1週間ぶりに、会社帰りにカフェに寄り道した。

 半月ほど前から時々、カフェに寄り道をするようになった。家に帰るととにかく気分が緩んで何もしたくなくなるからだ。家では怠けるがカフェでは自制がきく。それは、カフェという場所が、居心地よくくつろげる空間であると同時に人の集まる公共空間であり、したがってそこに、他者の気配というものが必ず感じられるからであろう。

 さて、今日カフェに寄ったのは、2つのことをするためであった。1つは、小川洋子さんの『博士の愛した数式』を読み終えること、そしてもう1つは、来月の家計支出の計画を立てることである。並べて書くと、よくもまあこの2つを同時にやったもんだと思えてくる。が、僕は昔から、感動的な小説を読んだ直後にツムツムをするような人間で、こういうちぐはぐな行動をわけもなくやってのけてしまう節がある。

 『博士の愛した数式』——映画にもなった往年の話題作で、以前から気にはなっていたが、読むのはこれが初めてだった。とにかく静かで、繊細で、とても美しい作品というのが率直な印象である。物語のどの部分が印象的だったとか、この箇所がすごいとか、そういうことは何も言えないし、本当に読んだのか怪しいくらい、中身に関する記憶はあやふやだけど、なんとも言えない静謐さを胸に残していく作品だった。機会をみて再読し、じっくり味わうのもいいかもしれない。

 そんな静かな作品を、コーヒーを片手に読んだ後で、明日以降1ヶ月分の支出計画などというめたくそ現実的な物事を考える。やっぱりおかしな話である。しかも、当人が違和感を覚えていないのだからますますおかしい。

 こういう現実的な計画について仔細に記述するのは差し控える。代わりに、計画を練る最中頭に浮かんできた、つぶやきともぼやきともつかぬ言葉を残しておきたい。節制はするが我慢はしない。そんな金の使い方がしたい。以上である。

 カフェには1時間程度いて、それからすぐに家に帰った。家に帰ったあと僕がどうなったかは、皆さんお察しの通りである。

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 10月には『博士の愛した数式』の他に3冊の本を読んだ。10月の読書記録は、いずれまとめてつけようと思う。