三連休の記録・後編をしたためるとしよう。連休最終日となる月曜日、彩ふ読書会のメンバーで京都・下鴨神社へ初詣に行くイベントがあり、僕は旅の疲れをおしてこれに参加した。

 彩ふ読書会では、メインの読書会以外にも、参加メンバーそれぞれの趣味に応じて様々な部活動が行われている。先日レポートした謎解き部のほか、ビジネス書・自己啓発部、哲学カフェ部、写真部、JOJO部、ヅカ部など、そのラインナップは多彩である。今回の初詣企画は、そのうちの1つ、神社仏閣部の発案によるものであった。

 部活動はそれぞれにコミュニティラインを使ってやり取りしているが、いざ部活を開催するとなると、部員以外の参加も歓迎と、読書会のラインで活動を告知することが多い。このオープンさはいつも魅力的だなあと思う。かくいう僕も、神社仏閣部員ではなかったが、読書会ラインの告知を見て参加を思い立った。休日の思い出作りにちょうどいいと思ったからだ。

 それともう一つ、僕が初詣へ出掛けようと思った理由がある。先の福井・嶺北ツアーで永平寺を訪れた際、友人に触発されて御朱印帳を買っていたことだ。それまでにもしばしば神社仏閣を訪れることがあったのだが、それはあくまでまち歩きの一環であり神社仏閣への思い入れゆえではないという妙な意地があって、御朱印帳には手を出さないでいた。しかし、いったい何の導きか、永平寺で友人が御朱印帳を取り出した途端、自分もやりたいと思ったのである。こうして、永平寺の壮麗な刺繍の入った御朱印帳を手にした僕は、これを持って色んな御朱印を集めて回りたいという欲に駆られた。そんな次第だから、目の前の初詣企画はとにかく魅力的だった。さらに言うと、下鴨神社は過去3回訪れたことがあり、僕の好きな作家である森見登美彦氏の作品とも縁が深い。ここの御朱印を集めない手はなかった。

 おっと、昨日と打って変わって本編へ入る前から多弁である。こうなると、福井を共に回った友人には申し訳ない気がしてしまうが、ともかく今回はこの調子で書き進めるとしよう。

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 さて、僕らは13時に京阪出町柳駅の改札前に集合し、高野川を渡って下鴨神社へ向かった。この時点で参加者は11名。こんな大所帯で神社へ行くことなどまずないので、道中は何もかも新鮮であった。

 その前に、福井・嶺北ツアーのお土産である羽二重餅を渡す。神社に入るとそれどころじゃなくなるからと、リュックをゴソゴソかき回し、モタつきながらもなんとか皆さんに手渡しすることができた。たいそう喜んで自身のブログでこのお土産に触れてくださった方がいて、記事を見た時は嬉しくなったが、それは後の話。

 一行はゆるくまとまりながら、参道を進み、糺の森へ入った。常連さん、久しぶりにやって来た古参メンバー、そして、ここ1ヶ月以内に初めて読書会に参加したばかりの方々と、参加した方もいろいろで、互いに色んな人と話したいという思いからか、隊列はみるみる入れ替わっていた。写真部員でもあり記録撮影に余念のない僕は、全景をオフショットで収めるべく、隊列の一番後ろに付く形で歩いていたのだが、気付いた時には一番前にいて、案内書きに見入る方々を置き去りにしてしまうなんてこともあった。

 参拝の順序は、神社仏閣部の中でも先生と崇められている女性の方が決めてくださった。「どんなところでも、まずは本殿からお参りするのが礼儀というものだと思います」そのキッパリとした言葉に従い、森をまっすぐ本殿へ向かう。歩き始めて程なく、「どっちかに寄らなきゃ。真ん中は神様の通り道だから」という声が上がって、僕らは左側に寄った。

 1月の糺の森は、木々の葉が少なくて、かつてなく明るかった。それでも、空を見上げようとすると枝々が幾本も伸びていて、やはりここは森なのだという感じがした。

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 やがて僕らは手水舎に付き、先生の解説を聞きながら手と口を清めた。それから眼前の高い赤鳥居を見上げ、一礼して本殿へ向かった。

 楼門をくぐると、中央の舞台に大きな白い猪の絵があって、僕らは暫くそれに見入っていた。それからさらに奥へ進み、中門をくぐって本殿に詣でた。下鴨神社には、本殿の脇に干支ごとの神様を祀った言社という小さなお社があって、各々ここにも参拝した。

 以前、妹2人と深夜の初詣に出掛けた時の日記でも書いたが、僕は近頃決まって、「みんなが笑って暮らせますように」と願うことにしている。ここでもその例に漏れず、同じ願い事をする。その後で、一言だけ付け加えた。「何事もメリハリをつけて、迅速に行うことができますように」メリハリという言葉を敢えて入れた辺りに、旅の疲れと肩のハリが響いているなと、今更ながらに感じる。

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 中門をくぐって舞台の裏手に出たところで、僕らはおやっと思う人物と出会った。もう1人の参加者の方である。その隣に、女のお子さんの姿があった。お子さん連れだったので、この方だけ別行動だったのだ。

 11人の視線が一斉に女の子に集中した。「かわいいですね」「似てますね」といった感想が飛び交う。彼女はコチコチになって一度お父さんの足もとに身を潜めたが、程なく再び姿を現すと、「お名前は?」などの質問にはにかみながら答えていた。

 そんな一幕を挟んだのち、僕らは御手洗社の方へ向かった。ここでは水みくじというものを引くことができる。紙をお社前の川に浮かべると文字が浮かび上がるというおみくじだ。僕は滅多におみくじを引かないが、水みくじは無性に引きたくなる。先陣切って紙を買い求める。だが、それから暫く売店をウロウロしていると、気付いた時には他のみんなに先を越されていた。迅速な行動よいずこへ往かむ。

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 肝心のおみくじは末吉であった。あまり深く気に留めぬようにしているが、1つ気になる項目があった。

「恋愛 片想いあきらめよ」

 今年もダメか。

 そう声に出して言った瞬間だった。

「何を言ってるの。想われたらええんやん!」

 お土産を喜んでくださった方からスパーンと一言返ってきた。

 目からウロコとはこのことである。

「めっちゃポジティブですね」

 別の参加者が、笑いながら感想を言う。

「よく言われる。斜め上の発想って。エヘヘ」

 そう言って笑い合いながら、僕らは続いて朱印所へ、そして、御守などの売店へと向かった。

 余談であるが、僕がひくおみくじには、恋愛のところに厳しいお言葉が並んでいることが多い。去年の3月に貴船神社に詣でた際、水みくじがあったので引いたところ、「恋愛 無駄口を慎め」という呆気に取られるほどシンプルな言葉に心を一突きされて、思わず休憩所でへたり込んだ。もっとも、その後の自分を振り返ってみるに、とかく口は減らず、会社でも一言どころか「常に二言三言多い」と言われる有様で、それでも飽き足らずブログまで始めるときている。

 こういう助言に耳を貸さぬ態度をまず改める必要があることに、僕は早く気付くべきである。

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 さて、御朱印である。買いたての御朱印帳を取り出し、朱印所へ並ぶ。受付で御朱印帳を差し出すと、巫女さんが、その場で筆に墨をつけ、流れるように、しかし要所要所できっちり筆を止めながら、社名と日付をしたためる。それから御朱印と、緑色の葉っぱの印(下鴨神社の御神紋の「カモアオイ」という植物らしい)が押された。新たに記された御朱印にうっとりしながら、僕は朱印所をあとにした。

 それから、特にあてもないままに売店へ入る。すると、「森見登美彦のなんかがありますよ」と声を掛けられた。案内されるままに行くと、『有頂天家族 二代目の帰朝』のアニメ告知ポスターが額縁に収められていた。そりゃそうだ、下鴨神社は主人公の狸たちの棲み処だもの、と油断していた僕だったが、改めてポスターを見て驚いた。「下鴨神社さま 森見登美彦」というサインを、ど真ん中に見つけたからだ。

 俄かに血湧きたった僕が写真部魂を発揮したことは言うまでもない。

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 かくして僕らは楼門をくぐって外へ出、一礼してもと来た道を引き返し始めた。そして、手水舎の真向かいにあるお茶屋さんに入って休憩した。時刻は14時半を回ったところだった。参加者の中にはお昼を取らずに来た方もいたようで、遅い昼食になった。

 ところで、楼門からお茶屋さんに行くまでの間に相生社という縁結びのお社がある。「連理の賢木」という、2本が途中から1本になる不思議な木を祀ったお社だ。その前を通りかかるや否や、「あなたは行っておいで」と背中を押され、狼狽しながらもとにかく詣でた。したがって、僕がお茶屋に着いたのは、「ご縁がありますように」という慣れない願掛けの後であった。

 戸外の席でおしるこをすすりながら、話に興じる。読書会の今後を巡り、様々な妄想が膨らんでいた。彩ふ読書会は大阪・京都のみならず、東京・名古屋でも開催されている。そこで、各地の参加者が一堂に集う旅行型の出張読書会をしたいという話が、以前から出ているらしい、とか。

 実は僕にも、読書会でやりたいことがあった。リレーマラソンへの出場だ。これだけアクティブな人が揃っているのだから、きっとできると信じている。個人でロードレースに出るのはハードルが高いが、リレーならみんなで出られるし、大会を選べば距離もそれほど長くはならない。そんな話を、実際に参加した大会の話を交えてやると、「出たい」という声を何人かからいただいた。俄然実現に向けてやる気が起きる。

 読書会は、やる気と行動力を貰える場なのかもしれないと、僕はふと思う。

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 お茶屋をあとにした僕らは、それから河合神社へ向かった。下鴨神社境内の南に鎮座する河合神社は、美の神様を祀った女性の神社と謳われている。もっとも、身も心も清く美しくありたいという願いは万人共通であろうから、下鴨神社へ来るからにはここにも寄りたいと僕はずっと思っていた。さらに、河合神社は『方丈記』の作者・鴨長明ゆかりの神社でもあり、境内には鴨長明が住んでいた方丈庵が復元されている。『方丈記』は冒頭の一節しか知らないが、日記書きとしては押さえておきたい場所である。

 もと来た道を逸れ、幅の広い馬場を歩いて河合神社へ向かう。参拝客を乗せた馬車が僕らを追い抜き、終点で引き返してきて、僕らとすれ違った。僕らはまたそれぞれに話している。その中に、後に我々が「兄弟」と呼ぶことになる男性2人組の姿があった。2人とも短髪でメガネをかけ、黒いコートに身を包み、知的ないでたちで話し込んでいる。と、突然彼らの間から「脱税」という言葉が飛び出した。それを聞いた参加者が「これじゃ美しくなれないですよね」と感想をこぼしたので、思わず笑った。

 境内に入ってからも2人はずっと話していた。そして、いよいよお参りという時になって、賽銭箱の手前で「お賽銭は非課税です」という話を始めた。お二方よ、とりあえず税から離れたまえ。それができぬなら仕方ない。お社から離れたまえ。

 参拝を終えた方々は、本殿に向かって右手にある絵馬に見入っていた。河合神社の絵馬は「鏡絵馬」と言って、手鏡の形をした絵馬に顔が書かれており、参拝者はその顔にお化粧を施して願掛けする。もとは同じ顔をしていたはずの鏡絵馬だが、並んでいる顔は全て違っていた。髪を伸ばしているものが多かったが、中にはメガネをかけているものがあり、手の込み具合が感じられた。

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 「これからどうしましょっか」河合神社を出たところでそんな話になった。元々みたらし団子を食べようという話が出ていたが、お茶屋さんへ行くにはもと来た道を戻らなければならない。

 その時ふと、豆大福で有名なお店があるのを思い出した。去年の11月に森見登美彦オフ会に参加した時、集合までの暇つぶし中に先輩に教えてもらったのだ。「ふたば」というお店で、出町桝形商店街の入口にある。河合神社からだと、出町柳駅へ戻るように進み、途中でちょっと寄り道すればいいだけだ。結局あの時豆大福は食べなかったから、僕としても有難いチャンスを手にできる。

 幸い、この提案はすぐさま通り、僕らは連れ立ってふたばへと歩いて行った。「ふたば」を知っている人は他にも何人かいて、「有名ですよ」「並びますよ」などと言い合っていた。

 果たして、「ふたば」には、店の前を塞ぐほどの行列が3ないし4層をなしていた。そこへ僕らが大挙した。なお、お子さんを連れてきていた方とは河合神社の前で分かれており、僕らは再び11人になっていた。ともあれ、大福目当てに長蛇の列に混じる11人の大人たちの絵は、壮観であったに違いない。

 皆さんはお土産用に沢山買われていたが、僕は独房生活者なので、自分がその場で食べるように豆大福を1個だけ買った。そして、出町柳駅へ向かうまでの間に食べた。最初の一口は皮の上の方で止まってしまい、なんともしょっぱかった。が、二口・三口と進めるうち、その塩気と、あんこの甘さが程よく絡み合い、美味しくなった。

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 と、僕は実に呑気な感想を書いているが、実はすぐ隣で驚くべき事件が起こっていた。連れ立って歩いていた方の豆大福が、トンビに攫われたのである。

 その時、僕はぼんやりと、随分近づいてくる鳥があるものだなあと思っていた。しかし、ヤツが去った次の瞬間、異変に気付いた。隣の方がさっきまで持っていたはずの大福が、ないのである。ついでに言うと、大福の包み紙もないのである。トンビという鳥はどこまでも雑食であるらしい。いや、そんなことをいっている場合ではない。

 幸い、隣の方にけがはなかった。もっとも、一瞬何かが手のひらに当たった感じはしたという。気のせいかなと思ってもう一度見ると、大福は既になかったそうだ。ともあれ、無傷で事無きを得たその方は、残るもう一つの大福を大事に鞄にしまって、駅前まで向かわれた。「和菓子は鮮度が命」と言って、他の方が買われている間に桜餅を丸呑みしてしまった方が「だから言ったでしょう」と、合っているようなそうでないようなことを言って、笑いを取っていた。

 こうして、ハプニングはありつつも、無事初詣が終わった。

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 最初にも書いたことだが、大人数で神社に行くことがまずないので、この初詣は新鮮なことだらけだった。その面白さに身を任せているうち、疲れを忘れて楽しめた。

 出町柳駅に着いたところで、神社仏閣部に入部した。あとから聞いた話によると、この日参加した全員が神社仏閣部に入部したそうである。実際、神社仏閣部は散歩部的な要素を兼ね備えており、ちょっと出かけるには丁度いいのだった。

 というわけで、いずれまた神社仏閣探訪レポートが上がると思いますので、宜しくお願いします。ともあれ、今回はここまで。