会社帰りにカット専門店へ寄り道をして、2㎝ほど髪を切ってもらった。

 僕は1ヶ月半~2ヶ月に1回散髪に行く。それくらいの頻度で、自分の髪のうるささにイラッとしてしまうからだ。

 僕の通っていた中学・高校には頭髪検査があって、耳や眉に髪がかかっていると「部活を休んで散髪屋へ行きなさい」という指導が入ったものだった。こんな話をすると今日どういう反応が返ってくるのかという教育論議はともかく、この校則の下で育った結果、僕の中では、髪は耳にかからないのが当たり前になった。今でも、髪が耳にかかるとイライラしてくる。このイライラがだいたい1ヶ月半から2ヶ月周期でやって来るので、必然的に、僕は同じ周期で散髪屋に向かうことになる。僕の散髪サイクルは、中高時代の習慣によって培われた。そして、振り返ってみれば、学生時代を含め、このサイクルは変わっていない。習慣の力は恐ろしいものである。

 ともあれ、また周期が巡ってきて、僕は髪を切ってもらった。

 散髪へ行くたび、明日「髪切った?」と尋ねられるだろうかという期待が心の片隅をよぎる。ずっと前に誰かから聞いた話だが、「髪切った?」と尋ねることができるのは、物事の些細な変化に気付くとても大切な力を持っている証なのだそうだ。それを知って以来、僕は「髪切った?」と訊かれることが楽しみの1つになった。本当は自分で言ってなんぼなのだけれど、僕は変なトコロで遠慮してしまう性質で、未だこの言葉を使ったことはない。気付くことはあるのだけれど。

 さて、回転椅子の上でうつらうつらしているうちに、散髪は終わった。預かってもらっていたメガネを受け取り、鏡に映る自分の顔を確認する。

 あんまり変わらないなあ、というのが正直な感想だった。明日自分の顔を見ても、「髪切った?」とは言えそうにない。

 それでも、外へ出ると、夜風が頭皮に触れて、心なしか寒かった。