転し、いつもの読書会が始まったのでございます。
ヅカ社実行委員会の大仕掛けはもう1つありますが、それは読書会の最後に登場しますので、ひとまず読書会の話に移りましょう。と、言いたいところなのですが……
◇ ◇ ◇
些か話が長くなってきたので、読書会本編の振り返りは次回に譲ろうと思います。あまりに規格外のことをやり過ぎたがために、レポートまで規格外になってしまいました。読書会のレポートだっていうのに、暗躍していた実行委員の話をして終わりって、そりゃないですよね、そこのあなた。
何はともあれ、続きをお楽しみに。
なお、個人的な事情で恐縮ですが、明日春分の日、リレーマラソンと、そしてヅ観劇イベントを控えており、忘れないうちにその記録もざっとつけておきたいので、レポートの続きは次々回になる予定です。引き延ばしまくってすみませんが、悪しからずご了承ください。
些か話が長くなってきたので、読書会本編の振り返りは次回に譲ろうと思います。あまりに規格外のことをやり過ぎたがために、レポートまで規格外になってしまいました。読書会のレポートだっていうのに、暗躍していた実行委員の話をして終わりって、そりゃないですよね、そこのあなた。
何はともあれ、続きをお楽しみに。
なお、個人的な事情で恐縮ですが、明日春分の日、リレーマラソンと、そしてヅ観劇イベントを控えており、忘れないうちにその記録もざっとつけておきたいので、レポートの続きは次々回になる予定です。引き延ばしまくってすみませんが、悪しからずご了承ください。
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