先日来お送りしています、2/17の彩ふ読書会@京都の振り返り、その最終回をこれからお届けしたいと思います。ここまで、午前の部・推し本編を1回で、午後の部・課題本編を2回に分けて、それぞれ振り返ってきました。今回は夕方の部・推しマンガ読書会の模様をご紹介します。

 京都の読書会は、午前の部、午後の部、そして夕方の部の3部構成となっています。夕方の部は「実験的経験会」と銘打たれていて、普段の読書会ではできないことをやるというコンセプトのもと、毎回違うテーマで開催されています。

 1月には、「装丁グランプリ」という、①本の表紙と、②各参加者が作った紹介カードだけを見て〈読みたくなる本NO.1〉を決定する会が開かれました。ちなみにこれは、代表のーさんが考えたオリジナル企画。本屋でポップを見ている時に、書店員じゃなくてもポップが作れたら面白いんじゃないかと思ったことからアイデアが膨らんでいったそうです。凄いですよね!

 そして今回、2月の実験的経験会は「推しマンガ読書会」でした。これは、いつもやっている推し本読書会の派生企画で、紹介する本をマンガに限定したものです。要領はいつもの推し本読書会と同じですが、推しマンガ読書会の場合、ただ内容を紹介し合うだけでなく、絵柄や構図を見る楽しさもあるので、また違った魅力がありました。

 さて、推しマンガ読書会は16時過ぎに始まり、17時半ごろまで続きました。参加者は全部で13名で、2テーブルに分かれて本の紹介を行いました。最後に全体発表の時間があり、それぞれのテーブルで出てきた本を紹介し合いました。

 僕のいたテーブルには、男性5名・女性2名の計7名の方がおりました。僕のほかは、代表のーさん(進行役も担当)、午後の部もご一緒していた男性、2回目の参加となる男性、初参加の男性、大阪サポーターの女性、そして初参加の女性でした。それでは早速本の紹介に参りましょう。——と言いたいところなのですが、実はこの参加者を巡って、開始前に個人的なハプニングが起きたので、その話から入ることにいたしましょう。

◆ひじき氏、「ウソでしょ!?」と大音量で叫ぶ

 上述の通り、今回僕のテーブルには初参加の方が2人おられました。先に来られたのは女性の方でした。この方は奥の席に着かれており、大阪サポーターの女性があれこれ積極的に声を掛けておられました。暫くして、今度は男性の方が来られました。そして、僕の向かいの席に座られました。僕はサポーターらしいことの1つもしなければと、話し掛けることにしました。

「初めての方ですか?」

 すると、男性は不思議なことをおっしゃったのです。

「ええ、ここではそうです」

 えっ、と思い顔を上げる。その瞬間、見覚えのある顔が目に留まる。

 一瞬で全てがつながりました。この顔、さっきの声の出し方。そこにいたのは、以前このブログでも紹介したことのある某集まりで、2度もお会いしていた方だったのです。しかし、まさかここで会うとは——

 驚きの余り僕は立ち上がってしまいました。そして一旦テーブルに背を向け、後ろの椅子に置いたカバンに寄り掛かるようにしながら、あらん限りの声で叫んだのです。

「ウソでしょオ!?」

 間違いなく、過去読書会で出したことがないほどの大きな声でした。

 それからも一人勝手にソワソワっとしていましたが、総合司会の役目もあるからと、何とか気を静めました。落ち着くと、むしろこの展開が面白くなってきました。そして、内心笑いが収まらないまま、読書会がスタートいたしました。

 それでは、お待たせいたしました、本の紹介に移りましょう。

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◆『All You Need Is Kill』(原作:桜坂洋、構成:竹内良輔、漫画:小畑健)

 代表のーさんが紹介してくださった作品です。いわゆるループものの作品。主人公は戦場で前線に立つ兵士なのですが、戦場で殺されると前日の朝に時間が戻ってしまい、戦う→殺される→時間が戻るのループから抜け出せなくなっているのだそうです。話が進むにつれて、兵士もだんだん要領を掴んでいくのですが、果たして物語の結末は——というところで紹介が寸止めされてしまいました。仕方ないですけど。

 作画は『DEATH NOTE』などでお馴染みの小畑健さん。本作でも凄まじい画力を発揮されています。パラパラとページをめくってみると、確かに絵のテイストが『DEATH NOTE』ぽかったです。髪の質感とか、目の描き方に特徴があるんでしょうか。

 本作は元々ライトノベルで、後に漫画化、そして同年にハリウッドで映画化されているそうです。映画版の主演を務めたのはトム・クルーズ。それを聞いた瞬間、思わず表紙を指して、「え、この男がトム・クルーズになるんですか⁉」と言ってしまったものでした。

◆『この世界の片隅に』(こうの史代)

 僕が紹介した作品です。2016年にアニメ映画化、昨年にはドラマ化もされた作品です。もはや説明の必要はないでしょう。このブログで過去に一度取り上げたことがあるので、気になる方はこちらの記事をご覧ください。

 原作の魅力の1つは、コマ割りだと思います。1枚の絵をスケッチブックに見立てて少しずつ絵が描かれていく様子を表現していたり、1枚の絵が複数のコマに分割されて話に流れを添えていたり、1話がまるまるいろはがるたのような構成になっていたり。とにかく表現技法に驚きます。もっとも、レイアウトの妙はアニメ映画版でかなり丁寧に再現されていると思います。これもまた驚きです。

 ところで、先ほど本の写真を載せた時、とんでもないことに気付いて自分に腹を立ててしまいました。なんと、主人公・すずさんの可愛らしい顔が、メッセージカードですっかり隠されているではありませんか。これだけでマンガの魅力は半分以上損なわれたも同然。アホか、俺は。

 というかね、よく見てみますと、下段に写ってる本全て、主人公の顔がメッセージカードで隠れてるんですよ。あんたら、揃いも揃って何をやってんねん。

 もっとも、これには事情があるんです。本を並べて置いた場所がちょうど暖房の吹き出してくるところと被っていて、1回メッセ―カードが飛んでしまったんです。それで慌ててもう一度カードを並べたら、こんなことになってしまいました。撮影前にちゃんと確認すればよかったですね……以上、余計な話でした。

◆『25時のバカンス』(市川春子)

 2回目の参加となる男性が紹介してくださった作品。『宝石の国』の作者・市川春子さんの短編集です。表題作「25時のバカンス」は、深海の研究者である姉とその弟の禁忌的な愛を描いたSF作品。お姉さんには途中で貝が寄生するそうですが……すみません、一度聞いただけでは何が何やらさっぱりでした。

 紹介された方によると、市川春子さんは美術科出身の作家さんで、作品は難解なものが多いとのこと。本作についても、娯楽というよりはアートに、そして、マンガというよりは画集に近い印象を受けたそうです。おすすめの読み方は、夜寝る前に好きなシーンをパラパラとめくることだとか。なるほど、まさに「25時のバカンス」! ——なんて、適当なこと言っちゃいけません。

 トークの途中、中身をパラパラとめくっていた方が、「黒ベタの塗り方が手塚治虫の『火の鳥』っぽい」という話をされていました。えっと思って覗き込んでみると、確かに、手塚作品で受けるのと同じような印象がありました。これには紹介された方も、「あー確かに」と頷いておられました。

◆『HELLSING』(平野耕太)

 初参加の(初対面ではなかった)男性が紹介してくださった作品です。タイトルは知っていましたし、少佐の「諸君 私は戦争が好きだ」という台詞は有名ですが、どんな作品なのか、そもそも少佐とは何者なのかなど、個人的にはわからないことだらけだったので、話を聞けて良かったです。

 舞台は世紀末のイギリス。主人公のアーカードは、吸血鬼でありながらイギリス国教騎士団に所属し、吸血鬼を狩っている、まさに「化物を狩る化物」。そんな彼を取り巻く戦いを描いたのが本作とのことです。

 紹介された方曰く、この作品は「中二による中二のためのマンガ」。登場人物の誰もが狂っていて残虐で、とにかくカッコイイ。もし実際に中二の時に知っていたら、間違いなく影響を受けて台詞などを口走っていただろうと話していました。同じテーブルには、かつて『遊☆戯☆王』で中二病に罹患した方がいらっしゃいましたが、果たしてこの話を聞いた時の心中や如何に——

 少佐の謎も解けました。少佐は、イギリス国教会を巻き込んだ一連の戦いを影で操っていたナチスの残党の1人、すなわち主人公にとっては敵に当たる人物です。そして、彼が戦争をするのは、戦争がしたいから。何かを達成するための手段としてではなく、戦争そのものを目的として戦争を仕掛けるという、まさに狂った人物の典型。いやはや、書いているうちにこちらまで狂いそうになってきたのでこの辺で。

◆『1ポンドの福音』(高橋留美子)

 大阪サポーターの女性が紹介してくださった作品。この方が家にずっと置いている唯一の作品だそうです。読んだきっかけは、ジャニーズにハマっていた頃に亀梨和也主演のドラマが放送されたことだとか。それを聞いた瞬間、読書会内に、ヅカ沼、特撮沼に続く新たな沼が開くのが見えましたが、「もう足を洗った」「この作品については原作の方がずっといい」という趣旨の発言があり、沼はあっさり埋め立てられてしまいました。いや、そんなことはどうでもいいんです。内容を紹介しましょう。

 主人公は、才能はあるが試合に勝てないボクサー・畑中耕作。彼が試合に勝てないのは、食欲旺盛であるが故に体重制限に引っ掛かってしまうから。懺悔に訪れた修道院で、耕作は見習いのシスターアンジェラに恋をします。そして、試合に勝つと誓いますが、結局また食べ過ぎてしまい、シスターに説教されるばかり。果たして、耕作は試合に勝つことができるのか、そしてシスターを振り向かせることができるのか——

 スポーツを扱ったマンガにしては珍しく4巻という短さで、あっという間に読めてしまうが作品の推しどころの1つ。また、基本的にはラブコメで、どの話もラストでほっこりできるのも魅力だそうです。

 主人公が試合に勝てない理由が緊張などではなく食い過ぎっていうのが笑いを誘いました。高橋留美子さんと言えば、僕は実家にあった『らんま1/2』で盛大に笑った覚えがありますが、本作も面白そう。そんな話をしていたら、帰り際にあっさり貸してくださいました。ありがとうございます!

◆アルテ(大久保圭)

 午後の部からご一緒している男性が紹介してくださいました。ルネサンス期のイタリアを舞台に、画家を志す女の子の姿を描いた作品。紹介された方によると、読んでいるうちに、男性社会の中で一人前になろうと奮闘する主人公の姿に、「仕事女子頑張れ!」とエールを送りたくなり、自分も元気を貰えるのだとか。なので、おすすめの読み方は「ヘコんだ時に読む」だそうです。

 印象的なエピソードを幾つか紹介していただいたのですが、その中の1つに、有名な画家に弟子入りを志願した際、「なぜ絵を描くのか?」と問われ一度追い返されるという場面があるそうです。僕も時々、「なぜ文章を書くのか?」と考えることがあるので(仕事じゃないけど)、その問いに主人公がどう向き合ったのかとても気になりました。

 本作は今も月刊誌で連載中で、まだまだ終わる気配はないそうです。物語は主人公の成長を描きながら進んでおり、重要な場面も幾つか出ているのだとか。続きが気になりますね。あ、僕はまだちっとも読んでないんだった……

◆『山と食欲と私』(信濃川日出雄)

 初参加の女性が紹介してくださった作品。山ガールと呼ばれるのを嫌う自称・単独登山女子が、山に登りご飯を食べる様子を描いたアウトドアマンガです。山の上でご飯を作って食べるシーンがとにかく食欲をそそるそうです。そう言われて、僕はこの間アマゾンプライムで観た『ゆるキャン△』を思い出しました。アウトドアマンガのご飯って、なぜかどれもとてつもなく美味しそうなんです。

 紹介された女性はなんと、このマンガに触発されて、屋久島まで行ったそうです。そこら辺の山をすっ飛ばしていきなり屋久島、それも装備をきちんと整え3泊4日で敢行というのに、僕らは驚き、そして笑いました。実際の行程は結構ハードだったそうですが、話されている時の女性の表情を見ていると、行ってよかったんだなあと感じたものでした。

 「皆さんは山に登られますか」という質問があったので、自分自身を振り返ってみました。普段着で行ける程度の山なら時々登っているような気がしたんですけれど、それでも、最後に登ったのは去年の6月でした。ちなみにその時登ったのは京都の大文字山で、大の字の部分からの京都の眺めは最高でした。そんな話をしていると、向かいの男性が「あそこは街灯ないんで夜だとほんとに真っ暗で、都会感がなくていいですよ」と教えてくださり、一同「へえ~」と驚いておりました。

 色々話をしていると、僕も近くちょっとした山に出掛けてみたくなりました。もちろん、普段着で行けるところですけどね。

◇     ◇     ◇

 以上、推しマンガ読書会の様子を振り返ってきました。

 さて、個人的な話なんですが、ちょっと困ったことが起きてしまいました。というのは、今回の推しマンガ読書会をもって、紹介できるマンガがなくなってしまったのです。いま手元に置いているマンガは全部で3作品。①こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』、②同じくこうの史代さんの『この世界の片隅に』、そして、③杉浦日向子さんの『百日紅』です。このうち、①は去年の8月に読書会で紹介し、③は先月飲み会で紹介していました。そして今回、最後に残った②を紹介してしまったのです。しかし、推しマンガ読書会は推し企画の1つで、今後も開かれる可能性が高い。参加しなければならないわけではありませんが、このまま引き下がるのはどうにも惜しい。

 そう思っていたところへ、光が差し込んできました。

 それは、全体発表が終わり、フリートークをしていた時のこと。隣のテーブルに、手塚治虫の『アドルフに告ぐ』を紹介された方がいて、話を聞いているうちに、先のテーブルトークで『火の鳥』が話題に上ったことを思い出しました。その時、突然、記憶の底から蘇ってきた作品があったのです。

 『火の鳥 乱世編』

 よしよし、図書館で探すなり古本屋で買うなりしましょう。ちなみに、『アドルフに告ぐ』を紹介してくださった男性曰く、「乱世編がお好きなら、鳳凰編もハマると思いますよ」とのこと。こちらもチェックしたいですね。

 というわけで、次回に向けて希望が見えたところで、レポートを締めたいと思います。そして、この記事をもって、全4回にわたりお送りしてきた2/17の彩ふ読書会@京都の振り返りも最後になります。毎度毎度長文にお付き合いいただいた皆さん、本当にありがとうございました。